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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅲ 

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〈3〉彼女の采配


「リレスティに来たそもそもの目的は、戦力強化だ。何か考えがあれば教えてほしい」


 と、ザルツはユーリに意見を仰ぐ。事情を知らない仲間たちにしてみれば驚くべきところだが、彼女は平然と微笑んだ。


「戦力強化も大事ですが、お話を伺ったところ、優先すべきは別のことなのではないでしょうか?」

「え? どういうこと?」


 ぽかんと口を開け、レヴィシアは尋ねる。


「ええと、あなた方の戦いの最終目標が民主国家の実現だとされるのなら、国内において発言力のある人物との繋がりが必要となる……そういうことです」

「つまり、身分も何もない庶民の俺たちだけでは、話にならないってことか?」


 ティーベットの声が張り詰めた空気を作る。ユーリは苦笑して首を傾けた。


「非常に困難ですね。歴史とは常に、後に名を残すことができる身分の者が書き換える。それが現実ですよ。ですから、身分のある者の協力が必要なのです」


 あまりのことに、レヴィシアは口が利けなかった。彼女の言葉は、きっと正しい。わかってはいるものの、それは認めたくないことだった。

 どんなにがんばっても、レイヤーナを退けたところで、自分たちの声は届かない。

 レヴィシアの顔に、その不安が表れていたのだろう。ユーリは明るい声音で言った。


「大丈夫。仲間を一人増やすだけのこと。身分があろうと、なかろうと同じです。たとえ貴族でもただの人。そう難しく考える必要はないですよ」


 貴族など、接点は何もない。どうすればいいのやら、見当も付かなかった。


「簡単に言うね……」


 と、シェインもぼやく。けれど、ユーリは淡々と続けた。


「すみません。まあ、これは私が勝手に立てた策ですので、話半分に聴いて下さって結構です」

「え、あ、うん」


 とりあえず、レヴィシアはうなずく。


「では、まずシェーブルの上層部が国の混乱を一刻も早く収めるために、レイヤーナに正式な協力を仰ぎ、会合が秘密裏に行われたという噂を流します。その結果、レイヤーナからの調査官を各地に受け入れたと」

「うん……」

「噂が蔓延した後、調査官と誤解されるような人をターゲットの貴族に接触させます。属国になり得る未来を予見した恭順か、その未来を否定しての回避か。どちらの動きをみせるかによって、協力を求める相手を見定めましょう。協力を要請するのはもちろん後者ですが、前者にも使い道はありますし」


 ユーリの言葉に、レヴィシアは首をかしげた。


「使い道って?」

「そこは追々……ですね」


 意味深に微笑む。そんな中、ザルツが口を開いた。


「そうだな、それと平行してやっておきたいこともあるんだが」

「あ、酒場で聞いたあれか?」


 共にいたサマルの言葉に、ザルツはうなずく。


「この町には以前から、失踪事件が相次いでいるらしい。庶民ばかりが狙われていると……」

「どうも、男女問わず、若くて見目のいい子が多いらしいよ。この町に自警団はいなくて、貴族の私兵がそれに当たるんだけど、庶民相手だからあんまり真剣に対処してくれないんだってぼやいてた」


 華やかなこの町の裏で、そんな風に泣き寝入りしていた人たちがいたなんて。レヴィシアはやり場のない憤りを感じた。けれど、彼女とは対照的に冷静なユーリは、なるほどとつぶやく。


「貴族が関わっているのかも知れませんね。よくある話と言ってしまうのも申し訳ないですけど」

「何それ! 身分のない人は貴族のおもちゃ? やっぱり、貴族なんて仲間にできるとは思えないよ!」

 レヴィシアが一人でわめいていると、ユーリに苦笑されてしまった。

「すべての貴族をひとくくりにはしないでおきましょう。それでは話が進みません」


 う、と言葉に詰まる。もともと、レヴィシアがあまり貴族が好きでないのは事実だ。

 すると、そこで黙っていたロイズが口を開いた。


「君が言うところの、味方に付けるべきではない貴族の利用法とは、もしかして、悪役として退治されるという役どころか?」

「はい。それもあります」


 ユーリはあっさりと言った。


「そりゃあいいな。そうしたら、俺たちの名声は上がって、協力者も増える」


 ティーベットとが野太い声で笑う。ただ、フーディーはユーリの含みのある口調が気になったようだ。


「かわいらしい顔して、このお嬢さんはなかなかだのぅ」


 と、嘆息する。そんな様子を、アーリヒは快活に笑い飛ばした。


「いいじゃないか。頼もしくて。アタシは気に入ったよ」


 ざわついた中、ザルツが軽く手を打って視線を集める。


「それじゃあ、手始めに町中にレイヤーナの調査官の噂を撒こう。特にサマルとクオル、頼む」

「え、ボク?」


 急に呼ばれたクオルはきょとんとした。


「ああ。こういった噂は、子供の口から親に伝わった方が、出所も知れにくいし、都合がいい。頼んだぞ」

「うん!」


 クオルは俄然張り切る。うまく行けば、レヴィシアにほめてもらえるのだから。

 ただ、とザルツは続けた。


「それぞれが町を徘徊する時、絶対に一人にはならないこと。周囲に誰かの存在を確認できる範囲でいるように。異変を感じたら、すぐに知らせてほしい」


 それを補足するようにユーリは言う。


「待機班は『白鹿亭』ですから。私とレヴィシアさん、ユイさんは常に控えています」


 レヴィシアは、えぇ、と不満げに声をもらした。居残りなんて、つまらない。けれど、ルテアがそれにすかさず反応した。


「お前がうろうろしてたら、みんなが作戦に集中できないだろ。おとなしくしてろよ」

「レヴィシアの顔を覚えている人間がいないとも限らないからな」


 ユイまでそんなことを付け足す。ふくれたレヴィシアに、ユーリはにこやかに言った。


「ほら、戦いの最中、大将は闇雲に動くものではありませんよ。大将を捕られたら、戦は負けです。兵を信じ、待つことも大将の仕事でしょう?」

「ぅ……はい」


 もっともな意見である。


「ちなみに、調査官に扮するのはリトラ、補佐官という名目でザルツさんが共に動かれるということでいかがでしょう?」


 リトラは途端にひどく嫌そうな顔をした。けれど、嫌なことほどさっさと終えてしまいたいのか、逆らうことはなかった。ザルツも小さくうなずく。


「そうだな。そうさせてもらおう」



 皆が納得したところで解散となった。

 それぞれに散らばって戻る間に、ユーリは木陰からその中の一人を手招きして呼び止めた。


「ルテア君、ちょっといいかな?」

「へ?」


 何故だか、ルテアは嫌な予感しかしなかった。


 今回、ユーリが参謀役なので、ザルツは外で働きます(笑)

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