〈13〉ポルカ
サマルが巡回の兵士に見付からないよう、船の収納庫まで向かうと、そこにはすでにシェイン、ティーベット、フィベルといった面々がそろっていた。それに加え、レーデがいる。彼女は、アランとは違い、人任せにはできなかったのだろう。戦える風ではないが、その心意気は立派だと思う。
ガランとした収納庫の中だと、小さな声さえもよく響く。サマルはなるべく声を落とした。
「……向こうが動き出すまで、もうしばらくの辛抱だからな?」
『ポルカ』のメンバーたちは憔悴しながらも、何度かうなずく。ここにいるのは二十人程度だ。まだ、他にもいる。
「みんな散り散りに隠れているから、私はそちらを回って来るわ」
そう切り出したレーデに、シェインが反応する。
「じゃあ、オレが一緒に動くよ」
「うん、気を付けてな」
そうして、二人は去った。
じっと待つ時間が長かった。差し入れた食事も食べ終え、『ポルカ』のメンバーたちは焦れたように顔を曇らせる。本当に、助かるのかと。
そうして、一人の青年がぽつりと言った。
「なあ、あんたたち」
「ん?」
「あんたたちのリーダーって、まだ十六歳の女の子なんだろ?」
「まあ、な」
サマルは苦笑する。
「……それで、不安じゃないのか?」
それを皮切りに、ぽつりぽつりと声がする。
「遊びじゃないんだ。いくら父親が有名でもさ……」
「子供に付き合ってて、国が変えられるのか?」
当たり前な意見と言えば、そうだった。
ただ、その『子供』は彼らを救い出すことを何よりも優先するよう、強く訴えた。そんなことを、彼らが知るはずもない。
短気なティーベットを遮り、サマルは口を開く。
「そんなの、会ってみてから判断してくれないか?」
そうして、笑ってみせた。
「俺がどうこう言うより、それが手っ取り早いから。そのために、まずここから抜け出そうな」
『ポルカ』のメンバーたちは、顔を見合わせると、それ以上何も言わなかった。
ついでに言うなら、フィベルも何も言わなかったので、存在感がまるでなかった。
※※※ ※※※ ※※※
そうして、別れたシェインとレーデは、建物の陰に潜みながら巡回の兵士をやり過ごす。
どうやら、東側がシェーブル兵、西側がレイヤーナ兵、と縄張りが別れてしまっているようだ。こちらの収納庫があるのは西側である。よって、こちらをうろついてるのはレイヤーナ兵だ。
どちらも等しく厄介だが、顔の割れているシェインにしてみると、シェーブル兵の方が出くわしたくない。そう思っていたのだが、単独でプラプラと歩いている男を目撃した瞬間、シェインは凍り付いた。
精悍そうな顔立ちに、しっかりと筋肉の付いた筋張った腕。二本の房の付いた剣を帯びたその姿は、王都で出会った時とまったく同じだった。
ヤールと名乗った、正体不明の男。
けれど、サマルの報告によると、レイヤーナ側の人間らしい。レイヤーナ王子であるという、ハルトと共にいた男と特徴が一致している。ほぼ、間違いないだろう。
彼がシェインを見てレジスタンスと結び付けるかはわからないが、できることなら顔を合わせずにやり過ごしたい。残念ながら、一人で勝てる相手ではないと冷静に分析済みである。
あの男がここにいることを誰も知らない。このまま作戦を開始して、障害にならないだろうか
そんな不安が過ぎるけれど、今更どうにもならない。知らせている時間もない。上手く行くことだけを祈るしかなかった。
「……どうしたの?」
レーデが声を潜める。シェインは小さくため息をついた。
「うん、あの男、要注意人物だから。絶対、見付かっちゃ駄目だ」
「そう」
彼女は常に落ち着いている。それが妙に頼もしかった。
そうして、彼をやり過ごし、二人は『ポルカ』のメンバーたちに連絡に走った。ただ、中にはリーダーのアランが出向かなかったことに不満を示す者もいた。それを、レーデがしっかりと説き伏せる。やはりアラン以上に、彼女の存在で組織が保てている。
正直に言って、シェインにも、何故彼がリーダーであるのか、理解できなかった。
底の浅さを感じてしまうのは、偏見だろうか。付き合いの長さもなしに、そう判断してしまうのは早計かも知れないが、どうしても、好きになれない何かがある。
レーデのように聡明な女性が、ああいった男に従い、尽くしているさまは何か物悲しい。彼女自身がそれを望むのなら、他人がとやかく言うべきではないが。




