ボケとツッコミの社会問題会議 ・自然エネルギー是非編
「――さて」
と、久谷かえでが口を開いた。
「今回の議題は、自然エネルギー是非なのですが、一つ問題があります」
「何よ?」と、それに議長の立石望が尋ねる。久谷は答える。
「知識を持った人が、いない。いえ、正確に言うのなら、偏っているのです! これでは、討論にはならない。
因みにわたしは、プロデューサー及びに解説の久谷です」
「レフリーじゃなかったんだ」
と、それにそうツッコミを入れたのは、長谷川沙世だった。久谷はこう返す。
「今回は流石に、バトル・トークは期待できませんからね。真の顔をさらす訳ですよ」
「前回から、さらしてたじゃない」と、それには立石がツッコミを入れる。
あるマンションの自治会室。その場に集められた人間たちは、これから会議をするつもりでいた。その内容をネット上で公開して、世に訴えようというのだ。もっとも、それだけじゃ面白くない。だから、その会議はボケとツッコミ奨励なのだった。名付けて、ボケとツッコミの社会問題会議。上手くいっているのかどうかは分かりません(書いている本人も)。
「しかし、知識を持った人が少ないと分かっているのなら、そもそもどうしてこの議題にしたのよ?」
と、立石が尋ねると、久谷は淡淡とこう答えた。
「今、福島原発事故や、高速増殖炉もんじゅの事故で、エネルギー問題が熱いじゃないですか。人気取りですよ」
立石はそれを聞いて呆れてこう言う。
「こんな社会問題会議でアクセス数を増やそうたって、無駄だって。ほとんど誰も読みやしないでしょう」
「この会議の存在意義自体を否定してない?」
と、それに沙世がツッコミを入れると、久谷が続けた。
「今回は討論という形は諦めて、質疑応答に近いものにしようと思います。幸い、火田さんがいますから」
そう言われて、火田修平は少し驚いた顔を見せる。
「ちょっと待て、まさか俺ばかりが喋り続けるのか?」
涼しい顔で、それに久谷はこう返す。
「大丈夫です。サポート役として、村上さんもいますし、それに、今回は暴走を抑えてくれそうな神谷さんと、強力な助っ人の吉田さんを呼んでいますから」
それを聞くと、村上アキはこう言う。
「僕はあまりこの手の話題は得意じゃないから、サポートできるか分からないよ」
その後で、火田が抗議するようにそれに続けた。
「村上もこう言ってるし、それに、神谷は普通だし、吉田はやる気ないじゃないか。本読んでるぞ」
それに神谷直人はこう返した。
「普通って言うな~
とは、言いませんよ。普通で充分です。僕が異常な点は、吉田と一緒にいる事くらいですかね?
ただ、今日の吉田にはあまり期待しない方がいいですよ、火田さんの言う通り。こいつ、マイペースだから、こうなったら積極的には会議に参加しません」
神谷が言い終わるタイミングで、その当の本人の吉田誠一という男は、本に向けている目を上げた。そして、「ま、気が向いたら、何か言うよ」と、誰に言うともなくそう言ってまた本を読み続ける。
そのやり取りを無視するように、久谷が言う。
「ま、なるようになりますよ。早速、始めましょう」
しかし、そこで声が。
「ちょっと待って」
皆がその声の主に顔を向ける。
「なんで、男の子二人は紹介して、あたしは紹介してくれないのよ~。今回、初登場で、がんばって発言しようと思ってたのにー」
そう言ったのは卜部サチ。妙になよっとした印象の女性だった。
「あんたが、ただのボケ要員だからでしょう?」
彼女の発現に、立石がそう返す。
「あら、酷いわ。立石さん」と、それに卜部。すかさず、久谷が言う。
「本心は?」
「野郎二人は紹介して、女のあたしを紹介しないってのは、どういう了見よ? 人気取りつったら女でしょ? 女! 可愛い女の子! 発言なんて、どーでも良いのよ! 出しとけ! 女!
