表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅴ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

176/311

〈11〉内緒話

 その後、リビングにて、レヴィシアは再び皆と向き合っていた。アランとレーデには宿を用意したので、ここにはいない。

 サマルはアランたちがいなくなってから、いつものように伸びやかな調子で口を開いた。


「駐屯してるシェーブル兵と、レイヤーナ兵の数は、多い方じゃない。各地で出没するレジスタンスに対応するため、兵を分けるしかなかった結果だろうな。今の俺たちの兵力でもなんとかなるはずだ」


 そう言いながらも、ただ、と言葉を切る。


「何か嫌な予感がする。ここは以前、レヴィシアを逃がしてしまった失態があった場所だ。警備が手薄なはずはないんだよな」

「そうだな、少数精鋭ということもある。どうやって切り込むか……」


 眼鏡を押し上げ、ザルツもつぶやく。そこで、レヴィシアは珍しく閃いた。高らかに手をあげる。


「はい! いいこと思い付いた!」


 その途端、その場にいた誰もがひどく嫌な顔をした。まだ何も言っていないのに、とレヴィシアは頬を膨らませ、それから言う。


「あたしの顔を覚えてる兵士がいるよね。だったら、あたしが兵士を引き付けて、その隙に『ポルカ』のメンバーを助け出せばいいんじゃない?」

「却下だ」


 間髪入れず、ザルツはレヴィシアをにらんだ。ユイも眉根を寄せている。ルテアがここにいたなら、きっと同じ反応をしたことだろう。


「なんで? それが手っ取り早いのに」

「手っ取り早い代わりにリスクが大きいよ」


 と、ユミラもため息混じりにぼやく。


「そうよ。もうあんな思いさせないで」


 プレナにそう言われると困ってしまうが、レヴィシアなりに言い分もあった。


「でも、今、この時も『ポルカ』の人たちは心細い思いをしてるんだよ。少しでも早く助けてあげなきゃ駄目。だから、多少危なくったっていいじゃない。あたし、がんばるから」


 こうなると、もうひたすらに突っ走る。

 けれど、そんな彼女だから、みんなが付いて来ると言ってしまえばそれまでだ。


「あ、シーゼは待機しててね。ユイの気が散るから」


 そう、笑って言えるようになっただけ、レヴィシアは成長したのかも知れない。


「ごめんね、治ったらがんばるから」


 しょんぼりとしたシーゼに、レヴィシアはかぶりを振る。

 ザルツは深く嘆息すると、複雑そうな面持ちのユイに言った。


「ユイ、レヴィシアを頼む。ただ、本当にすぐ逃げるように。シェイン、ティーベット、フィベルは救出。サマル、逃走ルートを確保して、上手く誘導してくれ。アーリヒはけが人が出ることを想定して備えてほしい。救出後、一度リレスティに向かおう。残りのメンバーは、馬車の手配、後、食事も必要になるな。それぞれ、頼む」


 皆がうなずく。ただ、フィベルだけは嫌そうだった。


「まだ?」


 まだ、こき使うのかと。

 あてにしないでほしかったようだが、人手不足なので、そのつぶやきは無視された。



        ※※※   ※※※   ※※※



 その後、レヴィシアとプレナは宿の風呂を借りに向かった。この民家には風呂がないのである。シーゼとアーリヒは後で入ると言うので、二人で来た。

 すると、その脱衣所にレーデの姿がある。


「あ、レーデさんだ」


 レヴィシアが笑いかけると、彼女は少し困ったような表情をした。それに構わず、レヴィシアは駆け寄る。レーデの下ろしている髪は濡れておらず、今から入るのだと見て取れた。


「あたしたちも今から入るとこ。丁度よかった」

「え、ええ」


 人懐っこいレヴィシアに困惑している彼女の姿に、プレナは苦笑した。




 そうして、彼女たちは湯船につかる。石を積み上げて固めたような、古臭い浴槽だったけれど、レヴィシアは楽しそうだった。


「ねえねえ、レーデさんとアランって、恋人?」


 レーデは一瞬、ほうけてしまった。それから、クスリと苦笑する。


「いいえ。主従関係と言った方がわかりやすいかしら」

「主従、ですか……」


 プレナが首をかしげる。


「ええ。私はアラン様のご実家の、使用人なの」


 それだけの関係で、危険なレジスタンス活動まで付き合うのかと、レヴィシアの顔に書いてあった。


「ふぅん。でも、好きだったりしないの? 内緒にしておいてあげるよ。ね、ほんとはどうなの?」


 無邪気なものだ、とレーデは思った。その濁りのない瞳が眩しい。


「そんな風に思ったことは一度もないわ」

「そうなんだ?」


 あまり信じていない風だった。なんでも色恋に結び付けたくなる年頃に、何を言っても無駄だと思う。


「……あなたは?」

「へ?」

「レヴィシア、好きな人とかいないの?」


 ただ、こういう話をしたがるくせに、自分に向けられると弱いようだ。


「あ、あたしは――」


 目に見えてうろたえたレヴィシアを、プレナは優しく微笑を浮かべて見守っている。

 レヴィシアは赤い顔を両手で包み込むと、わかりやすい言い訳を言った。


「なんか、のぼせちゃった。もう、上がるね!」


 逃げた。

 かわいらしくて笑ってしまう。レーデは久し振りに声を出してクスクスと笑った。

 そして、あの純粋な娘がアランに利用されようとしているのかと思うと、ぞっとした。

 願わくは、彼の気が変わってくれるように――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