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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅶ

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〈29〉悲しき別離

 ティーベットは、遊撃部隊であった。任された人員と共に三番街を駆け上がり、二番街に辿り着く。

 二番街では囮部隊のルテアやアイシェが暴れているはずだが、表通りはもちろんのこと、裏通りのことも心配だった。


 ここは、自分がレヴィシアの父親であるレブレムと一緒に働いていた土地でもある。知り合いも多いのだ。彼らの安否も気になる。自然と、そちらの方へ足を向けてしまう。

 すると、裏道にもやはり武装した男たちがいた。兵士ではないからレジスタンスだろう。

 できることなら、レジスタンスとは戦いたくない。戦い慣れない民間人で、思想や志は違っても、立場は同じだと思うから。


 ただ、その時、ティーベットは思わず立ち止まってしまった。後ろを歩いていた仲間の青年が、ティーベットが急に立ち止まったせいで、その背にぶつかってしまう。けれど、巨体のティーベットはびくともしなかった。


「ティーベットさん!」


 鼻をぶつけた青年は文句を言おうとしたが、ティーベットの放つ空気が変わったことに気付き、口をつぐむ。

 ティーベットの視線は、とある方向に向いていた。そこには、やはり別組織のレジスタンスがいた。ティーベットと同世代か、少し上の男性が指揮を取っている。彼はよく日に焼け、逞しい体付きをしていた。

 彼は、ティーベットと呼ばれたその名を耳ざとく拾ったようだった。視線をこちらに向ける。

 その顔は、数年経ったくらいではそう変わらない。


「ルーガ……」


 その名をつぶやく。すると、彼は懐かしそうに笑った。


「ティーベット、久し振りだな」


 そうして、ティーベットの手首に巻かれた黄色のハンカチに目を留める。


「ん? それ……ああ、お前、あの組織にいるのか」


 このハンカチの意味が、すでに色々なところに伝わっているようだ。

 ルーガは、背後の仲間らしき男たちを振り返り、手を出さないように指示した。それから、再びティーベットに向き直る。


「なあ、ほんとにレヴィシアがリーダーなのか?」


 彼は、レブレムの結成した組織の構成員であった。レブレムの死後、組織は瓦解し、それ切りだった。レブレムがいないのなら、他の誰もあてにならない。二度と、活動などしないと言っていた。そうして別れたはずだった。

 ルーガはもともと、ティーベットの友人である。ティーベットが活動に誘ったのだ。


「そうだ。レヴィシアは、レブレムさんの思想を実現させるために立ち上がって、必死で戦って来たんだ」


 レブレムがいない。だから、『王様のいない国』なんて荒唐無稽なことは、もう実現できない。

 在り来たりの、間に合わせの平和で、騙し騙し生きて行く。それしかないと思った。

 けれど、レヴィシアに再会した。

 あの無邪気だった子供が、たくさんの思いと希望を背負って皆を牽引する。

 父親の名前に負けない強さを示し、未来をつかみ取ろうとする。

 あの姿を知れば、ルーガもまた、以前のように肩を並べることができると思った。そんなティーベットは浅はかであった。


「……レヴィシアは、所詮子供だよ」


 そう、冷たい声が返った。


「レブレムさんのようにはなれない。あの子にそんな力はない。どうして、それを担ぎ上げるような残酷な真似をしたんだ? あんなに大事にしてた娘なんだぞ? 何かあったら、レブレムさんにどう詫びるつもりだ?」


 頭に血が上って、目の奥がジンジンと痛んだ。それを感じたけれど、ティーベットはこぶしを握り締めて、柄にもなく静かに声を絞った。


「レヴィシアを侮るな。あの子は、お前が知る時よりもずっと強くなったんだ。あの可能性を、俺は信じてる」


 ため息が、ルーガの口からもれた。


「俺は、この国はもう駄目だと思う」

「なんだと……」


 思わず耳を疑った。けれど、空耳などではない。

 その言葉は、しっかりと先を紡いで行く。


「でもな、あのネストリュート王子ほどのお方が統括して下さるのなら、それでこの国は生まれ変われるんじゃないかって。……あれだけ忌避したはずのレイヤーナなのに、こんな気持ちを抱かせてくれるんだから、あのお方は本当に大したお方だ」

「……正気か?」


 思わず、そう言った。


「ああ、もちろんだ。あれだけのお方が、第五王子だ。王位に就けないなんて、世の中間違ってると思うだろ? でもな、それこそが、この国を導いて下さるという運命だったんじゃないかと思う」


 あの王子が自国の王位から遠い存在であることが、この国のための運命だと。そんな勝手な言い分を平然と言ってのける。

 レブレムを失った後の絶望に差した光が、あの王子とは。

 わからなくはない。けれど、それではいけない。


「だから、レヴィシアは俺たちが止める。ちゃんと引き戻して保護してやるよ。傷付けたりしないから、安心しろ」


 笑って、そんなことを言う。

 眼前の男はすでに、理想を語り合った仲間ではなくなってしまった。すれ違い、相容れない。

 悲しくても、それが現実だった。


 元旦なのに、こんなおめでたくない内容(笑)

 あけましておめでとうございます☆

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