表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅵ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

232/311

〈20〉どうしよう

「ど、ど、ど、ど、どうしようぅぅ」


 泣き出しそうな顔――すでに泣き出した顔でゼゼフはうろたえていた。それを、背後からフーディーが杖でぽかりと殴る。


「落ち着けぃ」


 涙は止まったようだが、ついでに意識が飛んだのではないかと思われる。そんな彼を尻目に、プレナは軽く唇を噛んでから口を開いた。


「リュリュちゃんは中庭でユミラ様と別れたらしいの。ユミラ様の性格から言って、みんなが心配するとわかっているのに、黙って外出するなんてあり得ないわ」


 エディアもうなずく。


「そうですね。ひと晩経っても戻られないなんて、何かあってのことです。すぐに公爵様とレヴィシアさんたちに知らせるべきでしょう……」


 公爵は現在王都である。こちらには、屋敷の人々が知らせに走ってくれるだろう。

 ただ、問題は塔に向かったレジスタンスの面々である。ユミラが攫われたのだとするなら、すぐに居場所を突き止めて助けに行かなければならない。一刻を争う事態だが、彼らに近付くことができるだろうか。すでに戦闘が始まっていなければいいのだが。

 この場に残っている構成員は後方支援の第二班、女子供、老人の非戦闘員ばかりである。


「問題は、どうやって知らせるか、だよね」


 はあ、とクオルがため息をついた。そうして、プレナが再び口を開く。


「……私が行きます」

「えぇ!!」


 それぞれが声を上げ、その提案を呆然と考えた。


「だ、駄目ですよ! プレナさんに何かあったら、ザルツさんに申し訳が立ちません。それくらいなら私が行きます」


 エディアまでそんなことを言い出す。


「うら若い乙女を行かせるくらいなら、この枯れた老人が行く方がマシだろうに」

「え? フーディー、絶対辿り着く前に死んじゃうって。それくらいならボクがひとっ走りした方がいいんじゃないの?」


 クオルも身を乗り出す。

 そんな時、ようやく意識を取り戻したゼゼフがうめくと、皆がいっせいにそちらに目を向けた。


「え? ええ?」


 わけもわからないまま、慌てふためいているゼゼフに、フーディーはスッと目を細めて言う。


「よくよく考えてみると、ここに健康な若い男がおるではないか」

「へ?」

「それは……そうなのですが」


 エディアの歯切れが悪い。いくら健康な男性とはいえ、ゼゼフに重要な連絡を託すことに不安が拭えないのだろう。


「やっぱり、私が……」


 結局、プレナがそう言い出し、急を要するというのに堂々巡りだった。クオルは突然にあー!! と叫ぶ。


「そんなこと言ってる場合じゃないよね!?」


 正論である。


「ゼゼフ!!」

「は、はい?」


 ゼゼフはクオルの剣幕にかしこまって返事をする。そんな彼に、クオルはビシ、と指を突き付けた。


「ゼゼフはやればできる! ボクが保証するから、行って来い!!」

「えぇえぇぇ!?」


 意味がわかっているのか怪しいが、ゼゼフは色白の顔で更に青ざめた。


「そ、それって……」

「ユミラ様がいなくなったこと、みんなに報告するんだ」

「ぼ、ぼ、ぼ、僕が!? そ、そ、そんな重要な役割を??」

「そうだよ。他にいないんだから、仕方ないだろ」


 今にも白目をむいて倒れてしまいそうなゼゼフを見ていて、不安にならない者はいないだろう。


「あの、私が行きますから」


 プレナがそう助け舟を出すと、今度はフーディーが冷ややかに言った。


「新妻を危険にさらされたザルツが怒ったとしても、ワシ、庇わんよ?」


 ありありと想像ができるだけに、ゼゼフはヒッと悲鳴を上げた。


「フーディーさん、おどかさないで下さい。プレナさんはともかく、私なら大丈夫でしょう? 私が――」


 エディアの言葉を、クオルが遮る。


「ビジンを危ない目に遭わせるなんて、ボクのビガクに反するんだよ!」


 じゃあ、自分なら危なくてもいいのかと言いたくなるが、ゼゼフはその言葉を飲み込んだ。

 ゼゼフも女性を危険にさらしたくないのは事実だ。それに、クオルが自分ならやれると期待してくれている。おだてているわけではなく、本気でそう思ってくれているのだと信じた。


「わ、わかったよ。僕、やるよ!」


 こんな局面で、精一杯格好を付けて口にしたものの、言い終わるか終わらないかのうちにゼゼフは後悔し始めていた。けれど、それを表に出してはいけない。クオルに落胆されてしまう。これ以上落胆されたら絶交されそうだ。


「あの、それでも、私、途中まではご一緒しますね」


 任せ切りにできないのか、プレナが遠慮がちにそうつぶやく。


「じゃあ、私も。近くの町で待たせてもらいましょうか」


 エディアまでそう言い出す。

 戦闘の繰り広げられている場所に近付かないのであれば、とフーディーとクオルは納得する。ゼゼフは、限りなく心細かったので、彼女たちの提案が心底ありがたいのだった。



 ただ、プレナがどうしても向こうに行こうとするのには、理由があった。

 理由というほどにはっきりとしたものではなく、漠然とした予感と言った方がいいのかも知れないが。

 なんとも言えず、胸騒ぎがするのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