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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅰ
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〈3〉作戦会議 前編

 奥の部屋は、ユイとザルツが寝室として使っている部屋だ。

 殺風景なその部屋で目を引くものといったら、簡素なテーブルと几帳面に整えられたふたつのベッドしかない。

 テーブルの奥にレヴィシアとユイが、手前にザルツとプレナが立った。


「ね、早く聴かせてよ」


 手を付いて身を乗り出すレヴィシアに、プレナはにっこりと笑って答えた。


「はい、リーダー」


 レヴィシアこそ、この四人が立ち上げたレジスタンス組織『フルムーン』のリーダーだった。




 ここ近年、この国ではたくさんのレジスタンス組織が結成され、潰され、また生まれ、それを繰り返している。

 主君を失った臣下たちは、抵抗組織の平定に力を注ぐが、王位空席のままの状態では一枚岩ではない。王位に誰を祭り上げるかという大きな問題に直面し、意見の対立は激しく、事態はこじれるばかりだった。

 結果、内乱の平定を援助するという口実を、他国に許してしまうのは皮肉な話だ。

 そうして今、この国には隣国レイヤーナの兵が多く入り込んでいる。

 逆隣のキャルマール王国は、沈黙を守った。うかつに手を出す危険性を重視してのことだろう。


 レヴィシアたちも、そんな数ある組織の中のひとつだった。

 ただ、異色であるとしたら、それはこのリーダーの存在だろう。


「現在最大規模のレジスタンス組織『ゼピュロス』のリーダー、ロイズ=パスティークが捕まった今、国民は塞いでいる。俺たちも旗揚げする以上、ヘマはできない。……特にお前は人一倍、失敗が許されない。わかってるな?」


 そうザルツが口にした途端、レヴィシアの表情が一変した。真剣な強い眼差しをザルツに向ける。


「わかってるよ。お父さんの時と同じ。あたしはみんなの希望を背負う。絶望なんて与えたくないから」

「お前はまだ十六歳だ。けれど、最も上に肉薄したレジスタンス活動家、レブレム=カーマインの娘として、それを世間に公表する以上、お前には他以上の期待がのしかかる。それを理解した上での言葉だな?」

「……おじさんが討たれなければ、きっと国は救われてたって、みんなが思ってるからね」


 プレナは心配そうにつぶやいた。レヴィシアは静かにうなずく。


「あたしは、お父さんが目指した通り、『王様のいない国』を作りたい。上に立つ一人に振り回されるんじゃない、大事なことはみんなで決められる、そんな国に」


 ザルツはふと目を細めた。それは、どこか悲しげな印象だった。

 レヴィシアとザルツ、プレナは俗に言う幼なじみだ。妹のようなレヴィシアを心配していないわけではない。それでも、彼にも戦う意志がある。


「わかった。協力は惜しまない」

「私もね」


 この二人は、レヴィシアにとっても大事な人たちだ。いてくれるだけで、どんなに心強いことか。


「ありがと、二人とも」


 そして、レヴィシアは隣のユイに目を向ける。彼は無言でうなずき、ようやく口を開く。


「仲間が増えたとはいえ、それでもまだまだ足りない。もっと短期間で仲間を増やしたいと話していたんだ」


 組織の全員が戦闘員ではない。三分の一は第二班、つまり、情報収集やそれをもとに計画を立てたり、行動を起こした後の逃走ルートを確保したりする、後方支援だ。ザルツやプレナも第二班に当たる。

 その人たちを差し引くと、この組織の戦闘員は三十人に満たない。これでは、レイヤーナ軍はおろか、国軍にだって太刀打ちできない。


「それで、手っ取り早いのは、どこかの組織との合併だ」


 ザルツがそう口に出すと、レヴィシアは跳ねるように身を乗り出した。


「うん、わかった。合併しよ。でも、どこと?」


 まったく自分の頭を使わないレヴィシアに、ザルツは眉をひそめる。そんなレヴィシアの肩を、ユイは軽く押し戻した。落ち着けということらしい。


「これは、簡単な問題じゃない。いつもみたいに一人ずつ新入りを探すより大変だ」

「なんで?」


 きょとんとしてレヴィシアはザルツを見る。ユイは困ったように口を挟んだ。


「レヴィシアも当然、共に戦うのなら、実力のある組織と組みたいだろう?」

「うん」

「そう思うのは相手も同じだ。強い相手でないと、共闘はできない。けれど、表立って活動を開始していないうちの組織には、実績がまるでないんだ」

「あらら」

「それに、どこの組織にも自分たちなりの流儀がある。合併した後も難しい問題を抱えるだろう」

「うんうん」

「組織はリーダーを中心に結成されていて、自分たちの命を賭す。どちらのリーダーを立てるか、それも難しいところだ」


 この一言で、ザルツの眼がきらりと光ったような気がした。ここで不正解を引いたら、きっともう駄目な気がした。だから、レヴィシアは、足りないなりに精一杯考えた答えを口にする。


「……あたしが、認められるように意志を示す。そして、みんなに力を貸してもらう。そういうことだよね?」


 本当なら、人の上になんて立ちたくない。誰かの後ろについて歩きたい。

 けれどそれでは、民主国家シェーブル共和国なんて、夢のまた夢だ。

 父の夢が消えてしまう。それだけは嫌だ。


 ザルツはレヴィシアの答えに、とりあえず納得したようだった。

 リーダーは、組織の意志だ。

 レジスタンス活動家が皆、同じ考えのもとに発起したわけではない。それだけは、レヴィシアがいくつであろうとも理解していなければならないことだ。

 掲げた志は、どんな時も貫き通すべきものだから。


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