それに、立石。ボケ要員だぁ? ボケはあんたと沙世の天然ボケだけで充分よ。あたしは可愛さをアピールして、アクセス数アップさせてやるんだから!」
卜部がそう言い終えると、立石は溜息を漏らした。
「はぁ… 相変わらず、裏表激しい女ね~」
沙世が続ける。
「これ、文章だけだから、可愛さは伝わらないと思うわよ」
最後に久谷が、「こういうキャラです。分かり易いですか?」と。
それが終わると、火田が言った。
「で、これ、どう始めたら良いんだ?」
間。
その後で、久谷が言った。なかなかの無理矢理感で。
「……ってな、ところでいよいよ本題に入りますか。
石油や天然ガスの枯渇で起こると予想されるであろうエネルギー資源不足。次世代のエネルギーとして期待される原発が、数々の事故を起こして問題視される中、さらに注目を浴びているのが自然エネルギーです。
ですが、自然エネルギーは採算性の問題や安定供給の問題が不安視され、代替エネルギーに成り得るのか疑問の声も上がっています。果たして、自然エネルギーは次代のエネルギー供給を担えるのか?
さて、議論していただきましょう。よろしく、火田さん」
「丸投げかよ!」
と、それに火田はツッコミを入れる。その後で、議長の立石が言った。
「ま、丸投げはないとしても、取り敢えず、話し合う切っ掛けは欲しいから、何かアピールしたい事があったら、よろしく」
「結局、丸投げじゃないかのか、それ?」と、返しながらも火田は続けた。
「そうだな。色々と自然エネルギーについては言われているが、まず俺が強調しておきたいのは、経済の観点だな。
環境問題分野に関して、全くの正反対の主張がされているのは知っているか? 一つは、環境問題対策は経済成長に悪影響。そして、もう一つは経済成長に好影響。
さぁ、これ、どちらが正しいと思う?」
そう言われて、沙世が少し考えるような仕草の後でこう言った。
「環境に配慮して、経済が成長するなんて、そんな都合の良い事は起きないだろうから、悪影響なんじゃない? コスト負担で、企業は苦しくなるだろうし」
「ところが、そうでもないんだな」
と、火田はそれに返す。すると、疑わしそうな感じで、神谷が口を開いた。
「という事は、環境問題対策を行なって、経済成長するなんて理屈があるんですか? 企業負担が増えるのに? 綺麗事のようにも思えますが。なんだか、あまり、火田さんらしくもないって気がしますね」
「普通の疑問をありがとう、神谷。しかしだ、それならお前は、経済成長がどんな事だか分かっているのか? じゃなければ、環境問題対策は経済成長に悪影響なんて言えないのじゃないか?」
「普通って言うな~
とは、言いません。この返し、もういいですかね? まぁ、正直、良くイメージできていませんが」
それを聞くと火田は頷く。それから、アキにこう話を振った。
「おい、村上アキ。お前はどう思う? というか、お前なら経済成長をどう説明する?」
「僕ならそのまんま、通貨の循環が増える事って説明しますが。正確には、時間単位のって付けなくちゃ駄目ですがね」
アキがそう答えると、火田は今度も何度か頷いた。
「うん。まぁ、正しい意見だと思うが、今回の話を説明するにはちょっとイメージし難いかもしれねぇ。企業の負担が増えたら、生産性が低下して通貨の循環が減り、経済成長は鈍るなんて事を言われそうだ。
俺なら、こう説明する。
経済成長ってのは、“商品を作ってそれを誰か買う、その流れが増える事”と。つまりは、商品を“作る”と買う”、がセットで起これば経済成長なんだな。環境問題対策が、企業負担を増やすってのは、このうち“作る”の方に悪影響を与える。“作る”を邪魔したら商品が減って、経済に悪影響だろう?」
そこで沙世が口を開いた。
