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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅴ

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〈19〉合流

 その翌日、ザルツがまず到着した。けれど、彼は一人だった。ルテアはまだ戻らない。レヴィシアは内心がっかりしたけれど、なるべくそれを表に出さないようにザルツを迎えた。


 そして、その後、シェインとレーデ、それに加え、『ポルカ』のメンバーが十六人。まだまだ増える予定であり、さすがに、全員を屋敷に留めておくのは申し訳ない。あらかじめ、アーリヒやプレナたちがユミラと公爵の力添えのもと、空き家を数軒用意していたので、そこに詰めてもらった。


 そうこうしているうちに、サマル、ティーベット、フィベルが、残りの『ポルカ』のメンバーを連れて到着する。こちらは十八名だった。

 アスフォテに潜んでいた以外のメンバーは、各地に潜伏しているらしく、アランが声をかければいつでも動くだろう、とのことだ。

 その受け入れの、あまりの慌しさに、レヴィシアは目が回りそうだった。



「ほんっとに、むちゃくちゃだよ、フィベルさん」


 サマルはぐったりと疲れた様子で、ことのあらましを語った。

 殺気立ったヤールに追い回されたフィベルは、彼を撒いて逃げたのである。フィベルは入り組んでいるアスフォテの路地を知り尽くしており、ヤールは土地勘がなかった。だからこそできた芸当である。

 ただ、危ないことこの上ないのだが。次に会った時が恐ろしい。


 サマルは他の馬車を先に出発させ、最後の一台ギリギリまでフィベルを待ち、走って来た彼を無理やり詰め込んで来たのだった。スレディに断りもなく町を離れることを渋ったが、フィベルは仕方なく町を後にした。


「それじゃ、後はエディアとフーディーとスレディさんだね」

「ああ……」


 活動を休止し、この屋敷に滞在しているロイズはどこか力なくうなずく。

 娘のエディアが心配なのだろう。危険はないと思いながらも、絶対とは言えない。

 彼は足が不自由であるが、でき得る限りのことをしようとする。今は、公爵の仕事を手伝っているらしい。几帳面な彼には、書類整理などといった仕事が向いている。その誠実な人柄は、公爵にも気に入られているそうだ。


「師匠、多分来ない」


 フィベルがぼそりと言う。

 確かに、来ない気がする。仕事が残っているなら、来ないだろう。

 ただ、スレディに関しては危険もないとは思う。じっとしているなら、それで大丈夫だろう。



 そうして、その二日後、エディアとフーディーはやって来た。意外な人物と共に。


 レヴィシアは、その顔を見た瞬間に固まってしまった。


「うぁ」


 ユイとシェインも同様だった。

 スレディのところにいるとは聞いていたものの、こう堂々と顔を合わせることになるとは思っても見なかった。

 一度はレヴィシアを鉄格子の中に入れた、元軍人のニカルドは、なんとも言えない複雑な面持ちでつぶやく。


「妙齢の娘とご老人の二人だけで旅をさせるわけにはいかない。だから、仕方がなく……」


 そんな様子に、フーディーは意地悪くケケケ、と笑っていた。

 ロイズはニカルドに、椅子に座ったままの体勢で頭を下げる。


「それは、ありがとうございました。私は足が悪いもので、このままの姿勢で申し訳ありませんが、娘に代わり、御礼申し上げます」

「い、いえ……」


 ニカルドの方が、その丁寧な挨拶に恐縮していた。


「それにしても、まさか公爵家とレジスタンスが繋がっているとは……」

「まあ、最近のことだけどね」


 と、クオルが口を挟んだ。その幼い子供の姿に、ニカルドは更に目を白黒させる。この子もレジスタンスなのか、と。そんな姿に、ユミラはクスクスと笑った。


「色々な人間の集まりなんですよ、この組織は。でも、それこそが可能性だと、僕は思います」

「はぁ……」

「どうか、ゆっくりとされて下さい」


 そんなユミラの言葉に、ニカルドは頭を下げた。

 そして、前もって依頼してあった、ユイの長弓と矢、シーゼのための新しいエストックも持って来てくれた。前の作戦で、ユイは弓を置き去りにしてしまい、シーゼの剣は使い物にならないほどに壊れてしまっていたのだ。


 剣が手もとにあるというだけで、シーゼは見るからにほっとしている。けれど、まだ足が本調子ではないのに無理をするのではないかと、周囲が心配していたのも事実だ。



 そんな中、エディアが、後生大事に抱えていた、布に包まれた大きめの荷物が、サマルはひどく気になった。何を持ち帰って来たのだろうかと。



        ※※※   ※※※   ※※※



 そうして、その晩。

 エディアはスレディに借りた弓を室内で引き絞っていた。今は、クランクバルドの使用人の住まいの一室を借りている。

 同室のシーゼは、エディアが事情を話しても驚かなかった。戦う力を求めていることをすでに知っているからだろう。静かに、がんばってと激励してくれた。


 シーゼが言うには、今は弓の名手として知られるユイだが、シーゼが知っている頃は、弓など扱っていなかったらしい。多分、レブレムのことがあってから、レヴィシアと逃げる中、そういった技も必要になると思って覚えたのだろう。

 短期間で上達する術を、今度ユイに尋ねようかと思う。ただ、固く口止めして、父には内緒にしてもらおう。


 シーゼが眠りについてからも、エディアは何度も弓を引く。素手で弓弦を弾き続けたせいか、指先は擦れたようにひりひりと痛み出した。けれど、そんな痛みは気にしていられなかった。

 ひたすらに、その動きを続ける。

 心を静め、矢が飛ぶさまを思い描く。ただ、ひたすらに。


 その先にあるものは――。


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