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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅵ

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〈34〉交差

 ハルトビュートは、颯爽と歩くネストリュートの背を追った。

 あの王弟がここにいないことなど、ハルトビュートは知らされていなかった。今、どこに移されたのかも知らない。


 そんなことはいい。


 けれど、落ち着き払っている風に見える兄に焦りがないとは言えないのではないかと思う。性急にことを運ぼうとしている。ペルシの一件のせいだ。今を逃してはならないという思いが強いのだろう。

 兄の目指すものも、レヴィシアたちが目指す理想と同じように、犠牲も何もなく叶えることのできる現実ではない。タオやヤールが傷付いたとしても、彼らは主のために死力を尽くしたと、命を散らしたとしても誇るのだろう。あの、フォヌシィのように。

 ただ、自分がそれを嫌だと思うだけ――。


 争いは嫌いだ。皆が傷付く姿は見たくない。

 リンランにまた、甘えるなと一蹴されてしまうのだろうけれど。



 塔の扉を、兄よりも先になって開く。すると、そこには、リンランがいた。

 ただし、いつものゆとりはまるでなく、汗をしたたらせ、目をつり上げ、荒く呼吸を繰り返している。


 そんな彼女と対峙しているのは、フィベルだった。相変わらず表情の読めない糸目。けれど、額に巻いたバンダナの色が、しみこんだ汗でどす黒くなっている。彼も息が上がっていた。それに、ところどころにリンランに付けられたのか、切り傷があった。ただ、傷は浅く、大したダメージではないようだ。

 二人の使い手による戦闘は、苛烈を極めたのだろう。どれくらいの時間、そうしていたのかはわからない。ただ、リンランはこちらに気付くと、珍しく顔をくしゃりと歪めて泣きそうな表情になった。


「ネスト様! もう、こいつ嫌!!」


 相当に手こずったようだ。素早さに長け、瞬殺する彼女にとってみれば、長期戦はつらかっただろう。

 ただ、フィベルもムスッとしてぼやく。


「こっちも嫌」


 こんな状況でも淡々としている。よくわからない青年だ。

 ネストリュートは思わず笑っていた。


「ああ、もういい。一時休戦だ。リン、ご苦労だったな」

「ほんとですか? えへへ」


 と、褒められてリンランは汗を拭いながら笑う。フィベルは、彼女から戦いの気が抜けたことを感じ、剣を下ろす。そんな彼に、ネストリュートは声をかけた。


「君も、一度退いてほしい。仲間たちが外にいるだろう?」


 こくりとうなずく。


「了解」


 相手が誰だかわかっているのかいないのか。誰が相手であろうと、この青年はこうなのかも知れない。

 そうして、ネストリュートはリンランに外の負傷兵たちのことを託した。付いて行きたそうに見えるリンランを残し、ネストリュートは前へ進む。

 そうして階段の手前に来ると、おもむろに顔を上げ、前方に向かって柔らかな声をかけた。


「……一時休戦だ。こちらからは何もしないと約束しよう。出て来るといい」


 ハルトビュートは、唐突な兄のその言葉に驚きつつも、それが向けられた方を見遣った。そうして、螺旋階段の上から慎重に降りて来た人影に、再び驚愕する。

 ぐったりとして意識がないとわかる少女を抱えた少年の姿がそこにあった。背中には、長い棒のような武器を担いでいる。

 彼は谷底に落ちたと思っていたけれど、どうやら助かっていたようだ。あの時よりも半年が過ぎ、どこか精悍に締まった印象がある。中性的に整った面立ちが、今となっては凛々しくもある。

 ただ、彼に守られるようにして抱えられているのは――。


「レヴィシア……」


 ハルトビュートの口からその名がこぼれる。

 血に染まり、意識もなく腕をだらりと下に垂らしている。

 声が震えた。けれど、確かルテアといった少年は、そんなハルトビュートに柔らかな視線を向けた。


「生きてるよ」


 その一言に安堵した。むごたらしい死に様が似合うような少女ではない。無事でいてくれて、ただ本当に嬉しかった。

 そんなハルトビュートの様子を一瞥し、それからネストリュートは階段を上った。ルテアが一瞬身構える。ネストリュートは一度、ルテアの正面で足を止めた。そうして、眠るレヴィシアを覗き込む。


「この少女がレジスタンスの首領だと? 眠っている分にはごく普通の少女だが」


 何もしないと言われても、ルテアの表情は険しい。心底、レヴィシアを守りたいと願っているのだろう。そんな彼に、ネストリュートは微笑を向けた。


「起きている時に会いたかったものだな」


 そうして、次の瞬間には興味を失ったかのように前を見据えた。二人のそばをすり抜けて行く。ルテアはようやく息をついていた。

 ハルトビュートはレヴィシアを心配しつつも、まだ無事な姿を認めていないヤールのことも気がかりで、兄の背に続いて階段を上った。

 そうして、二人は上を目指す。


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