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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅴ

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〈27〉しっかりして

 エディアは翌朝、昨晩の出来事を報告するため、ザルツのもとへ向かっていた。

 彼がいる部屋は、サマルと使っていたため、今は一人だ。ドアをノックすると、くぐもった返事が返った。

 顔を合わせるのは何日振りだろうか。一瞬、胸がざわりと薄暗い予感を告げた。

 かぶりを振ってそれを振り払い、エディアは扉を開いた。


 すると、窓辺に椅子を置き、そこに座り込んでいる姿があった。その姿は、今までに見たどんな姿よりも陰鬱だった。ぐったりと、顔色も蒼白で、目の下に隈があった。眠れていないのだろうと、容易に想像できてしまう。


「ザルツさん……」


 呼び声に対し、ザルツはほんの少し、顔をエディアに向けた。そして、本人は多分、いつも通りに振舞っているつもりなのだと思われる口調で言った。


「何かあったのか?」

「何かあったのはそちらの方です」


 報告に来たことが、この時は頭から抜け落ち、どうしようもなく胸が痛くなった。こんな姿、見たくなかった。

 ザルツは苦笑する。


「すまない。……情けないな」


 エディアは思わず部屋の奥へ踏み込んだ。そして、正面からザルツを見据える。


「……私、あなたのことが好きだったんですよ」


 一瞬、ザルツは驚いた風だったけれど、すぐにまた虚無的な目をした。それが答えだ。

 それでいい。こちらも過去形だ。


「いいんです。あなたが誰に思いを寄せていたかなんて、すぐにわかりましたから」


 笑った。惨めな人間になりたくなかったから、気持ちを伝え、笑うことを選んだ。

 破れても、悲しくはない。二人の幸せくらい、願ってあげるから。

 想いとの決別は、案外、楽なものだった。拍子抜けしてしまうほどだ。

 何故だろう、と不思議に思うくらいに。


「俺は――」


 そのつぶやきを遮る。


「あなたは、他の人では癒せません。知ってます。だから、彼女が帰って来たら、もう間違えてはいけませんよ」

「そう、だな……」


 答えるけれど、本心では二人が戻ると信じ切れていないのだろう。喪うのだと、怯えている。

 もどかしいけれど、これ以上してあげられることはないのだろうか。

 せめて、サマルがいてくれたなら、とどこかで頼ってしまった。彼もまた、今頃は大変なはずだというのに。


 エディアは、こんな状態のザルツにも、アランの件を一応耳に入れた。ザルツは気を引き締めたようだが、正直に言って、自分のことで精一杯の彼には、どうすることもできないのかも知れない。

 念のため、エディアはユイと、それから同室のシーゼにも同じ内容のことを話しておいた。

 レヴィシアの不安にアランが付け込んでいるのだとしたら、みんなで協力してレヴィシアを守らなければならない。



        ※※※   ※※※   ※※※


 

 アランが思惑通りにことが運ばず、苛々と物に八つ当たりしている姿を目にしたレーデは、一人嘆息していた。


 彼は、自分が中心の世界に住んでいる人だ。

 顔立ちが整い、家柄もよいアランは、女性が自分になびいて当たり前だと思っている節がある。多くは勘違いもあるのだが、レーデはそれを指摘する立場にはない。

 多分、レーデのことも、自分に惚れていると思っている。だから、自分に従うのだと。

 そんなアランだから、自分を突っぱねたレヴィシアを、きっと憎らしく思っているだろう。


 仲間たちを使い、レヴィシアに嫌がらせめいたことを言わせて、それを慰めるなんて、やり口が汚い。

 何度か、レヴィシアに近付こうとした仲間たちが、ユイやシーゼといったメンバーににらまれて引き下がるという場面も見た。そうして、現状が動かないからこそ、アランは荒れているのだ。

 


 レヴィシアは、やはり不安そうにしている部分はある。けれど、どこかに芯を残している。

 あの、好きな人の話を振った時に見た、照れたような仕草――。

 彼女にはきっと、アランを突っぱねられるだけの確かなものがあるのだろう。


 レヴィシアは、笑っていた方がいい。

 だから、皆が彼女を守ってくれることを、レーデは祈った。


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