「その商品って、マッサージとかのサービス業も含まれているのですよね?」
「もちろん、経済の常識だよ、沙世ちゃん。労働とは、サービスも合わせた全ての生産活動」と、アキがそれに答える。火田がその後でこう言った。
「さて。商品を“作る”と“買う”ってのがセットじゃなければ、経済は成長をしない。じゃ、今の不況がどんな原因で起こっているのか分かるか?」
そこで卜部が手を上げた。
「あれでしょう? 韓国とか中国とかが成長して、ピンチだから」
「違う。なんで、今までの流れで、そんな話が出て来るんだ?」
と、火田。それに久谷が続ける。
「中国に対しても、韓国に対しても日本は貿易黒字です。因みに、実は全体の輸出額も増えているらしいですよ。更に、日本は所得収支でもプラス… つまり、他国に対しての投資によっても利益が出ていて、国際競争力を落としていると言われてはいますが、依然、強力な立場にいる事実は変わりありません
ただ、会議的にはワンアクセントな感じで、いいリトル・ボケだったと思います、卜部さん。真面目な話が続いていましたから」
卜部はそれに抗議するように応える。
「リトル・ボケってなによ? あたし、ボケたつもりなんて、ないのだけど…」
それを聞くと、立石が呆れたように言った。
「卜部。あんたも沙世並に天然ボケよね。火田さんの今の質問は、“作る”か“買う”かの二択でしょう?
もし、そう思うにしても、中国や韓国に負けて“作る”方がピンチって答えになるのじゃない?」
それに、卜部はこう返す。
「ごめんなさい。やっぱり、あたしには難しいみたい…」
「本心は?」と、そこで久谷。卜部は答える。
「はっ! 内容なんて、どーでもいいのよ。なんか発言しなくちゃ目立てないと思って、ネット上で少し見かけた内容をてきとーに言っただけなんだから!」
「この裏表女が…」と、それに立石。それが終わると火田が、「おーい、続けていいか?」と。久谷が答える、「どうぞ」。そこで神谷が言った。
「二択だったら、簡単だな。“買う”の方ですかね? なんか、需要不足とか、言われているのを見た事ある気がするし」
久谷がそれを見て言う。
「ほら、火田さん。神谷さんを入れて良かったじゃないですか。見かねて、話を戻すのを手助けしてくれましたよ。神谷さんが、普通のお陰で助かったとも言える」
火田は「うるせーよ! 普通とか、あまり関係ねーじゃねーか」と、返しつつ続ける。
「ま、とにかく、正解だ。“買う”方が弱い。日本じゃ、人が物を買わなくなってきているのだな。世界中で需要不足は言われているが、日本では特に深刻だ。それは購買意欲の低い高齢者に、富が集中しているって要因が大きいと言われている。貧乏な若者が金持ちの高齢者の生活を支える構図は、皮肉を通り越して悲劇だろう。高齢者の富裕層への年金支給を減らす等、何らかの取り組みが必要だ。
話が少し逸れたな。元に戻すと、今の日本は“買う”が弱い。が、企業負担になって、影響を与えるのは“作る”の方だから、環境問題対策が悪影響になるとは限らないんだ。それどころか、環境問題対策関連で金が回れば、それだけ経済成長する。ま、つまりこれは、例えば太陽電池なんかを皆が買うってな意味だ。そうすれば、太陽電池を買った分、経済は成長する」
そこにアキが疑問の声を上げる。
「でも、企業負担を増やせば、商品価格が上がって、やっぱり“買う”にも悪影響なんじゃないですか? 例えば、企業の自社発電設備を太陽電池にしたりしたら、その分、コストが増えて商品価格が上がりますよ」
「そうか? しかし、そうすれば、企業は人を雇わなくちゃならない。雇用の改善が見込めるぞ」
「海外で雇うかもしれないじゃないですか?」
