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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅶ

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〈14〉改革の後で

 レヴィシアはスレディの剣をシーゼに託した後、そのまま廊下を小走りに進んでいた。用事があるからとシーゼに言ったのは、嘘だった。こんなことをしても、二人の関係は何も変わらないのかも知れない。けれど、それでもそうしたい気持ちだった。



 この時、レヴィシアには、はっきりとした決意があった。今は、改革の先を見据えている。

 実現すら難しい理想だというのに、その先を見ているなんて、誰かが聞いたら笑うかも知れない。

 けれど、そう考えられるようになったのは、夢で終わらせないという覚悟と、手が届く可能性を感じることができるからだ。そのことが、少なからず嬉しかった。



 そのまま、廊下を歩く。

 用事なんてない。部屋に戻って休むだけだ。

 けれど、できることならば――。


 ルテアに会いたい。

 そう思った。


 ルテアは今、ニールと同室で、部屋まで尋ねて行くのは憚られる。

 だから、思うだけだ。明日になれば会えるというのに、どうしてだか今すぐ会いたい。

 そんな気持ちがあふれ出す。


 声が聞きたい。笑顔が見たい。

 そんな願望が見せた幻でなければ、眼前にルテアがいた。何か、驚いたような表情をしている。


「レヴィシア」


 ルテアの正面で立ち止まると、彼は照れたように微笑んだ。


「会いに行こうか迷ってた」


 その一言が、どうしようもなく嬉しくて、少し涙が出そうになる。こんな時、どう言えばいいのか、今ならわかる。


「あたしも会いたかったよ」


 ルテアは嬉しそうにうなずく。その仕草に幸せを感じた。胸の奥が熱く、ふわりと軽くなる。


「ね、少し歩こう?」


 そうして、二人は屋敷の外へ出た。



 他愛のないことを話しながら、ゆっくりと歩みを進める。クランクバルドの敷地の中は広い。

 そうして、優しい光の降る夜の庭園で、レヴィシアは先にベンチに腰かける。そうして、隣を軽く叩いた。ルテアも隣に座る。

 レヴィシアは、夜空を仰ぐ。星の光が、いつもよりも輝いて見えるのは、隣にルテアがいてくれるからだろうか。

 空を見上げたまま、つぶやいた。


「いよいよ、だね」

「そうだな……」


 満月にはまだ少し足りないけれど、月は明るい。ルテアもそれを見上げて答える。それから、レヴィシアに顔を向けた。


「なあ、レヴィシア」

「うん?」

「お前、この改革が終わったらどうするつもりなんだ?」


 その一言に、どきりとする。

 改革後、民主国家に向けて国が動く。けれど、その表舞台に自分の役割はない。

 レヴィシアはそう思った。


 核になるのは、ザルツや公爵、それからロイズといった人間たちだ。抵抗組織レジスタンスとして、民衆の希望となるために、本来であれば到底相応しくない子供の自分がリーダーになった。それは、不可能だと思われることを実現するために、子供だろうと、女の子だろうと、どんな人間でも意志さえあれば戦えるのだと示したかったからだ。


 けれど、この先のことには関わっていけない。

 それは、また別の話なのだ。

 子供の自分が政治に関わるとなれば、今までのような応援はない。ただ、皆に不安を抱かれるだけ。近隣国の手前もある。

 それに、何より、そういったことができる自分ではないと思う。引き際はここなのだ。

 レヴィシアはにこりと笑う。


「うん、民主国家の体制を整えるのはザルツに任せるから。あたしは、国が変わることで不安になる人たちの声を聞いて、励まして、支えて行けたらいいなと思ってる」


 この改革が、後の世をよりよく作り変える。そう信じているからこそ戦っている。

 けれど、急な変化に戸惑う人々は多いだろう。不満の声も少なくはないはずだ。

 町の中の、声を張り上げて主張することの出来ない人々の声に耳を傾け、ザルツたちに伝える。そうすれば、よりよい未来を築ける。自分には、そういった役割が合っていると思う。

 この改革に携わった責任として、最後まで陰で関わって行く。面には立たずとも、そうして生きて行くと決めた。


「色々な町を歩いて、人と触れ合って、ね」


 その決意を、ルテアは静かに聴いてくれていた。そうして、そっと口を開く。


「この改革を快く思わない人間もいると思う。お前に不満が向かうことも多いんじゃないか?」

「わかってるよ。それも受け入れるつもりでいるから」


 人の命を犠牲にし、そうして実現させるのだ。恨み言もこの身で受け止めなければならない。

 すると、突然にルテアの手が肩に触れた。かと思えば、次の瞬間には抱きすくめられていた。夜気に少し冷えた体に、あたたかさが満ちる。


「俺も一緒について行く。レヴィシアのことは、俺が守るから」


 ほしい言葉とぬくもり。少しも違わずにそれをくれる。

 いつだって、ルテアはそうだった。まっすぐに、自分を見つめてくれる。


「ずっと?」

「ずっとだ」


 月明かりの陰になり、お互いの表情もよく見えない。けれど、視線は少しずつ近付き、ぶつかり合う。額を寄せ合い、そうして、二人はそっと唇を重ねた。ぎこちなく、それでもお互いを確かに感じる。

 その後で、レヴィシアは恐る恐るまぶたを開く。そして、目の前の柔らかな微笑みに、心が満たされた。

 離れては、また寄り添って、今が永遠であればいいと心から思った。

 

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