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Full of the moon  作者: 五十鈴 りく
Chapter Ⅰ

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〈11〉ルイレイルに向けて

 レヴィシアたちは、元『イーグル』のメンバーたちの自宅で休ませてもらい、翌朝、指定のあったルイレイルに向けて出発することとなった。


 このトイナックの町は周囲を山に囲まれているものの、馬車が通れないわけではない。ただ、山を迂回する形で進まなければならないので、道も悪く、時間もかかるということだ。

 サマルの用意した馬車は二台あり、ザルツとラナンだけが別の馬車に乗り込む。一台に乗り込んでしまうと、速度も落ちる上、何かあった時に対応できないので、分かれた方がいいとのことだ。


 御者は経験の浅そうな青年たちだったけれど、ルイレイルまでは何度か行ったことがあるという。

 艶やかな赤銅色の毛並みの馬たちは、せわしなく首を動かして、退屈そうに走り出す時を待っている。彼らが、ルイレイルまでの道のりを保障してくれるようだ。


 ただ、問題は、たどり着いてからだろう。

 ルイレイルは町を囲む外壁が高く、番兵もいる。進入する時に怪しまれないことが前提だ。

 だから、あまりに大人数で動くのではなく、二人ずつに分かれて進入することにした。

 レヴィシアは、ルテアと組むことになる。

 『ゼピュロス』のリーダー補佐、リッジ=ノートンなる人物は、明後日の日没に、中央広場の最北の楓の木の前で、合併したふたつの組織のリーダーが立っていれば、案内人を寄越すと言っているらしい。



 レヴィシアたちは馬車に乗り込み、出発する。恨めしげな視線のサマルを残して。


「まだ見てるよ。うっとうしいなぁ」


 と、レヴィシアが辛辣に嘆息する。ユイは苦笑していた。


「兄さんは、いつからルテアたちと一緒にいたの?」


 そうプレナが尋ねると、ルテアは小さく首を傾けた。


「ん……。俺たちが活動を始めてから半年くらい後だったかな。もうすぐ一年くらいか」


 レヴィシアが聞いたプレナの話によると、サマルが突然いなくなったのは、レヴィシアと再会した季節のひとつ前だと言っていた。少しだけ手探りでさまよって、それから『イーグル』にたどり着いたのだろう。

 ルテアは外の風景を眺めながらつぶやく。


「あいつ、たった一人で俺たちの居場所を突き止めて、仲間にしてくれって直談判して来たんだ」

「名前も偽名っぽかったし、素性もはっきりしてないようなの、よく仲間にしたね」

「まあ、な。あいつはあいつなりにすげぇ必死だったし、名前とか素性は話したがらなかったけど、嘘はつかなかったから。ラナンも、何か信ずるものがあって、そのために決意して来たんだろうって言ってた。実際、俺たちはかなり助けられたから、あんまり苛めてやるなよ」


 そんなルテアの言葉を、プレナは困ったように聞いていた。


「そう、ね」


 その一言で、自分を落ち着けようとしているようだった。

 納得がいかないのなら、またけんかでもすればいい。これからは、それができるのだから。



         ※※※   ※※※   ※※※



 それから、休憩は挟んでいたものの、ほとんどの時間を馬車に揺られて過ごした。

 馬車に乗れば体力を温存できると思っていたレヴィシアだったけれど、実際は、同じ体勢でずっと座り続けているため、逆に疲れてしまっていた。ルテアも同じらしい。

 後発の馬車は、大きく遅れているようだった。もしかすると、道が悪かったし、ザルツが馬車に酔ったのかな、とレヴィシアは思った。



 その後、途中にある小さな村で一泊する。

 翌朝には再出発した。ルイレイルが近付くにつれ、緊張感から段々と口数も少なくなって行く。

 そうして、緑の茂るなだらかな坂の上から、外壁に守られたルイレイルの町が見えた時、馬車は止まった。ここがしばらくの別れとなる。

 レヴィシアとルテアは馬車を降り、ここから歩いてルイレイルに向かう。

 馬車の車体から、レヴィシアに不安げな視線を投げかける二人に、レヴィシアは笑ってみせた。


「じゃあ、お互いに気を付けようね。大丈夫、すぐに会えるから」

「ああ。くれぐれも無理はしないように」


 そう言ったユイの方が心底心配そうに見えたので、レヴィシアはそれが何よりも嬉しかった。それだけで、不安が和らいで、常に守られているような気になる。


「ルテア、レヴィシアをよろしくね」


 プレナに頼まれ、ルテアはうなずく。

 そうして、馬車は二人を残して駆け去った。ルイレイルに潜入するのは、ユイとプレナが一番乗りになるだろうが、あの二人は美男美女だ。恋人同士にでも見えるだろうし、疑わしいところはないだろう。

 むしろ、心配しなければいけないのは自分たちの方だ。

 馬車を見送りながら、レヴィシアはルテアに話しかける。


「もし素性を訊かれることがあったら、あたしが姉で、ルテアが弟。親の言い付けで親戚の家に向かう途中。わかった?」

「俺が兄でお前が妹でもいいだろ」

「ルテアは童顔だし、背も低いもん。あたしが姉の方がしっくり来るって」


 その発言に、多感なお年頃のルテアは密かにショックを受けたが、レヴィシアは気付いていなかった。

 なんとなく、遠い目をして続ける。


「お父さんの死後、残党狩りから逃れるのに、あたしはユイの妹ってことにして守ってもらってたんだ……」


 ルテアはそんなレヴィシアに、冷ややかな視線を投げた。苛立ちを隠せるだけ、彼は大人ではない。


「そりゃあ、あの人は俺より強いだろうよ。いなくて不安か? 残念だったな」


 声が尖っている。比べたわけではないけれど、ルテアはそう感じてしまったのだろう。

 レヴィシアは唐突にルテアの右手を両手で取った。


「な、なんだ?」


 少し驚いた風のルテアに、レヴィシアは顔を近付けて訴える。


「ルテアだってもう、大事な仲間なんだから、頼りないなんて思ってないからね。誤解しないでよ」

「あ、ああ」


 戸惑いがちに答えるルテアに、レヴィシアは屈託なく微笑む。


「頼りにしてるよ」


 そんな笑顔でその言葉を口にする。その威力を、本人が気付いていない。

 ルテアの方が言葉に詰まり、顔を背けて照れをごまかした。


「……そろそろ行くぞ」

「うん」

 

 そうして、年少組二人は爽やかな秋晴れの空を楽しみながら先を急いだ。


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