「確かにな。なら、そこに対策を入れていけばいい。コストを商品価格に転化しないように、金は別枠で公共料金か環境税で徴収するんだ。そして、それで太陽電池を造り、社会に何らかの形で提供する。企業は負担しないから、当然、商品価格への転化も行なわれない。ここで重要なのは、太陽電池を造るのに出来うる限り、日本国内で人を雇うようにするって点か。すると、国内の雇用の改善と、太陽電池を造った分の国内総生産の上昇、つまり経済成長が起こる。海外からの原油の輸入が減った分のプラスもあるな。労働需要が増えるから、労働賃金も上昇する。若い世代を含めての現役世代も助かる、と。
因みに、経済成長するって事は、税収も上がるから、財政も助かるぞ」
そこまでを言い終えると、卜部が言った。
「ごめん。ついていけてない。結局、何がどうで太陽電池が経済に好影響を与えるの?」
立石がそれに続けて言う。
「確かにねー。火田さんは分かり易く語ったつもりかもしれないけど、これじゃ読者に優しくないわよ。それに、分かってないのは卜部だけじゃないでしょう? 沙世」
そう言われて、沙世はおずおずと手を上げて分かってない事を認めた。続けて、神谷も手を。そして……、最後にそれを言った張本人の立石も。
「って、あんたもじゃない!」と、沙世がツッコミを入れる。その時、それまで周囲関係なしで本を読み続けていた吉田に変化があった。本にしおりを挟むと、それをゆっくりと閉じたのだ。そして、それから顔を上げるとこの会議で初めて口を開く。しかも、何の前触れもなく、いきなり……。
「そんなに難しい話じゃないよ。今の不況の原因は“買う”が弱い点だと火田さんは指摘した。だから、その弱い“買う”を、太陽電池を“買う”で補ってやろうって話だ。
しかし、ここで企業に太陽電池を買わせると、別の商品の価格が高くなってしまって結局、他での“買う”が弱くなる危険がある。だからそれを防ぐ為に、企業に太陽電池を“買う”役割を無理に担わせたりしないで、消費者が“買う”って事だね。税金か公共料金かの制度を新たに作って」
珍しく吉田が発言をしたので、全員がそれに注目をしていた。沙世が疑問を口にする。
「でも、それだと生活者のお金が減っちゃうじゃない? 太陽電池を買った分、わたし達の生活が苦しくなる」
それには火田が答えた。
「それは大丈夫だな。支出が増えれば、収入も増えるから。金は天下の周りものって言うだろう? 太陽電池を買えば、その分景気が良くなって、消費者の収入は上がる。もちろん、低所得者層には配慮する必要があるだろうが」
吉田もそれに頷く。そして、語り始めた。
「その通りだね。太陽電池を“生産”するんだから、その分、国内総“生産”が上昇するのは当たり前ってのは、考えなくても分かる理屈のはずだ。
因みに、火田さんの話でいう商品を“作る”側に立って経済を考えるサプライサイドは一般では、古典派経済学または新古典派経済学に入り、“買う”側に立って経済を考えるのはケインズ経済学に入る。火田さんの主張は、一見、ケインズ経済学のように思えるけど、ケインズ経済学は単純に通貨を供給すれば、消費が刺激できて、需要が、つまりは“買う”が大きくなると考えているのに対し、火田さんはそうは考えていない点が新しく…」
吉田の語りが止まりそうにもなかったので、立石が言った。
「あ~、吉田君が暴走し始めた。止めて、神谷君」
「おい、吉田。いつものだべりじゃなくて、会議の場だから、止まれ。そんな難しい話をしたって読んでる人は分からないって。しかも本筋には関係ないし」
そう神谷が言うのを聞くと吉田は止まる。アキがそのタイミングで言った。
「その方法なら、高齢者の富裕層から若い世代の貧困層への資産移動も可能だね。太陽電池を買う為の公共料金か税を支払ってもらえば、実際に働く現役世代の収入になる。でも、収入が増えるまでにタイムラグがあるから、それまでがちょっときついかな?」
