〈9〉四人旅
リレスティからエトルナまでのルートは、最短で王国東部に抜けることができるセベレス大橋を通るか、エイルルー、王都方面を通り、迂回する道のどちらかだ。レヴィシアたちが選んだのは、後者だった。大橋は関門があるので、通るべきではない。
王都手前までは辻馬車を使った。
大橋が建設されてからというもの、エトルナに続くこちらの間道を使う者は格段に減った。道中の宿も数が減り、活気がないのも仕方がない。途中、野宿を覚悟した。
夕暮れ時、川が近く、開けた場所を見付けた。岩場ではなく、邪魔にならない程度の草に覆われた場所だ。野宿には都合がよかった。
「よし、ここでいいだろ?」
サマルは真っ先に荷物を下ろし、うんと伸びをした。続いてレヴィシアも。
ルテアは早々に近くの水辺まで水を汲みに行く。ユイはまだ余力を残していたが、レヴィシアを第一に考えて腰をすえた。
そして、サマルは手馴れた仕草で火をおこし、鍋の中の水が沸騰すると、中に干し肉や芋を放り込んでくたくたと煮た。出来上がった大味なシチューとパンを配り、自分も腰を下ろす。
「プレナやエディアが作るようなのと比べるなよ。味は二の次ってことで」
「作ってもらって文句なんか言わないってば。ありがと、サマル」
いつになく素直なレヴィシアに、サマルは逆に拍子抜けした。なんとなく鼻の頭を掻き、それからひたすらに食事に没頭する。
食事を終えると、レヴィシアとルテアが川辺で食器と鍋を洗い、後片付けを担当した。その間にユイは木片を拾い集め、火にくべたり、夜間に注ぎ足す分をまとめていた。サマルは毛布を敷き、狭く簡単な寝床を作る。
「終わったよ。そっちは?」
「ああ、こっちもだ」
「じゃあ、最初の見張りは誰にする? 俺からでもいいけど」
と、ルテアが申し出る。その言葉に甘えることにした。
次の見張りがサマル、次がユイ、最後がレヴィシアに決定した。
「じゃあ、交代の時間になったら起こしてくれ」
サマルはすぐさま横になった。
「よろしく、ルテア」
レヴィシアも疲れていた。いつ眠りに落ちたのか、境界が曖昧だった。普段から物静かなのでわかりにくいが、気付けばユイも眠っている。
ルテアはしばらく焚き火の奥を眺めていたが、座ったままの状態であたたまっていると、睡魔に負けてしまいそうだった。かぶりを振っても、眠気は飛んで行かなかった。
仕方なく立ち上がると、少し体を動かすことにした。
体の数箇所に分けて隠し持っている携帯用の短槍を数秒で組み立てると、皆を起こしてしまわない距離を取って槍を振るった。
短槍はルテアの手足のようにしなやかに動き、虚空を斬る。一連の動作は、幾度となく繰り返して来た。以前よりも筋力も付き、機敏さは増したと思う。
けれど、少しも納得できなかった。
まだまだ、この程度の実力では、この先満足に戦って行けるとは思えない。
自分でも取り柄だと思う速さや身軽さでも、リッジには及ばない。この先、まだまだ強い連中と出会うことになるのだろう。そう考えると、自分の能力が物足りないとしか思えなかった。
できないとは言えない。守りたいものがある以上、できないでは済まされない。
少しでも、望むだけの強さを手に入れる。
そのためには、心を乱してはいけない。
目の前で、彼女が誰の手を取り、誰の名前を呼ぼうとも――。
※※※ ※※※ ※※※
「どうして起こしてくれなかったのっ?」
翌朝、レヴィシアは頬をリスのように膨れさせて男三人をにらんだ。三人は顔を見合わせる。
「疲れて、よく眠っていたから」
そう、ユイは説明するが、レヴィシアは気に食わない。見張りを三人でこなし、レヴィシアを一度も起こさなかった。それが逆に気に障ったのだ。
「そんなの、起こしてくれたら起きたもん。疲れてたのはみんな同じじゃない」
「いっぱい寝れてよかっただろ。ほら、行くぞ」
サマルはそれ以上取り合わず、荷物をまとめ出す。言い足りないレヴィシアだったけれど、ルテアの一言で流れが変わった。
「寝ぐせ付いてるぞ」
「え!」
「顔洗って来いよ」
「う~」
ふくれっ面のまま、レヴィシアは頭を抱える。水辺に駆け出したレヴィシアの背で、三人は苦笑した。
サマルが空を見上げると、天候は崩れる様子がなかった。このまま抜けてしまえば、明日にはエトルナに着けるだろう。




