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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅴ

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〈1〉絶望の花

 そこは、世界の片隅に存在する、ブルーテ諸島六カ国のうちのひとつ。

 王は死去したまま不在の状態であり、民間から立ち上がった抵抗組織レジスタンスと国軍との内戦状態が続く、シェーブル王国。

 その一角、西に位置する港町アスフォテの民家でのことだった。



「ファルス――」


 青年は、仲間の一人の名を呼んだ。

 彼は黒髪を揺らしてうなずく。そうして、ずれた眼鏡を押し上げた。


「大丈夫。助けは求めたんだろう?」


 彼らは今、追い詰められていた。

 それは、内乱の平定を援護する名目で、この国に干渉を続ける隣国、レイヤーナ軍のせいである。

 内乱を平定した後、レイヤーナはシェーブルを属国として扱うつもりなのではないかと、国の誰もが憂えている。

 そんな中、過日、レイヤーナ王国大使の歓迎式典が催された。歓迎など本心ではないにしろ、表向きは友好な姿勢を崩せなかったのだ。

 ただ、その結果、この国シェーブル王国に駐屯するレイヤーナ兵の士気が上がり、大使である王子の声に呼応するかのように、動きが活発になった。


 それでも、屈してはいけない。

 多くのレジスタンス組織は国の未来を憂い、戦い続けるけれど、相手は正規兵、こちらは民間人。力の差は歴然である。

 彼らもまた、次第に追い詰められ、隠れることしかできなくなった。


「レーデのことだから、間違いないと思うが……」


 橙色に近い明るい茶色の髪をした青年は、仲間ファルスの問いに不安げに眉を顰めた。

 彼はこのレジスタンス組織『ポルカ』のリーダー、アラン=ファニングスである。とは言っても、この組織は新生であり、彼自身の経験は明らかに不足していた。

 ただし、組織の構成員の数は八十人を超す。

 今は散り散りに逃げているものの、数だけは多いのだ。


 これは、新生組織を寄せ集めた集合体である。そう、つまり、『とある組織』のやり方を真似て、潰される前に組織を大きくした。

 ただ、この組織は所詮数を頼みにしたまがい物である。『とある組織』のように粒ぞろいではない。

 暴動を起こしたはいいが、後は逃げるしかなく、隠れるにしてもこんな最悪の場所へ逃げ込んだのだ。


 まず、リーダーがいけない。

 年齢は二十代前半で、顔立ちは整っているものの、どこか瞳に力がない。つまり、見てくれだけのお飾りである。

 貴族の出で、見栄えがよい。それだけが彼の価値だった。

 ちやほやされて育った彼は、与えられることを当然と、疑いもしない。

 ファルスが耳もとでささやいた言葉を鵜呑みにし、それを下へ拡張するためだけの存在。

 そして、それをリーダーの器だと信じる構成員たちも大概だが。

 唯一、サブリーダーのレーデ=クレメンスだけは頭が回るが、その彼女は助けを要請にしに走っている。彼女がいないと、アランは普段よりも更に情けない。


 それにしても、扱いやすかった。

 おもしろいように踊ってくれる。

 ファルス――ここでそう呼ばれる青年は、内心でわらっていた。


「少し、様子を見て来るよ」

「え……」


 わかっている。アランはファルスの身を案じているわけではない。

 自分を守る人間が減るのが怖いだけだ。


「すぐに戻るよ」


 安心させるように微笑んだ。アランは、ああ、とうなずく。

 この町、アスフォテはレジスタンスに対して好意的だった。こうして隠れる場所も提供して匿ってくれた。

 それは何故か。

 なんとなく、ファルスには理由が推測できた。


 民家を出て、堂々と町中を歩く。

 彼は度の入っていない眼鏡を外すと、それを茂みの中に放り投げた。闇夜のような双眸がそこにある。


 ――種は撒いた。


 かつてリッジと呼ばれていた青年は、あの月の名を掲げる一団がどのように踊るのか、遠くからそれを傍観することにした。

 そうして、町を去る。


 絶望の花は、見事に咲くだろうか――。


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