それを聞くと、吉田がまた言った。
「なら、初めの1回は、通貨を増刷してしまえば良いんだよ」
その言葉に、皆が固まる。
久谷が言った。
「それって、よく“とんでも話”の類として語られる通貨の増刷ですよね? そんな事をしたら、悪性のインフレ、つまり物価上昇になって大変じゃないですか?」
しかし、それを聞いても吉田は無表情を崩さなかった。
「大丈夫だよ、この場合は」
と、涼しい顔でそう答える。そして続けた。
「増刷すると、物価が上昇するのは、どうしてなのかその理由を考えれば自明だよ。さて。物価が上昇するのはどうしてだろう?」
それには火田が答えた。
「生産物の量が増えないのに、金だけが増えるからだろう? ま、通貨需要が増えないのに、通貨供給量だけ増やすって事だが。例えば、商品が10個しか出回ってない社会があったとして、それが単価10円だとする。全体で観れば、10個×10円で100円。ここに通貨をもう100円供給すると、通貨の全体の流通量は200円になる。ところが、商品の数は同じだから、200円÷10個で、単価は20円に上がってしまう。つまり、これが物価上昇。インフレ」
「その通りだね。だけど、今回の話の場合は、太陽電池の流通量が増えるんだよ。つまり、お金の流通量が増えると同時に、商品の流通量も増えるって事だ。その火田さんの話で説明すると、商品の数が10個増えて20個になるんだ。200円÷20個で、単価は10円。変わらない。通過需要が増えるのに合わせて、通貨供給量を増やすからだね。
だから、初めの1回だけは生活者から料金を取らなくても大丈夫。お金を刷って、それで太陽電池生産を行えるんだね」
そう言い終えると、吉田はまた本を開いてそれを読み始めてしまった。皆は何故だか深くは追及しようとしない。吉田のマイペースに呑まれてしまったのかもしれない。逃げられてしまった感も漂ってはいるが、吉田本人にそんなつもりはもちろんなかったし、それは他のメンバーも分かっていた。そういうタイプではない。その静寂を破るように、アキがゆっくりと口を開いた。
「信じられないけど、確かに理屈の上ではそうなるね」
火田がそれに続ける。
「増刷してから料金を安くした場合、通貨の流通量を調整する必要なんかもありそうだな……。
料金を徴収して、それで太陽電池生産を行うってのは、原理的には“均衡予算乗数の定理”で、既に警察や消防の運営、または電気ガス水道なんかの公共料金で実績のある試みだが(景気回復の為に用いた例はなさそうだが、実質的にはその効果も果たしてきた)、その分の金を予め刷っちまってそれを初めの料金にそのまま使うってのは、もし実現すれば、恐らく史上初の試みだろう。つまり、実績がない。そういう意味では不安が残るな」
その後で久谷が言った。
「でも、もし成功すれば、今の日本、いえ、場合によっては世界が抱える経済問題が大きく改善する事になりますね。雇用が生まれ、景気が回復し、経済が成長して、おまけにエネルギー問題まで改善する。
控えめに観ても、試してみる価値はあると思いますが。保守的な方々は、二の足を踏むかもしませんが」
その後で誰も言わなくなった。何を言えば良いのか分からなくなってしまったのだ。吉田は気にせず本を読み続けている。神谷はそれを見て、こいつは本当に会議には向かない、とそう思っていた。マイペース過ぎる。そしてその沈黙を観て、これはいけない、と思った立石が口を開いた。
「とにかく、自然エネルギーを普及する上での経済的な問題は、そのやり方でなんとかなりそうだとして、技術的な課題はどうなの? それがクリアできなくちゃ、経済的には問題がなくても化石エネルギーの代替エネルギーに自然エネルギーを用いるなんて、不可能でしょう?
