〈11〉エトルナ潜入
「――ね、変じゃない?」
レヴィシアはくるりとその場で回ってみせた。男三人はそれぞれに言う。
「違和感ないな」
「似合ってるよ」
「それでいいって。行くぞ」
特にサマルは興味もないようで、背を向けて歩き出す。この男共に年頃の女の子の気持ちはわからなかった。
今、レヴィシアがしている格好は、男装である。半端丈のパンツに、体型を隠すダボダボのジャケット。ぽっこりと膨らんだキャスケット帽の中に長い髪をしまってある。全体的に茶系の地味な色合いで、目立たないことだけを考えたコーディネートだった。
用意したのはザルツだ。行くというなら、せめて変装くらいはしろ、と。
この慣れない格好が恥ずかしいのに、違和感がないだの、似合うだの、言われて嬉しいわけがない。レヴィシアは悔し紛れに、ユイとルテアをにらんだ。
「みんなはそのままなのに、なんであたしだけ変装しなくちゃいけないの?」
「そんなこと言ってもなぁ……」
困惑するルテアに、レヴィシアはふと笑って詰め寄った。
「そうだ、いいこと考えた。ルテアにはあたしの服貸してあげる。一緒に変装しよ。きっと似合うから」
「なっ!」
目に見えてショックを受けているルテアが哀れで、思わずユイは止めに入った。
「レヴィシア、冗談はそれくらいにして、そろそろ行こう」
「はぁい」
レヴィシアはあっさりときびすを返す。
脱力するルテアに、ユイはなんと声をかけていいのかわからず、とりあえず当たり障りのない言葉をかけた。
「行こうか……」
「うん……」
傷付きやすいお年頃である。
※※※ ※※※ ※※※
それから一行は、ひたすらにエトルナ目指して歩いた。予定通り、翌朝に目的地付近に到達する。そのなだらかな坂の上からでも、エトルナの町並みを一望することができた。
エトルナの建造物は、時代を感じさせるような大きく重たい雰囲気を持つものが多い。一番の特徴は、歴史あるラクシール聖堂だろう。その造形美には、国内外にも定評があるらしい。確かに、その麗容を遠くから眺めるだけで、何故か荘厳な気持ちになった。今は宗教的な意味合いよりも、歴史的建造物としての価値の方が高いけれど。
その他にも、美術館や書庫なども建設されており、エトルナは迎賓の機嫌を取るには打って付けの町だ。
「さてと。じゃあ、俺は単独で潜るから。その方が動きやすいし。ま、情報はかき集めておくから、任せとけよ」
にっと笑うサマルに、レヴィシアはうなずく。
「わかった。お願い。それで、どこで落ち合うの?」
「そうだな、レヴィシアとルテアは先に宿をとって待っててくれ。夜になったら俺は酒場にいるから、適当な頃にユイが迎えに来てくれ。あんまり高級なところには行かないからな。安酒の飲めるところだ」
「了解」
「じゃあ、お互いに気を付けような」
軽く手を振ると、サマルは軽い足取りで残りの道を駆け下りて行った。
「……あたしたちも、行こうか」
と、レヴィシアは気を引き締め直す。二人も、そんな彼女に力強くうなずいた。
幼少期から繰り返された屈辱が再び……。




