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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅱ

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〈15〉押送

 椅子に座ったままで寝てしまった。寝るつもりはなかったのに、疲れていた。

 ひどく申し訳ない気持ちになり、レヴィシアは心配をかけている仲間たちに心の中で謝った。

 ただ、体勢が体勢なだけに、体はあまり休まった気がしない。拘留所の中で爽快な目覚めなど期待する方がどうかしているのかも知れないが。

 目を擦って顔を上げると、檻の外にはニカルドの姿があった。寝ずの番でもしていたのだろうか。


「ようやくお目覚めか」


 と、皮肉を言われたので、レヴィシアはそっぽを向く。

 すると、ニカルドはその横顔に低く声をかけた。


「もうすぐ、お前の押送の準備が整う。そうしたら、すぐに出立だ」


 送られる先はどこだろう。

 いきなりヴァンディア監獄ではないと思うが。あそこは半年前に破ったところだ。

 そうなると、まずは王都ネザリムかも知れない。平民の自分に裁判なんてしないだろうけれど、とりあえず取調べくらいはあるだろう。

 王都なら、馬車で一日半もあれば着く。それまでが勝負だ。到着してしまえば、もうどうにもならない。この道中が命運を分ける。だから、お互いが全力でぶつかることになるのだろう。


「支度が整いました」


 部下の一言により、ニカルドはレヴィシアのいる鉄格子の扉を開いた。


「覚悟はいいな?」


 レヴィシアは返事の代わりににらみ返す。

 そして、ニカルドの部下が二人、牢の中に入り、レヴィシアの両手を後ろに回すと革のベルトでしっかりと固定した。抜けないように、強めにはめられる。


「急げ」


 ニカルドがそう促す。レヴィシアはようやく檻の外へ出られた。

 けれどそれは、自由とは程遠い。



 拘留所を出た途端、薄暗さに慣れてしまっていた目は、外の明るさに付いて行けなかった。あまりのまばゆさにレヴィシアは顔をしかめる。

 白光の中で目が慣れると、さまざまな輪郭が浮かんで来た。敷地の周囲に張り巡らされた柵の辺りに、敷地を取り巻くようにたくさんの野次馬がびっしりと占拠している。その人の多さに、レヴィシアも唖然とした。レヴィシアの姿が見えた途端、ざわめきが大きくなる。その好奇の視線が無数に突き刺さった。


 けれど、その中のひとつに目が留まる。

 少し浅黒い、垂れ目の青年。

 群衆に溶け込むのはうまいけれど、少し前に出すぎなのではないかと思う。顔を覚えられたらどうするのだと心配し、自分の方が大変なことになっているのだと思い出した。

 慣れ親しんだ仲間の顔を見て、レヴィシアの心は穏やかになれた。言いようもなく嬉しい。

 ただ、その一点を見続けてはいけないと、わざと視線を外しながら盗み見る。サマルもとぼけた表情を保っていたが、微かにうなずいた気がした。


 そうこうしているうちに、レヴィシアは背を押され、用意されていた馬車に乗せられる。ニカルドと、レヴィシアの両脇に控えた部下たちも続けて乗り込む。レイヤーナ軍の姿はなかった。やはり、協力は求めなかったのだろう。

 それから、馬車を囲むようにして、騎乗した護衛が十数人、前後に付き従う。馬車は野次馬を蹴散らすように、ゆっくりと出発した。



 馬車は罪人の押送に相応しいような頑丈なものではなく、ごくありふれた車体だった。きっと、急なことに対応し切れなかったのだろう。中のカーテンが引かれ、外の様子はまるで見えない。

 レヴィシアは目を閉じて深呼吸を繰り返した。



         ※※※   ※※※   ※※※



「――ちゃっちい馬車。こりゃあ、やっぱりザルツの読み通りか」


 サマルは群衆から抜けると、建物の陰に消える。そうして、全力で駆け出した。

 馬車の行く手に先回りすると、息を落ち着け、木陰から馬車を待つ。

 レヴィシアを乗せた馬車は、カラコロと音を立てながら遅々と進んで行た。けれど、ある交差点に達する頃、進行方向から向かって来た馬車がすれ違う。その馬車は群青の車体に錆の付いた安っぽいもので、レヴィシアの乗る馬車と同じ形をしたものだった。


 そうして、サマルはその瞬間を確かに見た。


 荷台の馬車がすれ違う瞬間、レヴィシアの乗る馬車の周囲にいた護衛がすべて、もう一台の馬車の周囲へと移る。そのまま、何食わぬ顔で去って行った。

 レヴィシアを乗せた本物の馬車が向かった方角は港の方だ。


「フン、浅知恵だな。ま、その方が助かるけど」


 小さくつぶやくと、サマルは再び駆け出した。


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