〈14〉師匠と弟子
朝日が差し込む工房の中、明るい光ほど忌々しいものはないと言わんばかりの形相で、スレディは顔を上げた。机に突っ伏し、それを遮断して眠ろうとしたけれど、一度目が覚めてしまった以上、もうどうにもならなかった。
無理な姿勢で眠ったせいで、老体にはこたえた。節々が固まって、ギシギシと痛い。
恐る恐る伸びをすると、背後で扉の開く音がした。同時に、間延びした声がする。
「おはよーございます」
「ん……なんだ、遅ぇな」
スレディは、寝起きのためか普段よりもいっそう目の細くなっている弟子を、ピントの合わない目でなんとか眺めた。
ごちゃごちゃと散らかった工房の机の上には、工具や図案と一緒に酒瓶が二本。スレディはしばらくぼうっとしていた。そんな彼に、弟子であるフィベルは冷ややかに言った。
「いつも通り。師匠が珍しく早いだけ」
フィベルは洗い桶に瓶から水を汲み、顔を洗い出した。その背中にスレディは話しかける。
「ほら、あれ、あの垂れ目、名前なんつった?」
顔を上げたフィベルは、首から提げたタオルで水滴を拭き取りながら答える。
「サマル君」
「そう、そいつ。昨日、来たのか?」
「来たけど、帰った」
「なんだよ、ちょっと待たしたくれぇで、忍耐足りねぇな。駄目だ駄目、使えねぇ」
吐き捨てると、机の上に積み上げてあるその他諸々の中から葉巻を取り出し、先を食いちぎってから、すぐそこの適当なグラスの中に吐き出した。フィベルは常に絶やさない火種に木屑を差し込み、そこに火を移して差し出した。そして、ぼそりと言う。
「待ってたけど、妹さんが呼びに来た」
「妹ぉ?」
煙を一気に吐き出す。最初の一口で煙草を吸う意味を考え、いつも曖昧に終わる。
フィベルは表情もなく、ただ首をかしげた。
「なんか、大変そうだった」
「はぁん? なんだそら。……まあいい。やつの家庭の事情なんざ、知ったことか」
「でも、尋ねた。師匠にしたら珍しい」
スレディは、この礼儀知らずな弟子を放り出したい気持ちでいっぱいだった。
「うるせぇな」
「ぼうっとしてるのも変」
無口なら無口で、余計なことを尋ねない、言わない、そういう利点があってもよさそうなものだが、この男は言葉を短くするだけで、本質はおしゃべりなのだ。核心ばかりを突いて来る。ただただ腹の立つやつだ。
スレディはフィベルのすねを手加減なしに蹴った。顔に変化は見られないが、フィベルは痛い、と小さくぼやいている。
「うるせぇってのに、黙らねぇからだ」
吐き捨てると、フィベルの糸目はスレディに向けられた。どこか反抗的な色がある。
「少し、気になるから」
「あぁ?」
スレディは、渋面で煙草をグラスに残った酒に落として火を消した。なんとなく、吸う気が失せた。
「師匠、今日は特に変。感傷?」
本当に叩き出してやりたい。けれど、それも面倒だった。
「どいつもこいつも、つまんねぇんだよ。俺の仕事に足る人間が、客ん中にいるか? すっげぇ虚しくなんだよ」
「客、選り好みしてるのに?」
「激しく妥協してるだろうが。そんなんじゃねぇんだよ。もっと、こう――」
言葉に詰まって頭を掻くスレディに、フィベルは嘆息した。
「例えば?」
スレディはぴたりと動きを止め、淡い色の瞳を上に向けた。
「そうだなぁ――」




