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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅴ´

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203/311

〈3〉小袋の中身

「だったら――」


 そう、ルテアは口を開いた。


「だったら、少しでいい。今だけでいいんだ。待ってくれないか? そうしたら、俺も仲間に相談して解決策を探してみるから」


 敬語も忘れて、それしか言えなかった。今、アスフォテで起こっていることと、こちらのこと、両方を抱え切れない。だから、クラウズが少しだけ待ってくれるなら、急に襲ったりしないと約束してくれたなら、それだけでよかった。みんなに相談して、一緒に解決できたら、と。

 けれど、ムタルドは重々しくかぶりを振った。


「待てと言う。なら、その間、われらはどうすればよい?」

「え?」

「待ち続けて飢えろと? 女子供もいるのだ。弱い者から死んで行くだろう」

「っ……」


 待てと言うのは、こちらの都合だ。彼らには彼らの言い分がある。

 だとするなら、どうすればいい。勇んでやって来たものの、自分にはどうすることもできないのか。


 こんな時、仲間たちならどうしただろう。

 ふと、そんなことを考えた。そして、ようやく思い出す。

 ルテアは懐にしまい込んでいた小さな袋を取り出した。一瞬、クラウズたちが身構えたのがわかった。


 けれど、ルテア自身、ザルツに渡されたそれがなんなのかを知らない。用がなければ見ない方がいいと言う、物騒なもの。けれど、困った時には使えと。

 実際、今が困った時だ。だから、ルテアはその袋を、不自由な手で開いた。


 硬いことだけしかわからなかったその中身は、手の平に出してみた途端、唖然としてしまうような輝きを放っていた。クラウズの面々も、同じような顔をしていた。

 困ったら使え、と。

 ザルツはこういったことを予測していたのだろう。だから、ありがたく使わせてもらうことにした。

 ルテアは手を前に差し出す。その手には、金塊がある。


「これでしばらくは暮らして行けないか?」


 ムタルドはきつく眉根を寄せた。


「それを吾らに?」

「必要なら。これで食い繋げるだけの期間でいい。待っててくれ」


 すると、ムタルドは探るような目をルテアに向けた。半信半疑なのだろう。無理もないが。


「……半年、だな」

「十分だ」

「わかった」


 ほっと胸を撫で下ろしたルテアに、彼はスッと眼を細めて見せた。


「ただし、条件がある」

「え?」

「ホルク殿の息子――ルテア、だったな? その期間、お前はここに残れ」


 その一言に、ルテアは呆然としてしまった。

 半年。

 半年間も、活動から離れられるわけがない。

 その間に、レヴィシアたちに何かが起こらないとは言えない。

 そばにいないと――駄目なのに。

 ルテアはただ、困惑していた。


「俺たちは、王の立たない国、民主国家の実現のため、レジスタンス活動をしてるんだ。今は国軍とレイヤーナ軍との戦いの最中で、そんなに長く仲間のもとを離れられない」

「残れないのなら、信じろなどとは虫のいい話だ。油断したところを一網打尽にされると疑われても仕方がない。そうではないか?」


 それはそうだけれど、でも。


「――大体、そのけがで戦いに身を投じると? 吾らには、そのように愚かなことを言う者はおらぬがな」

「それは……」


 ルテアは動く方のこぶしを握り締めた。

 できもしないことを、しようとする。このけがを、守るべき対象に庇われながらそばにいる。多分、そうなってしまうのは事実だ。

 それでも、足手まといだと、役立たずだと、自身が認めることを拒んでいた。

 ルテアは再び顔を持ち上げた。


「わかった、残る。でも、半年よりも、できるだけ短くしてほしい」

「それはお前次第だ。それだけの信用を勝ち得てみせろ。父のようにな」


 不安が消えたわけではない。

 きっと、毎日毎日、レヴィシアの顔が頭から離れない。

 それも、最後に別れた時の、困惑と微かな怯え。

 次に会える時まで、それをひたすらに繰り返す――。


「誰か――ニール、お前でいい。少し休ませてやれ」

「はい」


 返事をしたのは、あの少年だった。

 ルテアは頭を垂れて礼をすると、立ち上がろうとした。けれど、緊張の糸が切れてしまったのか、目の前が大きく揺らいで、風景が溶けてしまったかのように意識の中から消えてしまった。


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