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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅴ

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〈4〉アスフォテ事情

 数台の馬車は港町アスフォテの隣、シェンテル村に到着した。レヴィシア、ユイ、シェインは以前の立ち回りのため、駐屯兵に顔が割れている。とりあえず、偵察とレジスタンス組織『ポルカ』との合流のため、アスフォテにはザルツ、サマル、エディア、ティーベット、レーデ、アーリヒが向かうこととなった。


 ザルツ、サマル、ティーベットはレーデと共に『ポルカ』のリーダー、アランを迎えに。

 その他の『ポルカ』の構成員たちは、アランと話し合った後、こちらの体勢が整ってから合流するつもりだ。

 エディアとアーリヒは、いつまでも戻って来ない組織の最長老フーディーの回収である。町で騒動が起こらないとも限らないので、シェンテルに非難してもらうのだ。

 それから、スレディの工房にはフィベルもいる。あてにしたら、多分嫌がるだろうけれど、仕方がない。



「みんな、気を付けてね」


 未だ元気のないレヴィシアに見送られ、彼らはアスフォテに潜入する。



        ※※※   ※※※   ※※※



 まず、エディアとアーリヒをスレディの工房に送り届け、男性陣とレーデは去った。

 潮風にさび付いた扉を叩くと、眠たそうな顔をしたフィベルが出迎えてくれた。けれど、二人の顔を見た瞬間に眉根を寄せる。


「今度は何?」


 嫌そうだった。申し訳ないと思いながらも、とりあえず二人は中になだれ込む。

 すると、そこは話に聞いていた場所とは大違いだった。


「あれ? きれいに片付いてるじゃないか」


 思わずアーリヒがそうもらした。

 サマルとティーベットによると、スレディの工房は魔窟、ごみ溜め、異臭の森なのだと。なのに、そこは整頓は行き届き、腐ったような臭いはしなかった。

 テーブルの上もすっきりとしている。一輪挿しの花まであった。


「後輩がきれい好き」


 よくわからないが、誰か新入りが入ったらしい。


「お、きれいドコロがそろって、どうした?」


 この工房の主、スレディが白髪頭を掻きながらやって来る。エディアはぺこりとお辞儀をした。


「お邪魔しています」

「久し振り……ってほどでもないか。フーディーは?」


 アーリヒがそう尋ねると、スレディはああ、とつぶやいた。


「散歩だろ。毎日フラフラ出歩いてる」

「そうかい。でも、ちょっと危ないことになるかも知れないからね。連れて帰りたいんだ」


 そのきな臭さに、二人は顔をしかめた。エディアもひとつ息をついて説明する。


「実は――」



        ※※※   ※※※   ※※※



 彼女たちと別れ、レーデが残りの三人を連れて行ったのは、船の収納庫だった。

 そこに辿り着くまでの間に、何度か軍の制服を着た兵士に出会った。そのグレーの制服は、レイヤーナ軍のものである。遠くからそれを見遣った彼らは、近付くことはなかったけれど、レイヤーナ軍が巡回していることに、言いようのない不安を感じた。


 船の収納庫は広く大きい。レーデがその入り口を叩いて合言葉を言うと、ようやく隙間が開いた。今は漁に出ていない、青い船体の一艘が収容されており、中は薄暗い。一見して、何人いるのかまるでわからなかった。


「レーデ!」


 彼女の姿を認めると、陰からわらわらと人が集まって来る。ほとんどが、血気盛んな若者だった。レーデは表情を変えず、短く彼らに問う。


「アラン様は?」

「ファルスと一緒に民家にいるはずだ」


 その一言で、レーデは少しだけ眉を顰めた。


「その他は、ここにいるだけで全員?」

「ああ、何人かは拘束された」


 そう、彼らはうな垂れる。

 すると、その捕まった構成員たちの口からここの情報が漏れるのも時間の問題だ。急がなければ。


「まあ、リーダーはファルスが一緒だったら大丈夫だろ? それで、その後ろの人たちが助っ人?」

「すごい、強そうだなぁ」


 と、筋骨隆々のティーベットを見上げている。軟弱そうなザルツとサマルは無視された。


「……私、アラン様に会って来るわ。その民家の場所を教えて」


 レーデが話を付けると、サマルは言った。


「ザルツもそのリーダーに会いに行くんだろ? ティーベットも付いて行くなら、俺はこっちで待ってるよ。ちゃんと状況を聞いておくから」

「ああ、頼む」


 そうして、ザルツとティーベット、レーデはそこを去った。



 歩きながら、ザルツはふと気になったことを尋ねる。


「ファルスっていうのは、どんなやつだ? リーダーのそばに付けるくらいなら、優秀なんだろうな?」


 すると、レーデは素直にうなずかなかった。


「そうね。もちろん優秀よ。まだ仲間になって日は浅いけれど、合併交渉もほとんどファルスが手がけたし、戦闘力も新参の中では図抜けてる」


 だからこそ、とレーデは言葉を切った。


「何を考えているのか、少しわからないところがあるわ」


 彼女は冷静だ。頼れる人物だからといって、都合よく信じたりしない。リーダーにはまだ会っていないけれど、彼女の補佐があってこそなのではないか、とザルツはすでに感じていた。


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