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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅱ

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〈33〉答えは

 レヴィシアたちはリレスティの宿を発った。


 指定先はリレスティ南の廃屋だという。この中でその場所を知る者はいなかった。けれど、サマルが地元の人間に場所を尋ね、確認した。人々の記憶から忘れ去られかけているその場所を、なんとか思い出してもらう。

 レヴィシア、ユイ、ルテア、ザルツ、サマル、それから、残れと言われても従わなかったエディア。それに加え、謎の青年。実を言うと、レヴィシアも残れと言われたが、断った。


 拘束された時、使い慣れた短剣を取り上げられ、それ以降レヴィシアは丸腰である。うまく手に馴染むものが見付からず、今もまだ戦えない。危険だと言われるのも仕方なかった。

 けれど、この中でリッジが一番話をさせてくれるのは、自分のように思える。何とかして止めたいと思うから、行かないわけにはいかなかった。



 森に差しかかり、明るい日差しが木々の間からこぼれる。その寂れた館は、並木を抜けた先にあるのだという。歩き続けると、まだ若い緑の中に館が切れ切れに見えた。あの荒れ果てた中に、プレナとリッジはすでにいるのだろうか。


「ユイはリッジを頼む。ルテアはレヴィシアから離れないように」


 ザルツの指示に、ユイとルテアはうなずく。けれど、レヴィシアはかぶりを振った。


「あたしはいいから、ルテアはザルツとサマルに付いてよ」


 その一言に、サマルは静かに言う。


「俺はいいよ」

「でも!」


 その先を、ザルツが手で遮った。それから、微笑んだ。そんな風に笑ったのはいつ振りだろうか。その穏やかな微笑みに、レヴィシアは剣呑な何かを感じてしまう。安心感ではなく、胸騒ぎを植え付けられた。案の定、彼の口から出た言葉に胸が痛くなる。


「レヴィシア、お前に頼みがある」


 何も答えなかった。それでも、ザルツは続ける。


「プレナが泣いていたら、慰めてやってくれるか?」


 レヴィシアの隣をすり抜け、サマルは先頭に立って振り返った。


「俺からも頼むよ」


 その横に、ザルツも立つ。二人は同じような表情を浮かべ、不安げな仲間たちを見ていた。


「止めてよ……」


 レヴィシアは思わずつぶやいた。

 そんな彼女に、ザルツは尚も優しく微笑み続ける。


「本当は、俺一人と交換でいいんだ。リッジはそれでも納得する」

「でもな、ザルツだけ犠牲にはできないから、俺も行くよ」


 二人の声は不思議と落ち着いていた。二人一緒だから、心強いとでもいうのだろうか。


「何それ……理想を実現するまで付き合ってくれるんじゃないの? あたしが同じことをしたら怒るくせに、そんなのひどいよ!」


 レヴィシアは、目頭が熱くなって痛んだ。悲しいからではない。腹が立つからだ。

 志半ばで放り出したことよりも、プレナを一番傷付ける方法を選んだことが許せない。

 真剣に理想の実現を目指していた二人は、改革を振りかざせば思いとどまってくれるのではないかと、願いを込めて叫んだ。


 けれど、ザルツはなんの弁明もしないまま、ただ一言すまないと謝るのみだった。そんな潔さはいらない。

 サマルは、最後に一度顔をくしゃりと歪めた。


「ごめんな。こんな結果になって悪かったけど、みんなが――」


 その言葉の先を口にしようとしたサマルの頬を、飛び出して来たエディアが手加減なしに平手で打った。その音が大きく響き、レヴィシアは握り締めていたこぶしを下ろした。先を越されてしまった。

 唖然とする一同をよそに、エディアは分け隔てなくザルツの頬も打った。かわすつもりがなかったようだ。眼鏡が少しずれる。

 エディアはピシ、と背筋を伸ばし、二人に向かって声を張った。


「無神経にもほどがあります!」


 レヴィシアは思わず拍手したくなった。男二人は情けなくエディアの視線をうつむいて避けている。


「お二人がプレナさんのために犠牲になるだなんて、そんな慰めも届かないような淵に立たせて、助けたなんて言えますかっ? それをわかっていて逃げるなら、あなた方は卑怯です!」


 二人が選んだのは、自分たちが苦しまない方法だ。本気で彼女のためを思うなら、彼女に何があろうと生きるべきだ。

 それを指摘する彼女の言葉は、二人にとって痛いものだっただろう。それでも、レヴィシアは耳を塞がずにいてほしいと思った。エディアは自分の気持ちを押し込めて、大事な人を守ろうとしている。命を投げ出すようなやり方より、ずっとつらいことのように思えた。


「……ごめん。でも、俺は耐えられない」


 うつむいたサマルの声が震える。

 その姿は叱られた子供のように弱い。エディアは一転して柔らかな声音で言う。


「諦めてはいけません。最後まで、みんなが笑える道があると信じましょう?」


 声にならないうめきを、サマルはこぼしていた。



「――話が長い。さっさと進め」


 この空気の中でも、あの青年だけは興味など微塵もないようだ。うっとうしそうに眺めている。

 その一点のみ、足並みもそろわないまま、レヴィシアたちは打ち捨てられてその館へと向かった。 

 

 しばらくおとなしかったのですが、エディアは怒る時はきっちり怒ります。初登場の時から根っこは変わっていませんので。

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