〈9〉志を
サマルは、ザルツと同年だけれど、賑やかな性格をしていたので、レヴィシアにとってはけんか友達のような間柄だ。懐かしい顔に再会し、口では素直に言わないものの、レヴィシアは心強かった。
両親を流行り病で亡くして親戚に引き取られた兄妹と、親が忙しくてなかなか構ってもらえない二人の子供。偶然のめぐり合わせが、今になっても続いている。あの懐かしい子供の頃を再現することはできないけれど、少しだけ蘇ったかのように心があたたまった。
話が一段落すると、ルテアはレヴィシアに真剣な顔を向けた。レヴィシアは首をかしげる。
「どうしたの?」
すると、ルテアは小さくうなずいた。
「合併のこと、メンバーたちには話してあるけど、ちゃんと挨拶してくれ。これからは、お前にとっても仲間になるんだからな」
ルテアはメンバーの人々を大切にしている。眼差しから、それがよく伝わった。
「そうだね。ありがと」
その気遣いに笑って返すと、ルテアも少し笑った。
全体の姿が見えるように、正面の作業台の前に進む。ルテアも付いて来てくれた。
向こうからザルツがうなずくのが見えた。
ルテアは軽く息を吸い込むと、小柄な体には似合わない大きな声を廃工場の中に響き渡らせた。
「みんな、聴いてくれ。先にも言ってたように、俺たちは今後、このレヴィシアの率いる『フルムーン』に合併する。だからって、『イーグル』がなくなるわけじゃない。仲間が増えたってだけの話だと思ってろよ」
仲間が増えただけ。
その表現がいいな、とレヴィシアは微笑んだ。
『イーグル』の面々も笑っている。
「なんだ、ルテアはもうリーダーは辞めるのか?」
「ん? お前らが、俺じゃなきゃ嫌だっていうなら考えるけど」
「はは。うちは完全男所帯だったからな。正直、かわいい女の子がリーダーで、すっげぇ嬉しい」
「お前らって、そういうやつだよな」
笑いが起こり、緊張感などない。レヴィシアは苦笑しつつも口を開いた。
今、この場にいるのは三十人程度だ。けれど、例え一人であろうと、志を語る以上、全力で気持ちを込める。自分にはそれしかない。
「ええと、あたしが『フルムーン』のリーダー、レヴィシア=カーマインです」
『イーグル』のメンバーは、静かに聴いてくれた。
なんだかんだ言いつつも、人のよいルテアやラナンの立ち上げた組織だからなのか、みんなとても優しい。それを感じた。
「これから共闘するみなさんに知ってほしいことがあります。あたしたちが目指す、国の形です。突拍子もないことのように思えるかも知れませんけど、あたしたちの目標は『王様のいない国』、民主国家を作ることです。新しい王様が立つのでもなく、レイヤーナの属国になるのでもない、第三の選択を、どうか一緒に叶えて下さい」
この『イーグル』は、目標を持って活動して来た組織ではない。兵士や官吏の横暴が目に余り、それに抵抗しているうちに人が集まって、いつの間にやらレジスタンス組織という形に収まってしまったというものだった。目の前で困っている民衆の助けとなることを第一に考える、そんな義侠心にあふれた組織である。
だからこそ、レヴィシアの掲げた目標の大きさに、『イーグル』の面々は唖然としていた。
そんなメンバーたちに、レヴィシアはにっこりとあどけない笑顔を向けた。
「――って、ほんとは、固い喋り方は苦手なの。じゃあ、みんな、一緒にがんばろうね!」
この薄暗い廃工場の中にありながらも、その曇りのない笑顔があれば、案外何とかなってしまう。
ザルツは、笑顔と拍手で受け入れられるレヴィシアの姿を眺めながら、ひっそりと微笑んだ。
期待を裏切らない、レヴィシアの働きに賞賛を込めて。




