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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅲ 

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〈4〉ある昼の風景


 そうして、メンバーたちは指示通りにリレスティの町を中心に噂を流した。

 情報操作の得意なサマルはもとより、クオルの善戦もあってか、『レイヤーナの調査官』の噂はすぐに広まった。


 そして、あの集会から二日が経過する。

 ゼゼフはリレスティの隣町、エイルルーにいた。ロイズ、エディア、ティーベット、フーディーも同じくエイルルーにいる。それから、プレナも。プレナは今回、念のために作戦には参加せずにいるということで落ち着いている。また、リッジという人物に攫われる危険があるとのことだ。


 エイルルーにも調査官の噂は広まりつつあった。ただ、それはゼゼフの功績ではない。

 引っ込み思案で人見知りなゼゼフに、見知らぬ人と会話をし、噂をそれとなく耳に入れるというのは困難なことだった。挙動不審で怪しまれては元も子もない。用ができたら呼ぶから、それまでは待っていろと去り際のザルツに言われてしまった。

 しょんぼりと肩を落として職場のレストランに出勤したゼゼフは、風邪で休んでいた親友のシュティマが復帰していることで元気を取り戻した。


「シュティマ!」


 まだ本調子ではないらしく、顔半分を覆ってしまうような大きなマスクをしていたけれど。


「具合、どう? 大丈夫?」


 ゼゼフが尋ねると、シュティマはテーブルクロスを広げながら目だけで微笑んだ。マスクのせいでくぐもった声で言う。


「ありがとう、ゼゼフ。まだ咳が出るから、マスクは外せないんだけど。……ね、そっちはどう? 今度はなんだって?」


 本来なら、シュティマもゼゼフと共にレジスタンス活動に参加する予定だった。けれど、風邪をひいてしまったり、タイミングよく仕事が休めなかったりと、未だ顔合わせすらできていないのだった。

 ただ、こうして尋ねて来ることからもわかるように、興味はあるのだ。都合が付き次第、参戦することとなるだろう。シュティマは気が利くし、頭の回転も速い。きっと、役に立つはずだ。


「あ、うん。でも、今回の作戦、僕には向いていないから、待機してたらいいって……」

「どんな作戦?」

「まず、噂を流すんだって」


 それでシュティマは納得したようだ。黒い瞳が気遣うように笑う。


「ああ、ゼゼフは人見知りだから」

「うん……シュティマなら人当たりがいいし、うまくできるよね」

「さあ? あ、今ならマスクしてるから、顔に出てもバレないかも」

「あはは、それじゃあ余計に怪しいよ」


 シュティマも一緒に笑う。それから、今度は真剣な表情になった。


「もう体調は大丈夫だから、仕事は僕がなんとかするよ。ゼゼフはこれから活動で忙しくなるしね。もちろん、僕も新しい人が入ったらすぐに抜けて活動に参加するよ。……それとも、僕が活動に専念して、ゼゼフが店に残る方がいい?」

「え、と……」


 この時のゼゼフは、こんなことを考えてしまった。もし、先に有能なシュティマが活動に参加したなら、後から来た役立たずの自分はもういらないと言われてしまうのではないかと。

 だから、選んだ。


「じゃ、じゃあ、先に活動するよ」


 わかった、とシュティマはうなずく。ゼゼフのこずるい考えなどに気付きもしないのか、気付かない振りをしてくれているのか。


「がんばって――って、そういえば、噂ってどんなの? 一応、僕もそれとなく流してみるから」

「さすがシュティマ! あのね――」


 ひそひそと内容を伝えた後、ゼゼフは思い切ってマスターに長期休暇を願い出た。すると、マスターは驚くほどにあっさりと受け入れてくれたのだった。シュティマがいるから困らないのだろうが、ゼゼフは複雑な心境になり、家に帰ってから一日へこんでいた。


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