もちろん、太陽電池だけじゃなくて、風力発電でも地熱でも何でも良いのだけど」
それを受けて、久谷が言う。
「おぅ、流石、議長。話を進めましたね」
「今は、そういうのいいから」と立石は返す。それから、言った。
「どうなの?火田さん」
「また、俺かよ!」
「また、あなたです」と久谷。それを受けると、「はぁ」とため息を漏らし、火田は口を開いた。
「自然エネルギーの、基本的な問題は発電をコントロールできないって点だ。風力は風が吹いた時だけ、太陽電池は日光が必要。小規模水力発電も、水が流れなくちゃ意味がないのは分かるな。バイオマスを用いた場合はコントロールできるが、絶対量が不足している。と言っても、全電力の3%ほどは補えると言われているから、無視もできないんだが。地熱発電は、基本的には問題がないが、減衰する可能性があるから、長期的には発電コントロールは△ってところかもしれねぇ。自然公園なんかの理由で、利用が禁止されている場所が多いみたいだから、許可さえ下りれば利用は拡大しそうだな。
自然エネルギーがベースロード電源になるには、この発電をコントロールできないって課題を解決しなくちゃならない…」
そこまでを火田が語ったところで、沙世が手を上げた。
「ごめんなさい、火田さん。わたし、話についていけてない。えっと、そもそもどうして発電コントロールできないと、ベースロード電源にできないの?」
それにはアキが答える。
「電気は大量には溜めておく事ができないからだよ、沙世ちゃん。例えば、100Kw必要だとしたら、その時に100Kwを発電しなくちゃならない。でも、発電がコントロールできないとしたら、その100Kwが得られないかもしれないだろう? 例えば風力なら、風が吹かなければ無理。つまり、電力供給が不安定なんだな。更に、逆に電力の必要がない時間に、大量に無駄な発電をしてしまう可能性もある。電力が必要ない夜間に風が吹いたら、風力発電しちゃうけど、それは無駄に終わる。発電量が充分でも、必要な時に発電できなくちゃ意味がない。これが、自然エネルギーの一番の課題なんだ」
それを聞くと、沙世はこう応えた。
「ん~、電気は溜められないから問題って事は、逆に言えば、電気が溜められれば、その問題は解決するって事?」
「うん、その通りだよ。電気を溜める事ができたなら、必要のない時間に発電してしまった分を溜めておいて、必要になった時に使うって事ができるようになるからね」
アキがそう答えると、火田が続けた。
「一応断っておくと太陽電池なら、補助電源って意味で、今でも充分に優秀な働きをしてくれるエネルギー源だからな?
太陽電池で電力を得られる昼間は、電力使用のピークだから、無駄に発電する可能性が低いんだよ。風力だとこうはいかない」
火田の言葉に卜部が疑問を発した。
「でも、曇ったらどうするの~?」
「曇りの時は、気温も下がる傾向にあるから、電力需要も下がる。大きな問題はないな。だから、俺は太陽電池を特に推している。蓄電ができなくても、ある程度の効果が期待できるからだ。ま、それでも蓄電できた方が、より効果的なのは言うまでもないが」
それを聞き終えると、卜部は言う。
「なんか、火田さんって太陽電池好きよね。さっきの例も太陽電池だったし。あっ! さては、どっかから金貰ってるわね! 電機メーカーの回し者め!」
立石がそれにツッコミを入れた。
「発想が黒いのよ、あんたは。あんたと同じにしない。こう見えて、火田さんはピュアなんだから」
「気持ち悪い事を言うな!」と、それに火田。
「そもそも、こんなアクセス数の少ない会議で宣伝したって効果は薄いから、誰も金払わないと思うけど…」と、アキがそれに続けた。その後で、久谷が口を開く。
「自虐ネタらないでください、村上さん。
しかし、大量の電力貯蓄なら、既に実現していますよね? 揚水発電… 蓄電と言った方がより正確だと思いますが、それによって」
その久谷の言葉に沙世が不思議そうな声を上げる。
「陽水発電?」
立石がツッコミを。
「何よ?その発電は… 井上陽水を利用した発電か何か?!」
