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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅵ

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〈39〉役回り

 大半の構成員たちはすでにこの場所を離れていた。寂れた漁村に大所帯では目立つのだ。レヴィシアの回復を見て、残りのメンバーもリレスティに戻るつもりでいる。

 レヴィシアはそれから、次の朝にはいつもの元気を取り戻していた。

 回復の速さは、気持ちに比例してのことだろうと、誰もが微笑ましく感じていた。ただ一人を除いて。


「――そう、だったんだ。あなたたちは『クラウズ』の……」


 ルテアの説明により、彼らが協力してくれたことを知る。

 未だ、彼らを山賊として敬遠する面々もいないことはなかった。そんな険悪な空気を吹き飛ばすかのように、レヴィシアは明るく笑うと手を差し出す。


「助けてくれてありがとう! これから、よろしくね!」


 屈託なく笑う青い瞳に、同じく屈託なく笑ったニールはその手をぎゅっと握り返して大きく振った。


「うん、俺はニール。よろしくな! ……なあ、ルテア、この笑顔にほれ――」


 ベシ、と鈍い音を立ててルテアに頬を張られたニールは、ルテアが殴った、と一人で騒いでいた。そんな隙に、ジビエもレヴィシアと静かに握手を交わす。


「ジビエだ。こちらこそ、よろしく」

「うん」


 ジビエはユイとも握手を交わしていた。二人はお互いに、相手の力量を測るようにしていたように思う。フィベルは一人ブラブラと、どこ吹く風だった。

 そうして――。


 アイシェという少女。

 レヴィシアが勘違いしてしまっただけで、ルテアと特別な関係ではないのだという。

 けれど、ものすごい形相でにらまれてしまった。彼女がルテアを好きなことは間違いようもない。

 それでも、気を取り直して笑いかける。


「よろしくね」


 差し出した手は、一瞥されただけで、握り返されることはなかった。退くタイミングも計れず、レヴィシアは虚しくそのままの体勢でいるしかない。

 すると、アイシェはふぅ、と嘆息した。


「……似てないでしょ」

「え?」

「どう見たって、あたしの方がかわいいし、スタイルもいいじゃない」


 その場の空気が凍り付いた。ジビエだけは呆れたように苦笑する。


「趣味悪い」


 そこまで言われた。けれど、怒れなかった。

 この感情に覚えがありすぎて。

 済んだことだというのに、シーゼに謝りたい気持ちがふつふつと湧いて来る。あの時はごめんなさい、と。

 とりあえず、あははは、と乾いた笑いでその場はやり過ごすしかなかった。


「モテモテだなぁ」


 ニールがルテアにしなだれかかると、ルテアはイラッとした表情で彼を突き飛ばした。



         ※※※   ※※※   ※※※



 そうして、今後のことは一度リレスティに戻って、公爵と打ち合わせをした後に決めるということでまとまり、皆はそれぞれに旅支度を整える。発つ前の晩、プレナと共にこの漁村にずっと待機していたエディアは、最近出会ったウード弾きの少年と再会した。再会はしていたのだろうが、お互いにそれと気付いたのはこの時だった。

 ニールと名乗った彼は、嬉しそうに顔を輝かせた。


「あ! あの時の!」


 彼の隣にはルテアがいる。不思議そうに首をかしげていた。


「なんだ? エディアを知ってるのか?」


 ニールはニコニコとご機嫌だった。


「エディアさんっていうんだ? やー、やっぱりステキだね!」


 その軽いノリに、当のエディアはもとより、ルテアまで眉を顰めた。それでも、ニールはマイペースだった。


「俺、ウード取って来るから、もう一回歌ってよ!」

「え!」


 エディアは呆然としてしまった。この闊達な少年は、状況がわかっていないのだろうか。今が音楽を楽しむような、のどかな時ではないことに気付いてほしかった。ルテアは、駆け去ったニールを見送ると、きょとんとした表情をしてからエディアを見た。


「エディア、歌ったりするんだ?」

「え……そんな、大げさなものじゃなくて……」


 何故かしどろもどろになってしまった。そんな時、ニールが丸みを帯びたフォルムのウードを手に戻る。


「じゃあ、こっち来てよ」

「あっ」


 有無を言わさず、ニールはエディアの腕を引いて、宿の広間にやって来た。


「あれ? どうしたの? それ、楽器?」


 レヴィシアやユイ、シーゼ、それから、ザルツにプレナ、食事を済ませた後だからか、ほぼ勢ぞろいだったと言っていい。エディアはこの状況に混乱するばかりだった。

 レヴィシアの問いに、ニールはえへへ、と笑った。かと思うと、今度は急に真剣な面持ちになり、椅子をひとつ引いて広めの場所に移すと、そこに座り、脚を組んでその上にウードを乗せて構えた。そして、エディアに対し、一度微笑むと、その弦を軽く爪弾いた。


 かと思うと、その音は次第に強く、弱く、この夜に相応しいような切ない音色となる。激しく、滑るように動くその指先と、伏せたまぶた。普段のニールとはまるで違った印象だった。

 皆、その音色に、陶然と聞き入っている。音が、染み渡るようにして流れる。


 古い曲だった。けれど、聴いたことがある。旋律が、エディアを誘う。

 今はそんな状況ではないはず。

 こんなことに意味はない。

 そう思っていたはずのさっきまでの自分が、気付けばすべてを置き去りにして、自身がひとつの楽器であるかのように音を奏でる。


 皆の視線が集まった気がした。けれど、エディアはニールに習うようにして目を閉じた。その方が、音と一体になれる。

 この時ばかりはすべて忘れ、夢中だった。だから、ニールの旋律が終わりを告げて、ようやく我に返る。恐る恐るまぶたを持ち上げると、案の定、皆が唖然としていた。

 エディアは急に恥ずかしくなって消えてしまいたくなった。けれど、誰よりも先に駆け寄って来たレヴィシアが、ぎゅっとエディアの手を両手で握り締めた。


「エディアすごい! 歌、上手だったんだね」

「え、と……」


 どう答えたらよいのか戸惑っていると、レヴィシアは微笑んだ。


「なんだろう、疲れが取れちゃうような、そんな感じがしたよ。これからもがんばろうって思える、優しい歌声だった。また、聴かせてね」


 そんな言葉に、エディアは言いようのない喜びを感じた。遅れて湧いた、仲間たちの拍手の音に、涙があふれそうになる。

 仲間たちを守りたい。

 助けになりたい。

 だから、戦う術が必要だと。


 それを勘違いだと一蹴されてからも、ずっと悩んだ。

 こんなことで、それが成せると誰が思うだろう。

 人を癒すことの難しさを知るからこそ、何よりも欲した役割がどんなに嬉しいか、他の誰にもわからないだろう。


 ただ――。

 弓を引く自分に、もっと違う方法でがんばれと言ったサマルに、すぐにでも報告したいと思えた。

 ほら、だから言っただろ、と笑われそうな気もしたけれど。


 組織初、レヴィシアのことが嫌いなメンバー(笑)

 これで、ユイ、フィベル、ジビエの三強がそろいました。

 三馬鹿もそろったような気がしますけど……。

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