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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅵ

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219/311

〈7〉分担

 それから十日ほどして、ザルツは再び皆を集めた。


「まず、この塔は断崖にそびえる。つまり、背面は海――北と南の差はあるが、以前落としたヴァンディヌ監獄と近い立地だ」


 ザルツの指は、机の上の地図をなぞる。

 ただ、ヴァンディヌ監獄は、正面に坂になった野原があったけれど、今回は違う。崖の上で、そこまでの広さもない。踏み外せば海に転落する。海に落ちるよりも先に、岩場に頭をぶつけて死んでしまうかも知れないけれど。


「ネストリュート王子が来訪する時を狙ってみるか? そうしたら、会えるんじゃないか? あの王子にも一度会っておきたいだろ?」


 と、サマルが地図から顔を上げた。


「けれど、それだと、警備の兵が増えるだろう? 王子の側近を相手にするのは危険だ」


 ユイが言うように、王子の側近の女性、それから、ヤール。この二人がそろっていると、その分リスクが高い。ユイとフィベルならば十分に相手はできるはずだが、二人が手一杯になると、他の兵への対応が間に合わなくなる可能性がある。


「じゃあ、いない時を狙うという方向で?」


 そうレヴィシアが口にすると、ザルツもうなずいた。サマルは二人の方に顔を向け、集めた情報をもとにつぶやく。


「塔の警護は、内部は少数、周囲に多く控えてる。そこまではなんとか確認できた。つまり、何とかして中に入ってしまえば、案外楽に上に辿り着けるはずだ」

「でも、中の兵が少数でも、強敵かも知れないし、第一、入ったが最後、外を囲まれて出られなくなっても困るわよね」


 シーゼは考え込んでいるのか、眼だけで天井を見上げるようにして言った。それに続いてシェインが口を開く。


「ああ。中も慎重に進むために戦力は必要だけど、外で塔の出入り口と逃走ルートを確保しないと、話にならないな」


 こくり、とレヴィシアはシェインの言葉にうなずいた。


「あたしはもちろん内部。塔の最上階を目指すよ」


 あの境遇の王弟には、どんな言葉も届かないかも知れない。

 もし、その内側へ入り込めるとしたら、その可能性を持つのはレヴィシアだ。少なくとも、ザルツはそう感じ、危険が伴うと知りつつも、否定できずにいた。


「だったら、ユイも塔内部を頼む」


 当然のようにユイはうなずく。


「でも、それだけじゃな。フィベルは連れて行かれると外がつらいから、外の担当として、後は俺かシーゼか――」


 フィベルがこの場にいないのをいいことに、シェインはそうつぶやいて言葉を切った。

 ティーベットは駄目だ。ユイと相性が悪い。協力などできないだろう。

 ニカルドも、あてにしていいものか、まだなんとも言えなかった。


「私、混戦には慣れてるから、外でいいわ」


 そう答えたシーゼを、ユイが一度見遣った。表情は何ひとつ変わらなかったけれど、言いたいことはなんとなくわかった。だから、レヴィシアは言う。


「シーゼは塔内部に一緒に来て。シェイン、ティーベット、ニカルドさんは外をお願い」


 ユイの気が散るのは困る。この選択が正しい。

 その決定を、ザルツも後押しするようにうなずく。皆、異論は唱えなかった。


「サマル、レーデは逃走ルートの確保をできるように、道を調べておいてくれ。それから、今回はけが人も予測される。すぐに対応できるよう、アーリヒも二人と逃走用の馬車に乗っていてほしい。俺もそちらに同行する」


 それから、ザルツはちらりとユミラを見遣った。ユミラは彼に言われる間に自分から口を開く。


「僕は待機、ですね。わかっています」


 クランクバルド家のユミラがあの塔の襲撃に参加していると、もし万が一目撃されたくはない。

 この判断は当然だった。

 プレナ、エディア、ゼゼフ、クオル、そういった後方支援メンバーも同じく待機だ。

 ユミラは一度、柔らかく微笑んだ。


「僕だって、大叔父上にもう一度お会いしたい。ですから、ぜひお連れして下さい。お願いします」

「うん! ユミラ様のためにもがんばるよ!」


 そう、レヴィシアは明るい声でまとめた。

 けれど、誰しも同じように、胸に不安を抱えている。

 慢性化してしまった不安は、飲み込むことにも慣れてしまったのだった。


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