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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅴ

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〈10〉ちぐはぐな

 アスフォテの町にある駐屯兵の詰め所で、シェーブル軍の面々と、よそ者であるレイヤーナ軍は相容れない状態であった。

 シェーブル兵隊長は新任して間もなく、部下の機嫌を取るのに忙しい。

 そして、レイヤーナ軍の指揮官は、やる気がなかった。


 ふたつの派閥が、常にお互いを意識し、動きを監視している。本当にしなければならないことは、抵抗組織のあぶり出しなのだが、それすらおざなりだった。

 この町に潜んでいるという情報が寄せられてから、巡回は続けている。ただ、未だに見付けられずにいるのは、この勢力争いのせいだろう。


 レイヤーナ軍の指揮官、ヤンフェン=ヤールはふぁあ、と大きくあくびをした。

 短い頭髪に、精悍な顔立ち。軍服は窮屈だから嫌いだと、鍛え上げられた二の腕を見せ付けるような軽装だった。腰には赤と紫の房の付いた二本の剣がある。


 格式、美、そういったものを重視するレイヤーナの国柄と、この男はまるでちぐはぐだった。だからこそ、部下たちは何故この男に従わねばならぬのかと、憤懣やるかたない。

 ただし、その命を下したネストリュート王子には、絶対の信を置く。だからこそ、この男が重用されていることも気に入らなかった。素性怪しく、軍にさえ正式に所属していない、粗野なこの男が何故――そればかりを思う。


 にらみ合っていたシェーブル軍とレイヤーナ軍は、彼の気の抜けるあくびに水を差された。


「た、退屈そうですな。それなら、巡回でもされたらいかがですか?」


 部下の皮肉に、ヤールはうん、とうなずく。


「そうする。じゃあな」


 パタパタと軽く手を振って去った。品位も何もなく、あれがひと目でレイヤーナ人だと知れなくてよかったのかも知れない。部下たちはそんな風に思った。



        ※※※   ※※※   ※※※



 ヤールは潮風が鼻先をかすめる町を歩く。こういう雑然とした町並みは、レイヤーナにはあまりない。けれど、ヤールはこの空気が嫌いではなかった。


 今回、急に主であるネストリュートからこちらへ向かうように指示を出されてしまった。正直、面倒だった。

 同族のリンラン――彼女なら、ネストリュートが一声かければ、喜んで討伐に向かっただろう。彼女にとって、ネストリュートの命に従えることは喜びなのだから。

 いつも自分ばかりが働いて、ヤールは怠けていると不満たらたらだった。否定もできない事実だが。


 ただ、ヤールにとっても、ネストリュートは絶対だ。

 あの、王者として相応しい、ただ一人の存在。

 ただし、こう、目の届かないところにいると、時々息抜きしたくなるのも事実だが。


 この国は、暴動が頻発しているけれど、もともとはのどかで過ごしやすい国だったはずだ。この国の価値を、ネストリュートはどのように考えるのか。

 彼が腹のうちをさらすのは、常に近侍しているティエンか、腹心の弟君、ハルトビュートだろう。もしくは、誰も何も知らないのかも知れない。


 彼の思惑によって、この国は翻弄されるのだろうか。それとも、内戦によって自滅するのだろうか。

 この愚かしい状況を招いた、今は亡きシェーブル王は、やはり王の器ではなかったのだろう。

 暗君ならば、早々に排斥する必要があった。それをしなかった、この国の甘えた者どもが、国と共倒れになるのだから、どんな未来にも文句など付けられたものではないが。


 ただ、レジスタンスたちは、自らの望む者を新たな王に就けようとしているようだ。

 不安定な今だから、都合のいい夢想をする。

 そんなもの、本気で叶うと思う方がどうかしている。

 付け焼刃の、寄せ集めの兵力と、それを従えて図に乗る程度の人間が、王の器だと、彼らは本気で信じて戦っているのだとしたら、こんなにも滑稽なことはない。


 優しさ、下の者への理解、そんなものがすばらしく思えたなら、それは平和ボケだ。

 この諸島、そんなにも生易しい王の国では生き残って行けない。レイヤーナの属国になることを恐れるのなら、尚更だ。

 心優しいだけの弱い王では、他国に飲まれる未来があるだけ。


 だからこそ、レジスタンス組織など、数多くあろうとも、どれも同じだ。

 全部刈り取って、平らげる。

 そうして、相応しい者が王になる。

 そうすることでようやく、この国は正常な状態に戻るのだ。


 ただ、それには少々の手間がかかる。

 面倒だった。

 もう少し、応援を増やしてほしい。

 そう、ヤールは嘆息していた。


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