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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅴ

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〈9〉策略

 翌日、レーデとサマルがシェンテルに戻って来た。

 サマルはザルツに、レーデはアランにそれぞれ報告する。


「――エディアとフーディーは、あの工房から出なければ無事だろう。この際、下手に動くよりはこのまま残ってもらった方がいい」

「まあ、そうだな」

「フーディー、元気だった?」


 そう尋ねるレヴィシアに、サマルは苦笑してうなずく。

 そんなやり取りをしていると、アランとレーデが戻って来た。アランは微笑を浮かべているが、レーデは常に表情を変えない。何を思っているのか、窺い知ることはできなかった。


「大事な話があるんだが、いいかな?」


 アランがそう切り出す。

 皆、姿勢を正し、それを待った。


「僕たち『ポルカ』は、今後、君たち『フルムーン』と合併したい。もちろん、リーダーはレヴィシアでいい。僕は補佐に回るつもりだ。……受け入れてもらえるだろうか?」


 それは、組織にとっては願わしい申し出だった。『ポルカ』は構成員の数も多い。不慣れな構成員たちも、ユイたちが指導すれば、戦力になるはずだ。

 ただ、ザルツはその言葉の真意を測っている風に見えた。


「俺たちの目標は、民主国家の実現。それを理解された上での決断ですか?」


 アランはそれでも笑みを崩さなかった。その問いに、レーデが答える。


「はい。それがこの国を解放することであると信じます」


 拒む理由はなかった。

 そうしたら、また理想に一歩近付ける。レヴィシアはそう思った。


「レヴィシア、一緒にこの国を救おう」


 その言葉に、レヴィシアはうなずく。


「うん。ありがと」


 この時、ユイ、ザルツ、サマル、そうした面々は、何かを感じていた。けれど、それを口に出せるほど、はっきりとではない。

 漠然と、ただ、何かを感じて、レヴィシアを見守っていた。



        ※※※   ※※※   ※※※



 そうして、アスフォテへ進行する段取りが組まれて行く。

 その打ち合わせを終えた頃、アランとレーデの二人は民家の外で話していた。


「ファルスは結局、見付からずじまいか」

「はい」

「あいつ、優秀だったから、惜しいなぁ」

「そう、ですね」


 アランにとって、他人の価値とは、自分に何をもたらしてくれるかで決まる。

 だから、彼がレヴィシアにリーダーの座を明け渡すと言い出した時、ぞくりとした。善意で身を引くような人間ではない。だとするなら、何か謀があってのことだ。


 あの幼い少女をどのように利用するつもりなのか。

 けれど、自分は逆らえない。そばでうなずくだけだった。

 アランは、嫉妬深い目をして、吐き捨てる。


「クランクバルドにフォード、フェンゼース……そんなやつらがいるんだ、この組織には」


 貴族の家に生まれ、アランは幼い頃からかしずかれて来た。

 けれど、彼は家督を継ぐべき長子ではない。

 居場所を求め、ふらりと旅立ち、レジスタンス活動を始めた。国を憂えたわけでもなく、ただ自分をないがしろにしたすべてを見返すためだけに。


 そんな彼だからこそ、他人の下につくことが我慢ならない。

 それを、レーデは誰よりもわかっている。だからこそ、心が重く、暗澹とした。

 そうして、彼は言う。


「この組織を丸ごと手に入れれば、彼らの上に立てる。僕に従えることができる。なあ、そうだろう?」


 その考えは彼にとって、とても甘美だったはずだ。

 けれど――。


「彼女から、仲間を奪うのですか?」


 すると、アランは嫌な笑みを浮かべてかぶりを振った。


「まさか。あのいたいけな少女を放逐するなんて、そんな非道なことはしないよ」

「では……」

「彼女はレブレム=カーマインの娘として、十分に価値がある。人気取りにはまだまだ必要だ。それに、彼女がいなければ、組織の面々は納得しないだろう」


 彼の企みが、手に取るようにわかったからこそ、レーデは内心では彼を罵っていた。


「まず、レヴィシアだ。彼女を手に入れれば、組織は僕のものになる。わかったな、レーデ?」


 うなずくけれど、レーデはぽつりとこぼした。


「勝算はおありですか?」


 心外だとでもいうのか、アランは髪を髪上げ、失笑した。


「少し、父親と似ていないと言われただけで、すごく不安そうにしていた。彼女は、揺れ動きやすい、普通の女の子だよ」


 だから、付け入るのはたやすい、と。

 レーデはただ、レヴィシアがそれほどまでに愚かでないことを願うしかなかった。

 

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