〈4〉ふたりの継承者
今後、どう動くべきか。参謀であるザルツの意見を、皆は待っていた。
そうして口を開いた彼は、はっきりとした口調で言った。
「先王と公爵の弟であるジュピト殿下にお会いしてみたいと思う。……もう少し踏み込むなら、幽閉先から連れ出せることが望ましい」
「え!?」
レヴィシアは思わず声を張り上げた。
王位継承権第一位の王弟ジュピト。
確かに、会えるのならば会ってその心のうちを知りたい。けれど、彼は先王が即位してからというもの、幽閉同然の暮らし振りなのだという。つまり、厳重に警備された中にいるということだ。
自分たちレジスタンス組織が気軽に会いに行けるような場所でも、人物でもない。強行突破するつもりなら、激しい戦闘を覚悟しなければならないだろう。
「大叔父上にですか……。僕も、実を言うと二度くらいしかお会いしたことがないのです。それも、十年近くの昔に。ですから、あまり覚えていることはないのですが、厳しい方だったように思います」
ユミラの言葉に、それぞれが納得した。何せ、あの公爵の弟でもあるのだから。
「ユミラ様が会いに行けば、すぐに通してくれるんじゃない?」
そう、クオルは簡単に口を挟むが、ユミラは苦笑して首を振った。
「以前ならまだしも、陛下が崩御された今となっては、むしろ僕が一番警戒の対象なんじゃないかな」
王位継承権第二位のユミラが、第一位のジュピトに会うこと。確かに、ユミラの心とは無縁に、何かしらの騒動が起こりそうだ。
「そうなると、公爵を頼ったとしても同じだな」
サマルの言葉に、ザルツはうなずく。
「けれど、もし、王位継承権を放棄してくれたのなら、俺たちの活動を更に軌道に乗せることができる」
ユイが、決意を秘めた声で言った。
ジュピト、ユミラ、その次の継承者は、先王のいとこである。公の場に出ることもあまりなく、民衆が納得して受け入れられる器ではない。だから、二人をこちら側に付けてしまえば、動きやすいことは事実なのだ。
そこでサマルは大きく伸びをした。
「とりあえず、俺、色々と探ってみるよ。王弟が幽閉されているのは、確か北東――海沿いの辺りだよな」
「ああ、頼む」
そううなずいてから、ザルツは何故かレヴィシアをちらりと見遣った。レヴィシアが小首を傾けると、彼はぽつりと言う。
「サマルが下調べをしているうちに、ユイや、アスフォテに戻っているフィベルに、タルタゴ山に入ってもらおうかと思う」
タルタゴ山とは、山賊『クラウズ』の出没する山である。ルテアが単独で向かった先であり、つまり、ルテアを探しに行くということだ。
「実は、手の空いたメンバーに、トイナックの町でもう一度情報を集めてもらったんだが、なんの情報も集まらなかった。『クラウズ』も最近は出没していないらしいが……」
「確かに、もう五ヶ月だもん。少し、遅すぎるよ」
シーゼも、そっとつぶやく。
ルテアを探しに行く。
それは、レヴィシアにとって何よりの願いだった。何度、会いに行きたいと願ったかわからない。なのに、レヴィシアはかぶりを振っていた。
「駄目だよ」
「レヴィシア?」
ユイが心配そうにレヴィシアに目を向けた。強がっている風に見えたのだろうか。けれど、それは違う。レヴィシアはそれを証明するように、ユイに笑ってみせた。
「帰って来ないのは、何か事情があるからなんだよ。だから、ちゃんと待とう。絶対に帰って来るから、大丈夫」
以前の自分なら、こんなことは言えなかった。騒ぎ立てて、誰よりも先に飛び出していた。それをせずにいられるのは、自分の役割を重く受け止められるようになったからか。
それとも、探しに向かったユイたちがルテアを連れずに悲痛な面持ちで戻る姿を想像してしまうからか。
きっと、両方だ。
信じて、迷って、それを繰り返して、待ち続ける。
レヴィシアの決断であるのなら、誰も異を唱えることはない。彼女を気遣うように口をつぐんだ。
「ま、いいんじゃない? レヴィシアちゃんにはボクがいるからね!」
と、クオルがレヴィシアに飛び付く。
「ありがと」
あはは、とクオルを抱き締めて微笑むレヴィシアだが、少し背が伸びた現在八歳のクオルは、幾つまであの調子なのだろうかと、皆はそれぞれに考えていた。




