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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅳ

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〈20〉避けるべき

 レヴィシアたちが戻る前に、一度状況をまとめておきたい。ザルツたちは王都にいる仲間たちと話をするために三番街の住処を訪れた。その中で、ザルツは静かに切り出す。


「式典の会場となる城門前広場を下見して来た。準備は着実に進んでいる」


 シーゼたちが斡旋所にいる間に、ザルツとユミラもそのように動いていた。そして、プレナもまた、アーリヒたちと一緒に下町で情報収集をしていたのである。


「私は顔なじみに話を聞きに行ったの。みんな、レイヤーナ大使の王子を歓迎するつもりはないけど、歓迎式典そのものはお祭りみたいなものだから、景気がよくなって助かるって。商店の人たちは複雑そうにそんな風に言ってたわ」

「そうなのですか……。日々の生活がある。当たり前ですが、難しいものですね」


 ユミラは、プレナの話に、改めて知り得たことを重く受け止めているようだった。


「そのお祭り騒ぎの中でアタシたちが動けば、混乱を極めるだろうよ。見物人の中から結構な数のけが人が出るだろうね。……それでもやるのかい?」


 医者のアーリヒにしてみれば、一般人が傷付くような事態は避けたいのだろう。渋い顔をしている。それに対し、ザルツは考えを述べた。


「極力、武力抵抗は町中では避ける。多少の混乱は起こさなければならないが、人を傷付けないようには気を付けたい」

「アンタがそう言うのなら、わかったよ」


 アーリヒはなんとか納得してくれたようだった。そして、傍らのシェインが言う。


「じゃあ、俺たちはどうする? 歓迎式典の警備として潜り込んだら、どう動いてほしい?」

「式典の警備といっても、配置がわからないことにはな……」


 顎に指の関節を添えて思案するザルツに、シーゼは言った。


「お祭り騒ぎで悪乗りする人が多いから、城下は割と自由に動けると思うけど」

「わかった。そうだな、レヴィシアたちが戻ったら、詳しく決めよう」

「了解」



 そう答えてから、シーゼは口に出そうか迷ったけれど、やはり話しておくことにした。ユイトルがいない今の方が話しやすい。


「あのね、その雇われた傭兵の中に、ちょっと気になる人がいたの」

「気になる人、ですか?」


 隣にいたエディアがシーゼに顔を向けた。


「ヤールって名乗ったんだけど、この国の人間じゃない気がする。腕は確かだと思うけど、傭兵登録もされてなくって……それが、一晩で推薦状を持って来て、警備に参加するって」

「それ、珍しいことなの?」


 プレナが問うと、シェインがうなずいた。


「あんまり聞いたことないな。オレもよそ者だったからわかるけど、推薦なんて、まずない」


 その上、とシーゼはつぶやく。


「推薦者は、ドリトル=フォード……」


 その名に、ザルツは表情を険しくした。それも当然ではある。


「それは、その人物が何者かは判別できなくても、関わるべきじゃない。危険なようなら、警備も取り止めていい」


 ユイの父親。国内最高位の将軍。

 今の自分たちにとって、危険人物に変わりはない。


 そこで、何故かクオルが、はい、と手をあげた。


「うん、どうした?」


 ユミラが優しく問うと、クオルは大きくうなずいた。


「あのさ、そいつが外国から来たんだったら、腕輪してるよね? ユーリたちもしてたやつ。あれ、ボクたちみたいにこの国で暮らすって決めないと外さないんじゃないの?」


 一時入国者の証である腕輪。それを見ればひと目で外国人であると知れ、国内の災難を避けられるようにとの処置であり、入国の際に溶接される。これは、盗難被害などに遭わないようにだ。つまり、自力では着脱不可能なのである。


 子供ながらに、クオルの着眼点はよかった。隣のゼゼフが尊敬するような視線を向けている。


「そうね、でも……」


 シーゼはつぶやきながら考えた。

 確か、付けていなかったような気がする。それをシェインが裏付けた。


「最初に見たけど、付けてなかったぞ」


 ただ、そう考えると余計にわからない。


「ってことは、この国に住み始めたばかり? でも、傭兵登録のことも知らなかったし……」


 そんなつぶやきに、ザルツが眼鏡を光らせながら言った。


「例外がある」

「え?」

「レイヤーナ軍の関係者だ」


 最悪の一言に、場が静まり返った。その沈黙の中、ザルツは続ける。


「内戦の平定と称し介入してくる軍事関係者のすべてに、そんな処置はしていない」


 軍の関係者なら、フォード将軍にかけ合うこともできただろう。民間の斡旋所になど顔を出したのは、町の動きを探りに来たのかも知れない。

 その考えが一度浮上すると、そうとしか考えられなくなった。


「そういうことなら、やっぱり止めておいた方がいい。この段階で気付けたのは幸いだった」


 ため息混じりのザルツの言葉に、シーゼはヤールの姿を思い浮かべる。軍事関係者にしては自由すぎるくらいだった。

 けれど、らしくないからこそ、そうなのかも知れない。


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