表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅶ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

273/311

〈20〉わがまま

「やだ」


 いつもの彼の返答である。けれど、今回もそれを飲み込むことは出来なかった。



 それは出立前の出来事だった。

 ザルツが皆に役割を振り分けていた時、レヴィシアたちと共に城へ向かってほしいと頼まれたフィベルが、断固拒否したのである。いつものことなのだが、それでは困る。


「これで終わりだ。だから――」

「やだ」


 最後まで言わせてもくれない。先の戦いで苦戦したことが、フィベルにはとても面倒だったらしい。

 そこで、助け舟を出したのは師匠のスレディだった。


「こいつ、城とか軍とか嫌いなんだよ。違う配置にしとかねぇと、勝手に持ち場離れてフラフラしてても知らねぇからな」


 さすがに、それは困る。ザルツは言葉に詰まった。ただ、そんなやり取りを部屋の片隅で聞いていた人物によって救われた。


「俺が交代すればいいだろう?」


 そう言って、一歩前に進んだのはジビエだった。


「城なんていう特等席で、この国の変化を目の当たりにできるんだ。むしろ、俺が行きたい」


 その申し出に、フィベルはこくりとうなずいた。


「いってらっしゃい」


 勝手に話を進める。

 ジビエは、レヴィシアの影武者となるアイシェの護衛だった。一瞬、アイシェは不安そうな顔をしたけれど、すぐにそれをなかったことにして、目をつり上げる。


「ジビエ、こんなのがジビエの代わりになるの? こっちはどうするのよ」


 そんなアイシェの心境も、ジビエには透けて見えたはずだ。クスクスと笑う。


「大丈夫。彼は強い。それに、お前にはニールやルテアがいる。他にもな。十分切り抜けられるはずだ」


 アイシェはすでに、ルテアをそばに付けるという条件を出し、その我がままを通した。今回のフィベルやジビエの希望が我がままだとしても、それ以上の非難は出来ないのである。

 それ以上何も言わず、うつむいたアイシェを、なんとなくいつもよりも無口なニールが小突いた。イラッとしたアイシェがやり返し、二人のどつき合いが始まったけれど、特に誰も止めなかった。



 そんな経緯があり、フィベルは城へ突入することなく城下へ回されたわけなのだが、その選択が正しかったのかどうなのか。

 アイシェに、ちょっと先に行って様子を見て来いと言われたのだが、そこでいきなり大物に遭遇するのだから、巡り会わせとしか言えない。そうなのだが、本人としてはそれを認めたくないところである。



「お前も、あのユイトルってやつもそうだ。俺は狩ると決めた獲物を逃すほど嫌なことはない」


 牙をむくようにして言うヤールに、フィベルはうんざりとした顔を隠さなかった。相手はしたくないけれど、背後の道を行けば、アイシェたち囮部隊がいる。結局のところ、前のように身ひとつで逃げ出すことは出来ないのだ。


「めんどい」


 言いたいことはそれだけである。

 けれど、そういうところがいつも、相手の神経を逆なでるのだった。


「面倒でもなんでもいい、抜けよ」


 剣先を向けられ、フィベルは嘆息した。そうして、丹念に磨いた、師匠より与えられた剣を抜き去る。

 いつになったら、この刀身を傷付けることなく、ただ眺めて磨いていられるのだろうか。

 自分のしたいことは、はっきりとしている。

 早く、師匠のように、なんの曇りも嘘もない、輝きに満ちた武器を作り出したい。


 それだけのことなのに、どうしてこうも横道を突き進むことになるのか。それ以外のことなんて、どうだっていい。国だ革命だと、みんなうるさい。

 さっさと終わらせる。

 今はただ、それしかない。



 ピリ、とフィベルのまとう空気が変わった。細い目が、どこか鋭く光る。

 ヤールはそれを、満足げに受け止めた。

 地べたに転がっていた青年たちも、その異様な空気を感じ取り、這うようにして横に避難した。

 そうして、王都の三番街の一角で、その戦いは繰り広げられたのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