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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅳ

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〈8〉心配いらない

 翌朝、準備を整えたレヴィシアたちは、質はよいが簡素な服に身を包んだユミラを前に、誰もが唖然としていた。


「お一人……ですか?」

 

 思わずザルツがつぶやく。ユミラは照れたように微笑んだ。


「はい」

「え? 護衛なし? ハルトは?」


 レヴィシアはきょろきょろと辺りを見回したけれど、それらしい人影はなかった。ユミラは申し訳なさそうに眉尻を下げた。


「ハルトは、おばあ様が暇を出してしまったんだ。僕も会えずじまいで……」

「ええ!」


 けれど、サマルはふむ、と冷静にうなずく。


「まあ、本来なら止めるべき門番が、ユミラ様と一緒になって町をふら付いていたわけだし、クビになっても不思議じゃないか」


 確かにそうなのだが、ユミラは目に見えてしょんぼりとしてしまった。


「そう、僕のせいなのに、謝ることもできなかった。行き先さえ、わからなくて……」


 レヴィシアは力任せにサマルをどついた。ぎゃ、と悲鳴が上がったが、サマルが悪い。


「そ、そのうち、また会えるよ。きっと」

「うん。そうだといいんだけどね」


 そこで、ザルツはさて、と切り出す。


「エトルナに向かうにしても、さすがに全員というわけにはいかない。俺は王都で下準備をするつもりだが」


 すると、プレナは一歩前に出てザルツの隣に移動した。


「じゃあ、私も王都かな。しばらく住んでたから、知り合いもいるし、声をかけに行って来るね」


 それに続けて、ユミラも言った。


「僕も王都に邸宅があるから、そちらの方が役に立てるかも知れない」


 サマルはどつかれた肩をさすりながら、ちらりとレヴィシアを見て嘆息する。


「俺は……エトルナかな。レヴィシアたちだけじゃ不安だし」


 その言葉に、レヴィシアは反論しなかった。確かに、不慣れな土地で要領のよいサマルがいてくれたら心強い。ユイとルテアは尋ねられることもなくエトルナに割り振られた。


「他に誰か連れて行くか? あまり大所帯になるのは得策じゃないが」

「十分だよ。王都だって警戒が強まってるはずだし、そっちも気を付けてね」

「ああ。じゃあ、落ち合う時は八日後。始まりの場所と言えばわかるな。もし、その段階で王都の警備が強化されていて潜入できそうになければ、無理に近付かないこと。その場合は、クォート川上流に待機していろ」

「了解」


 このところ、集団で生活することが多かった。だから、四人という少人数での旅は、活動を始めた当初のように身の引き締まる思いがする。

 ほんのりとあたたかい日差しの中、彼女たちは準備を整えると、先にリレスティの町を発った。



         ※※※   ※※※   ※※※



 レヴィシアたちを見送ってから、ザルツたちも町を出る予定だった。シーゼに、エイルルーの仲間たちに出立を促す連絡に行ってもらった。準備はできているはずだ。


 ただ、そのシーゼが何故かリレスティに戻って来た。それも、皆を連れて。

 王都に向かうのなら、エイルルーを経由すればいい。マクローバ一家に、エディア、ティーベット、ゼゼフ、足の悪いロイズまで連れて、何故こちらに来たのかがわからなかった。すると、シーゼは苦笑する。


向こう(エイルルー)に行く前に、すぐそこで会っちゃったのよね」

「……どうかされましたか?」


 ザルツがロイズに問うと、彼は穏やかに微笑んだ。


「エイルルーにいた皆にはすでに話したんだが、私はこの町に住むことにした」

「え?」

「私が立ち上げた組織のメンバーたちも、もう十分に馴染んだ。私が退いても、組織は一丸となれる。この町なら、クランクバルド公の恩恵により、軍も無闇に立ち入れない。心配はいらないよ」


 もし、自分が彼の立場であったなら、同じ選択をした。ザルツはそう思うから、その決断を否定できなかった。すると、隣にいたユミラがロイズに向けて口を開く。


「この町に滞在されると仰るのなら、当家にいらして下さい。お一人では、皆さんが心配されますから」

「お気遣い、痛み入ります。ですが、そこまでご迷惑をおかけするわけには……」

「あなたは十分に戦い抜かれました。これは僕からの敬意としてお受け取り願えませんか?」

「ですが……」


 渋っていたロイズに代わり、エディアは深々と頭を下げた。


「どうか、父をよろしくお願いいたします」


 ユミラはにっこりと微笑む。


「はい」


 そんなやり取りを後ろで聞いていたクオルは、ゼゼフにそっとつぶやいた。


「貴族のボンボンなんて仲間にしたくないって思ってたけど、ユミラ様っていい人なのかも?」

「そうだね。あんな方もいるんだね」


 それから、ロイズを連れて皆でクランクバルド邸に向かった。シーゼもリュリュにきちんと別れを言えて嬉しそうだった。公爵は、ロイズを興味深そうに受け入れた。善意のみでないことは明らかだ。

 去り際、ザルツはロイズを振り返る。


「ロイズさん、あなたの心配事のひとつを、可能な限り気にかけておきます」


 それは、彼を慕い、それ故に許せず離れたリッジ=ノートンのことである。

 彼の動きに、ロイズは誰よりも心を痛めているけれど、犠牲になった命もある。その手前、口には出せずにいた。


「ありがとう……」


 ロイズはそう、頭を下げる。ザルツはそれから――と続けた。


「何も、戦うばかりが活動ではありません。公爵のそばには、民主国家へ向け、たくさんの問題があるはずです。ロイズさんなら、そのお手伝いができるのではないかと思います」


 その言葉は、何よりの救いであり、薬となる。誰の目にも明らかなほど、ロイズの瞳に光が見えた。


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