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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅴ

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〈12〉突入前

 作戦当日の朝になって、レヴィシアとユイはアランに報告に向かった。

 宿の一室で、アランはレヴィシアの話を素直に聴いている。後ろに控えているレーデも無言だった。


「――そういうわけだから、心配しないでね。アランはザルツたちと一緒に動いてほしいの」


 共闘したことのない彼が足並みを乱す可能性もある。だから、今回は作戦に加えないというザルツの判断だった。

 アランが、自分の仲間を自ら救出に向かえないことに不満を示すのではないか、とレヴィシアは心配していた。多分、自分だったらすごく嫌だ。


 けれど、彼はそれを言わなかった。アランは、レヴィシアよりは大人だったせいだろうか。聞き分けのないことを言わずにいてくれて、助かったけれど。

 ただ、アランは眉根を寄せ、じゃあ、と言って去ろうとしたレヴィシアの手を取った。


「え? 何?」


 驚いてレヴィシアが振り返ると、彼は神妙な顔をして、レヴィシアの手を自分の胸元に寄せた。


「君がそんなに危ないことをしなくてもいいのに」

「え、あたし? あたしなら大丈夫。すぐに逃げるから」


 そう言って引き抜こうとした手を、アランは更に強く握った。


「でも、心配だ。君に何かあったら――」


 さすがに、こうも強く手を握られている状態に、レヴィシアも焦り始めた。


「だ、大丈夫だってば」

「絶対にとは言えない」


 何か、妙に熱っぽい口調だった。レヴィシアが慌てふためいていると、不意にその手がゆるむ。


「悪いが、時間がない。レヴィシアのことなら俺たちが全力で守る。ただ、信じて待っていてくれ」


 ユイに腕をつかんで引き剥がされ、アランは顔をしかめた。ユイの方はほとんど表情など浮かべていない。ユイはアランの手を解放すると、レヴィシアの肩を抱き、庇うようにしてその場を去った。

 その間、やはりレーデは一言も口を利かなかった。まるで、自らの存在をその場から消し去ろうとするかのように。



「――ありがと、ユイ」


 部屋の外で、レヴィシアは盛大にため息をついた。


「アランにしてみたら、特別意識してのことじゃないのかも知れないけど、焦っちゃった」


 ユミラも、プレナやエディアのようなおしとやかな女性に対しては紳士だ。気障キザと言ってもいいような扱いをする。貴族男子はそういう行過ぎた女性の扱いが身に染み付いているのかも知れない。

 ただ、おてんばなレヴィシアをユミラは女性扱いしてくれないため、耐性がなかった。

 あはは、と笑うレヴィシアに、ユイは何か少し険しい表情を見せた。


「あんまり、一人の時に彼に近付かない方がいい」

「へ?」

「……とりあえず、急ごう」

「う、うん」



        ※※※   ※※※   ※※※



 サマルだけは先にアスフォテに潜入していた。

 スレディの工房を訪ね、状況を説明する。ここにいる面々は待機し、その後、落ち着いてからリレスティで合流するということを伝えると、スレディはケッと吐き捨てた。


「また、きな臭ぇな。その上、ルテアの坊主、いないんだって? せっかく俺が武器を仕上げてるってのに――」


 不機嫌の原因は、それらしい。いたとしても、あのけがでは槍など振るえないのだが、スレディは早く手渡したかったのだろう。

 サマルとエディアは顔を見合わせて苦笑する。


「……この町で、戦闘が起こる、と」


 ぽつり、とニカルドがつぶやく。呆然としている風だった。

 そんな彼に、サマルはおずおずと言った。


「協力、してもらえると助かるんですけど、無理ですよね?」


 ニカルドは強張った顔を下に向けた。


「元部下たちと戦え、と?」


 駄目でもともと。言ってみただけだ。

 サマルはかぶりを振る。


「そうですね。邪魔せず、傍観してくれるだけで十分です」

「…………」


 そんな彼を、フーディーは目を細めて眺めた。その視線が、ニカルドを苛む。

 けれど、サマルにはその苦悩がわからなくもなかった。


「ただ、もしもこの工房が危険にさらされた時は、ここの三人をあなたが守って下さい」


 屈強でもなんでもないサマルだが、今のニカルドよりはしっかりと意志を持っている。ニカルドは、そんな歳若い青年に、静かに答えた。


「わかった。それだけは約束しよう……」


 すると、スレディは再びケッと吐き捨てる。


「こんなボンクラに守ってもらうなんて、まっぴらだ」

「ワシも」


 フーディまでそんなことを言う。


「お二方!」


 エディアが諌めるが、老人二人はそっぽを向いた。すねた老人の相手は大変である。


「エディア――じゃあ、そういうことだから、よろしく」


 苦り切った顔でサマルはそう、きびすを返しながら言った。


「はい。サマルさんもお気を付けて」


 笑って見送ってくれるけれど、サマルは彼女に何か引っかかりを覚えたりもする。

 ただ、今はそれに構っているだけの時間もない。また、ゆっくりと話す時間を取りたいと、なんとなく思った。


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