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〈序〉三日月の夜に
それと決意したのは、三日月の夜だった。
闇にくっきりと浮かび上がる、細く研ぎ澄まされた刃物のような月は、彼女にとって暗い未来そのものでしかなかった。
あれは、本来の姿ではない。
月は時が経てば満ちると知りつつも、そんな日は永遠に来ないかのような気になる。
満ちる時を待つことができない。
今すぐに、あの細い月を光で満たし、本来の姿を現してほしい。
そうして上を見上げ、遠い月に手を伸ばし、触れられないことに涙する。
自分の望みは、あれほどまでに遠く、手の届かない高みにあるのかも知れないと。
けれど、伸ばした手を、今度はしっかりと固く結んだ。
その手の中に、望んだ未来はまだない。
それでも、ただ待つことが嫌なら、いつか手が届くと信じて手を伸ばし続けるしかない。
自分にできること。
それは、そう多くはないのかも知れない。
それでもいい。
何かができるはずだと信じた。




