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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅵ

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222/311

〈10〉師匠と先輩と後輩と

 塔の鍵も手に入り、準備は着々と進んでいる。

 別の場所に潜んでいる戦闘員たちに対し、予定している一週間後に塔に集結するよう通達もした。経験のなかった元『ポルカ』のメンバーたちも、ユイの指導のもと、着実に力を付けた。アランがいなくなった後も、彼らはとどまることを選び、レーデが彼らを上手くまとめてくれている。



 そんな頃、サマルとニカルドはアスフォテにいた。フィベルを連れに来たのである。それから、依頼していた武器の引き取りに。

 アスフォテは目的地である北東の塔とは反対方向なので、サマルとしては早く戻りたかった。けれど、当のフィベルはやはり相当に機嫌が悪かった。


「やだ」


 その一点張りである。

 ようやく仕事に復帰できたところなのだから、申し訳ないとも思うのだが、やはりあてにさせてもらうしかない。サマルは荷物も下ろさずに頭を下げるのだった。


「お願いしますって。ここが正念場なんだから」


 いつもはここで説得してくれるスレディも、今回は黙ったままだった。助手を奪われ、一人で作業を続けていたのだから、疲れがたまっているのだろう。目が少ししょぼしょぼしていた。

 スレディはドカリと椅子に腰かけ、葉巻の先を食いちぎり、それを吐き出してからサマルに言った。


「おい、垂れ目、その荷物はもしかして『あれ』か?」


 サマルが後生大事に抱えている、布で包んだ大きめの荷物は、弓である。

 彼女がスレディから借りて、サマルが取り上げたもの。


「はい。エディアから預かって来ました」


 泣きながら、懸命に弓を引いていた姿を思い出すと、心臓がつかまれたように疼く。あの頑なさが、時折、見ていて痛い。どうにか、この弓を奪ったものの、また何かろくでもないことを思い悩んで実行してしまうのではないかと、正直気が気ではなかった。

 多くを語らずとも、スレディは察してくれたようだ。


「そうか。よくやった」


 にやりと歯を見せて笑った。


「武器は似会わねぇってのに、やたら頑固でな」


 サマルもそっと笑った。


「ええ。かなり頑固でした」

「ああいう娘は、幸せになってほしいもんだな」


 そうつぶやくと、スレディは火の付いていない葉巻を再び口にくわえた。すかさずフィベルが火を持って来る。


「ほんとに、そうですね……」


 心から、サマルもそう思った。


「だからこそ、この戦いは早く終わらせなくちゃいけないんです」


 その発言に、フィベルがぴくりと肩を揺らした。スレディはガハハと豪快に笑っている。どこか機嫌がよいように感じられたのは、エディアのことを心配していたからなのだと思う。


「だとよ。もうひと働きして来い。師匠命令だ」


 横暴だが、師匠は師匠だ。フィベルは恨みがましい目をサマルに向ける。


「少しずつ、先が見えてる。頼むよ」


 そんなサマルの言葉に、フィベルは口を尖らせたが、それからその糸目を押し黙っていたニカルドに向けた。


「ニカルド君」

「え?」


 二十歳以上年下の青年から君付けされたニカルドは、呆然とフィベルを見下ろす。けれど、フィベルは平然と言い放った。


「来るよね?」

「あ、ええと……」

「先輩命令」

「ああ……」

「よし」


 と、フィベルは深くうなずいた。自分が借り出されたのに、ニカルドだけ残るのが嫌なのだろうか。

 どの道、二人とも戦力として数えているのだが。


「俺だって、もうちょっと若けりゃ参加したんだがな。まあ、俺の分まで戦って来い」


 そうして、スレディはサマルに向き直る。


「ところで、ルテアの坊主はまだ帰ってねぇのか?」

「……はい」


 すると、スレディは深々と嘆息した。


「遅ぇ。遅すぎる。これ以上、いじるとこねぇぞ」


 ルテアのための武器を手がけていたスレディは、なかなか当人に渡せないことが不満なようだ。乱雑な部屋の中、一角だけ整頓された作品置き場に向かうと、そこから小さな袋を持って来た。口を紐で縛ってある。それをサマルに押し付けた。


「お前に預けとく。中に説明書も入ってるから、坊主に会ったら渡しとけ」

「ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げ、サマルはそれを受け取った。


「頼まれてた他の武器はどうする?」


 新入りたちの武器が足りず、スレディに頼んでいた分もある。そこは馬車で運ぶつもりだった。


「はい、町の外に馬車を待たせてます。なるべく目立たないように運び込んでから向かいます」


 アスフォテの警備の数は、まだそれなりに多いのだ。ここは慎重に、警戒は必要である。

 スレディは、改めて二人の弟子を眺める。


「じゃあな。精々気ィ付けろよ。お前らはともかく、レヴィシアのこと、ちゃんと守って来い」

「……なんの因果か」


 ため息混じりにニカルドはつぶやいた。けれど、そういう巡り合わせであったのだから、仕方がないのだ。


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