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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅵ

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〈28〉遅れたけれど

 異変に気付いた時、謎の一団が塔に向かって駆け上って来た。

 ほんの十数人だというのに、彼らは兵士よりも強かった。鍛錬を積んで来た兵士よりも実戦慣れしているというべきかも知れない。一見すると、どこか田舎にいそうな風体の男たちなのだが。


 場の空気が、流れが変わる。

 戦場に、一陣の風が吹く。


 彼らの勢いを、兵士たちは止めることができずにいる。すでに混戦状態だったにも関わらず、更なる混乱が起こった。けれど、ティーベットやニカルドの大声に、仲間たちはなんとか落ち着きを取り戻して行く。

 シェインにとってはありがたいことに、対峙する男との戦いに水を差されてしまった。男も興醒めしたように嘆息する。


 そんな男の背後に、シェインは光の粒を見た。それは、高速で放たれたナイフだった。

 男は、背中に目があるかのような俊敏さで、身を翻してそれを避ける。シェインもとっさに後ろに退いた。

 そのナイフを放ったのは、意外なことに少年だった。目の下に破れたような傷があるけれど、面持ちは場違いなほどに朗らかだ。


「あーあ、外したか」


 そうぼやきながらも、次の瞬間にはまたナイフを数本構えていた。けれど、シェインの対峙していた男も暗器使いである。さっきから幾度、どこからともなく投擲武器を取り出し、投げ付けられたか知れない。

 やはり、男は一度、服の袖に手を潜らせると、再び手を現した時には何かを握っていた。その動きは素早く、流れるような動作で、煌く刃が風を切って少年に向かう。


 それでも、少年は笑顔のままだった。そのゆとりはなんなのか。どこから来るのか。

 そして、カカカカカ、と一瞬で弾かれる音がして、その刃は少年にかすることなく、地面に落ちた。


「さっすが! 特訓の甲斐があったなぁ」


 ニヤニヤと笑う少年の正面に飛び出し、手にした長い棒で投擲武器を叩き落としたのは、懐かしい顔だった。

 背が伸び、日に焼け、ほんの少し精悍に成長した姿は――。


「ルテア!!」


 思わずシェインは叫んでいた。ルテアは、そちらを一瞥してうなずいただけだった。落ち着いて、敵を見据えている。

 半年間、どのようにしていたのか、ひと目で知ることができた。それがすべて、誰のためであるのかわかるから、シェインは言った。


「レヴィシアは塔の中だ。ユイやフィベルもいるけど、中も苦戦してる。ここはいいから、早く行ってやれよ」


 ルテアの表情が、少し歪んだ。心配でないはずがない。けれど、この場所の混戦模様を見て、放っておけない気持ちもあるのだろう。

 それを察したのか、傍らの少年がルテアを押し出す。


「おれとジビエとアーロと、他にもみんないるから、大丈夫だって! 行って来いよ!」

「……わかった。頼む」


 そう、うなずく。駆け出したルテアの背に、男が何かを放とうとした。けれど、それをシェインが切り込んで止める。男の舌打ちが僅かに聞こえた。

 これだけの実力がある男でも、焦りはあるようだ。そのことに、少しだけほっとした。ちゃんと、生身の人間だと。どうにもならない相手ではないのだと。


「ここががんばりどころだよな」


 自分に言い聞かせるようにつぶやく。

 さっきまでとは違い、光が見えた。だから、自然と笑みがこぼれる。そんなシェインに、ナイフを構えた少年は無邪気に笑った。


「よし、そこのニイちゃん、協力頼むな。よし、やるぞー!」


 おー、と一人でかけ声を上げている、妙に明るい少年と、シェインは即席でタッグを組むのだった。


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