〈17〉きれいなものを集めて
会議が終わり、レヴィシアは立ち上がってユイの方に歩み寄ろうとした。先ほどの会話の内容に、ユイがどう思ったのかも気になるところだった。
ただ、ユイが壁際に寄ると、『ゼピュロス』の女性メンバーが数人、彼に集まって行った。彼女たちは嬉々としてユイに話しかける。ユイは無表情のまま、最低限度の受け答えをした。
そんな光景を目の当たりにし、レヴィシアは唖然としてしまった。
親睦を深めるのはいいことだけれど、何故女性ばかりなのだ、と。
レヴィシアがふくれっ面を向けていることに、ユイは気付いていない。
「何あれ、何あれ、何あれ」
ぶつぶつとつぶやく。
「あたし、先に帰るね!」
ぷりぷりと怒り、レヴィシアはさっさと背を向けた。それを、ルテアが困惑しながら追いかける。一人歩きは危ないと思ってだろう。
そんな様子を眺めながら、ザルツは嘆息した。
「ユイがいつも甘やかしているからだ。あいつには、もう少し大人になってもらわないとな」
「あら、子供じゃないから怒るんじゃない」
苦笑しながら言ったプレナの言葉に、ザルツは眉根を寄せた。
「どういう意味だ?」
そう問いながらも、正解を聞く前に自力で気付いた。ただ、それを全力で否定する。
「まさか。それはない」
「そんなの、ザルツにわかるの?レヴィシアは女の子だもの。恋のひとつくらいするでしょ」
「それはそうだが、相手がユイだって?四六時中一緒にいて、今までそんな素振りも見せなかったのに」
「いつ意識し始めるかなんて、誰にもわからないわよ。……ま、ザルツは鈍いから、気付かないでしょうけど」
最後の一言に、精一杯の皮肉を込めた。
「別に、鈍くはない」
そう言い張るザルツに、プレナは冷ややかな視線を向けた。
鈍くないと言い張るのなら、いい加減にこの気持ちに気付いてくれてもよさそうなものだ。
いつもそばにいるのだから。
※※※ ※※※ ※※※
その後、家に戻ると、同じく戻って来たサマルに説明しながら話を整理する。
「……と、そういうわけだ」
サマルは途端に嫌な顔をした。幼なじみのザルツが何を考えているのか、すぐに読み取れたのだろう。
「俺に付いて来いって?」
「そうだ。情報収集が目的だからな」
「あ、そ」
と、サマルは口を尖らせる。どうやら、諦めたようだ。
「用心棒にシェインが来てくれるんでしょ? 後は誰を連れて行くの?」
すると、そこで名乗りを上げたのはラナンだった。
「ロイズさんが囚われているヴァンディア監獄に最も近い、ギールの町で偵察するのなら、俺も行くよ。昔、あの辺りに行ったことがあるから、少しは詳しいし」
ラナンが付いていてくれるのなら、レヴィシアも安心して送り出せると思った。それはザルツも同じだったのだろう。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「ああ」
その四人に決定かと思った。けれど、もう一人名乗りを上げる。
「私も行くわ」
「えっ」
また、サマルが異常に反応する。
「男性ばっかりだと警戒されるでしょ? きっと、女性もいた方が便利よ」
それはとても真っ当な意見だった。
監獄に近いような場所だ。あまり安全とは言い切れない。けれど、レヴィシアにはプレナの気持ちがわかるから、送り出してあげたいと思った。
「……わかったよ。でも、気を付けてね」
「うん。ありがとう」
サマルもザルツも、リーダーのレヴィシアの決定に先を越されてしまい、物言いたげな視線を向けたものの、仕方なく黙った。レヴィシアはほっとしたけれど、これでよかったのかという気もする。
ただ、微笑むプレナの笑顔を、レヴィシアはきれいだなと思った。
プレナはただ、ザルツのことが心配だから、付いて行きたいのだ。
役に立ちたい。心底そう願っている。
その健気さがきれいだ。
プレナがザルツに向ける感情を、正直うらやましく思う。
それは、きれいなものばかりを集めて作られている。
キラキラと輝く想い。
自分とは、なんて違うのだろう、と――。
※※※ ※※※ ※※※
その翌日の昼には、五人を見送ることになった。
「二人とも、レヴィシアのことをお願いね」
プレナにそう頼まれ、ユイとルテアはうなずく。
「プレナもくれぐれも気を付けてね。なるべく早く戻って来て」
レヴィシアにしても、彼らがそばを離れてしまうことが不安でないはずがなかった。一時はひしめき合っていたあの家の中に、今はたった三人になってしまう。
特に、プレナがいないことが一番嫌だったが、彼女のために我慢する。
「うん。じゃあ、行ってきます」
そう言って手を振ったプレナの両端に、ザルツとサマルがいる。心配は要らないと思いたい。
「……さて。あたしたちもできることをしよう?」
レヴィシアはそう言ってルテアに微笑んだ。
「ああ。まず、鍛錬でもするかな」
「あたしも付き合うよ」
そんな二人を、ユイは無言で眺めていた。レヴィシアはそんなユイに顔を向けない。
なんとなく、おかしな空気を感じ取ったルテアだったが、二人を見比べても、その理由がわからない。
だから、追求することはしなかった。
多分、ろくな理由じゃない。
そんな予感だけがあった。




