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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅶ

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〈28〉黒い瞳

 三番街の往来で、シェインは仲間たちと共に戦っていた。

 ただ、ここに来るまでは、敵はシェーブル軍とレイヤーナ軍――軍人だと思っていた。思想の違うレジスタンス組織も、同時に王城を目指すことになると理解はしていた。戦うことは仕方がないと思ったけれど、こうまで敵意が色濃いなんて、認識が甘かった。


 シェインはその混乱の中、共に戦う仲間を援護していた。歳若く、経験の浅い者たちも多い。

 そんな彼に、横から細長い影が迫った。ガッと鈍い音を立て、とっさに剣で迫って来た棒を受け止める。その棒は、本当にただの棒きれだった。武器とも呼べないようなものを振り回す、素人だ。

 それでも、殴られればけがをする。

 それを振り払うと、シェインと同世代の男が棒きれを構え直していた。


「……けがしないうちに、止めとけよ?」


 そう忠告したのは、親切心のつもりだった。間違っても、侮ったわけではない。

 本当に、身の程を知らなければ死ぬことになる。戦いに身を置いてきた自分は、それを知っているから。

 けれど、相手はそう素直に受け取ってくれなかった。目を怒らせ、シェインをにらみ付ける。


「お前たち、『あの組織』のやつらだろ? その、黄色の布切れが目印だ」

「ああ……」


 自分の手首に巻いたハンカチを、シェインは一瞥する。


「それで?」


 すると、男は牙をむくような仕草でがなり立てた。


「子供を祭り上げて、卑怯な連中だ! レブレム=カーマインの娘だ? そんな娘で人気取りをして、ふざけるなよ! それで、誰が王になる? その小娘か? その娘を影で操るつもりなんだろう!? お前たちにだけは絶対に負けられない!!」


 そんな発言を、シェインは口を挟まずに聞いていた。けれど、彼が言い終えた時には声に出して笑っていた。その笑い声に、男は苛立ちをあらわにする。


「何がおかしい!」


 シェインは、場違いな笑い顔のまま、答える。


「何がって、そりゃあ、オレたちを敵だと決め付けてるくせに、オレたちを何も理解していないからだ」

「なんだと!?」

「敵を知らないまま、戦いを挑むなら、始める前から負け戦だ」


 背後の喧騒から切り離されたような二人は、にらみ合う。男は、棒きれを握る手に力を込めた。


「俺たちには――これと決めたリーダーがいる。その人こそが、王に相応しいんだ。邪魔なんてさせない!」


 どこかで見たような瞳だな、とシェインは思った。

 ロイズに心酔し、彼を王にすることだけがすべてだったリッジ。

 あの、黒い瞳と重なる。

 たった一人をよりどころとする危ういともしびは、あっさりと吹き消されてしまう。


「た、助けてっ!」


 そんな声がひと際大きく響いた。

 戦いの場だ。そんな叫びは珍しくない。シェインは振り向きもせず、さして気にも留めなかった。

 けれど、眼前の男の黒い瞳は、大きく揺らいだ。


「もう止める! 止めるから、助けてくれっ!」


 シェインが振り向くと、遠くに、兵士に追い立てられ、頭を抱える男性の姿があった。


「少し夢を見ていただけで、本気で王になんてなるつもりはなかった! ほ、ほんの少し、味わってみたいと思ったけれど、命まで賭けたくないっ!」


 よくあることだ。

 贅沢な暮らしと、たくさんの家臣にかしずかれる自分を夢想した。

 背負うべきものの重みも知らず、その代償がなんなのかを考えなかった。上辺だけ、もっともらしいことを並べ立てていても、危険にさらされれば鍍金めっきがはげる。


 けれど、彼の仲間たちが、日々の暮らしが変わることを願い、本気で思い悩み、真剣に向き合って活動に参加していたのだとしたなら、こんなにも哀れなことはない。

 見る目の甘さを指摘してやりたくはあるけれど、信じた者がこんなにも脆く呆気ないなんて、悲しすぎる。


「……なあ、オレたちは王様なんて選ばない。俺たちの描く未来は、『王様のいない国』だからな。絶望するなら、その未来を見てからにしてくれよ」


 シェインは棒きれを取り落としてうな垂れた男に、そう声をかけた。そうして、また激しい戦闘に戻る。

 けれど、その中で、剣を交えながらも頭の片隅で思った。

 リッジは、答えを出せたのかと。 

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