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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅶ

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〈25〉よく似た誰か

 一番街への道は開けた。

 けれど、他のレジスタンスたちがすぐに駆け上がって来る気配はなかった。一番乗りをするには危険が伴う。誰かが進んでからついて行くつもりなのだろうか。

 ただ、その判断で後れを取るのだ。危険を恐れていては、望むものは得られない。


 その他は、アイシェたちが今も上手く誘導してくれているのだろう。そちらに気を取られて、道が開けたと気付いていない者も多いのかも知れない。向こうの方に渦巻いている人だかりがあったけれど、レヴィシアたちはそれを確認している場合ではなかった。兵士の一部隊が道を開けたとはいえ、他の部隊の兵士に追い詰められてしまっては元も子もないのだから。


 レヴィシアたちと、ニカルドを始めとする、合流したメンバーたちは、ようやく一番街に足を踏み入れることが出来た。

 さすがに、一番街の先に他のレジスタンス組織の構成員はおらず、その先に待っていたのは兵士ばかりであった。武装したレヴィシアたちを認めると、臨戦態勢に入る。ずらりと、層の厚い壁だった。


「あと少しと思えば、なんてことないよね」


 強がりと言ってしまえばそれまでの言葉だ。けれど、自分が弱音を吐いてはいけない。


「ああ。もうすぐだ」


 ユイは、当たり前のようにして答え、その背中の剣を抜き去った。スレディの傑作は、陽の光ばかりか、敵の視線さえも集め、それはそれは鮮烈に輝いている。ユイが手にしたのはつい先日からだというのに、今は不思議なくらい彼に馴染んでいる。


「すぐ、道ができるさ」


 ヒュン、とジビエが棍を振ると小さな風が起こる。その力強い声に、不安など吹き飛んだ。ニカルドも、無言で剣の柄に手を添えていた。

 四人の背後には、選び抜いた構成員たちがいる。人数にして三十人。兵士の数は倍に及ぶ。

 レヴィシアは、なるべく体力を温存するようにというザルツの言葉を思い出しながらも、ここを切り抜けることで頭がいっぱいだった。余力なんて常にない。そのつど、全力で駆け抜けるだけだ。


「よし、王城まで一気に行くよ!」


 駆け出したレヴィシアの前を行くようにしてユイが追い抜く。レヴィシアの背後をジビエが守った。ニカルドはその三人に続く。

 その他のメンバーたちも、この四人を優先して進ませることだけを考えた布陣で周囲を固める。


 先頭を行くユイがなぎ払った兵士たちは、一瞬、ユイの姿にためらいを感じていたように思う。その、ためらいの原因は、きっとよく似た『誰か』のためだろう。似ているのだと、聞いた。


 そうでなければ、もともとユイを知っていたのかも知れない。

 レジスタンスだと判断しながらも、傷付けてよいものか迷ってしまうのだろう。ただ、その迷いに都合よく付け込ませてもらうことにする。隙を突き、レヴィシアたちは兵士を蹴散らして先へと急いだ。


 緩やかな坂道は、戦いながら疾走するには厳しい。

 けれど、条件は皆同じだ。そう思って、レヴィシアはユイが率先して切り開いてくれた道を急ぐ。


 ただ、彼のその背中に、本当にこれでいいのかと問いかける。

 もうすぐ、すぐそこに、悲しい再会が待っている。

 犯した罪を償うために、新たな罪を背負う。

 父親と戦い、そうしてユイはどうなるのだろう、と。


 ずっと、自分を捨てて守り続けてくれた。

 あの罪が許せないものだとしても、それだけの償いを示してくれた。

 その気持ちに嘘はなく、疑う気持ちもすでにない。

 この国の改革の末に、ユイの姿はどこにあるのだろうか。

 レヴィシアの心は、改革とは別の場所で揺れた。

 それを決めるのは、彼自身ではなく、自分であってもいいのだろうか、と。

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