〈7〉分担
それから十日ほどして、ザルツは再び皆を集めた。
「まず、この塔は断崖にそびえる。つまり、背面は海――北と南の差はあるが、以前落としたヴァンディヌ監獄と近い立地だ」
ザルツの指は、机の上の地図をなぞる。
ただ、ヴァンディヌ監獄は、正面に坂になった野原があったけれど、今回は違う。崖の上で、そこまでの広さもない。踏み外せば海に転落する。海に落ちるよりも先に、岩場に頭をぶつけて死んでしまうかも知れないけれど。
「ネストリュート王子が来訪する時を狙ってみるか? そうしたら、会えるんじゃないか? あの王子にも一度会っておきたいだろ?」
と、サマルが地図から顔を上げた。
「けれど、それだと、警備の兵が増えるだろう? 王子の側近を相手にするのは危険だ」
ユイが言うように、王子の側近の女性、それから、ヤール。この二人がそろっていると、その分リスクが高い。ユイとフィベルならば十分に相手はできるはずだが、二人が手一杯になると、他の兵への対応が間に合わなくなる可能性がある。
「じゃあ、いない時を狙うという方向で?」
そうレヴィシアが口にすると、ザルツもうなずいた。サマルは二人の方に顔を向け、集めた情報をもとにつぶやく。
「塔の警護は、内部は少数、周囲に多く控えてる。そこまではなんとか確認できた。つまり、何とかして中に入ってしまえば、案外楽に上に辿り着けるはずだ」
「でも、中の兵が少数でも、強敵かも知れないし、第一、入ったが最後、外を囲まれて出られなくなっても困るわよね」
シーゼは考え込んでいるのか、眼だけで天井を見上げるようにして言った。それに続いてシェインが口を開く。
「ああ。中も慎重に進むために戦力は必要だけど、外で塔の出入り口と逃走ルートを確保しないと、話にならないな」
こくり、とレヴィシアはシェインの言葉にうなずいた。
「あたしはもちろん内部。塔の最上階を目指すよ」
あの境遇の王弟には、どんな言葉も届かないかも知れない。
もし、その内側へ入り込めるとしたら、その可能性を持つのはレヴィシアだ。少なくとも、ザルツはそう感じ、危険が伴うと知りつつも、否定できずにいた。
「だったら、ユイも塔内部を頼む」
当然のようにユイはうなずく。
「でも、それだけじゃな。フィベルは連れて行かれると外がつらいから、外の担当として、後は俺かシーゼか――」
フィベルがこの場にいないのをいいことに、シェインはそうつぶやいて言葉を切った。
ティーベットは駄目だ。ユイと相性が悪い。協力などできないだろう。
ニカルドも、あてにしていいものか、まだなんとも言えなかった。
「私、混戦には慣れてるから、外でいいわ」
そう答えたシーゼを、ユイが一度見遣った。表情は何ひとつ変わらなかったけれど、言いたいことはなんとなくわかった。だから、レヴィシアは言う。
「シーゼは塔内部に一緒に来て。シェイン、ティーベット、ニカルドさんは外をお願い」
ユイの気が散るのは困る。この選択が正しい。
その決定を、ザルツも後押しするようにうなずく。皆、異論は唱えなかった。
「サマル、レーデは逃走ルートの確保をできるように、道を調べておいてくれ。それから、今回はけが人も予測される。すぐに対応できるよう、アーリヒも二人と逃走用の馬車に乗っていてほしい。俺もそちらに同行する」
それから、ザルツはちらりとユミラを見遣った。ユミラは彼に言われる間に自分から口を開く。
「僕は待機、ですね。わかっています」
クランクバルド家のユミラがあの塔の襲撃に参加していると、もし万が一目撃されたくはない。
この判断は当然だった。
プレナ、エディア、ゼゼフ、クオル、そういった後方支援メンバーも同じく待機だ。
ユミラは一度、柔らかく微笑んだ。
「僕だって、大叔父上にもう一度お会いしたい。ですから、ぜひお連れして下さい。お願いします」
「うん! ユミラ様のためにもがんばるよ!」
そう、レヴィシアは明るい声でまとめた。
けれど、誰しも同じように、胸に不安を抱えている。
慢性化してしまった不安は、飲み込むことにも慣れてしまったのだった。