「あ、わたし、『氷の世界』大好きだけど」
「古いわね。まぁ、私も好きだけど」
その掛け合いが終わると、珍しく久谷がボケに参加しないで、こう説明した。
「揚水ってのは、水を揚げるって意味です。水を汲み上げておいて、必要になったら水力発電と同じ要領で、発電を行う。つまり、位置エネルギーに変えて、電気を蓄える方法ですね。この方法だと、効率はそれほどではないにしろ、大量の電気を蓄えられるのです。既に、2000万Kw以上の発電量はあるのだとか。
これを利用すれば、大量の蓄電が可能ですから、洋上大規模風力発電を開発しても、それを効果的に利用できるようになります。夜間に風が吹いて、無駄に発電してしまったらそれで水を汲み上げて、溜めておけばいい」
それを聞くと、立石が疑問を口にした。
「あ~、私もその話はニュースを読んで知っているわ。でも、その時に疑問に思ったのよね。そもそもどうして、電力会社はそんな物を造ったの? 自然エネルギー開発の為だったとしたら、アピールが弱過ぎるような気がするし。と言うか、アピールするどころか、初めのうちは、隠していたって聞いたわ。原発を推したいのなら、自然エネルギーに有利になるそんな物を造る理由はないはずよね?」
その疑問には、火田が答えた。
「何も不思議な事はないさ。揚水発電は、原子力発電の為に必要だったんだ。恐らくはな」
「何で?」
「原発も無駄に発電しているからだよ」
「は?」
その言葉に、立石は驚く。
「原子力発電は、発電をコントロールできるのじゃなかったの?」
「それは正確じゃないな。あのよ、原発事故のニュースを見てて、不思議には思わなかったか? 核燃料を冷やすのに、一年以上の時間が必要なんだぞ? そんな巨大なエネルギーによる発電を、急に停めたり開始したりできると思うか?
実は危険過ぎて、急には停められないんだよ、原子力発電は。原発は急には止まらない~って感じだ。だから、実は発電コントロールって意味じゃ、△なんだな。
つまり、一度動かしたら、昼夜を問わず発電し続けるしかない。でもって、夜間に発電する分は無駄になる。その無駄をなくす為には電気を溜める必要がある。それで、揚水発電を造ったんだろう」
それを聞いて、アキが「へー」と言った。
「面白いですね。つまり、原発の問題を解決する為の揚水発電が、自然エネルギー利用のお膳立てにもなっていたって事ですか?」
「まぁ、そうだな。無駄に発電しちまうっていう、自然エネルギーと同じ問題点を原発が抱えていたからだから、偶然じゃないだろうが。
そして、自然エネルギー利用にも使えるからこそ、当初、この揚水発電の存在を電力会社は隠していたのかもしれねぇ。まぁ、電力不足を補うのにこれを使うと、火力発電でコストが余計にかかるからかもしれないが。
だが、少なくとも隠されていたって点は事実だぜ。俺はニュースをチェックしていたんだが、節電目標が緩和された後も、初めのうちは揚水発電についてはほとんど触れられていなかった。しばらく時間が経ってから、ようやくだ。情報が操作されているな。ほぼ、間違いなく」
火田がそう語り終えると、卜部が妙な表情を浮かべた。
「それは、原発を推進させる為?」
火田は答える。
「分からねーよ。ただ、原発も政財界癒着で甘い汁を吸っている連中が、たんといる事だけは確かで、原発を保護したい奴らがいるのは事実だ。そして、原発が安いって主張の中にはこの揚水発電は含まれていない。色々と勘繰りたくはなるな」
それから、卜部は目を細め、少し悪そうな笑顔を見せるとこう言った。
「でも、確か、原発って自然エネルギーに含まれるのでしょう?」
火田はそれにこう説明した。
「一部にそんな声があるのは事実だな。CO2を出さず、プルトニウムを利用しての再利用が可能な原発は、自然エネルギーに含めるべきだ。
まぁ、解釈の問題だからどうとも言えないが、一応断っておくと、発電時にはCO2を出さなくても、ウラン精製時には確り排出する。とは言っても、精製方法によって大きな差があるが、他の自然エネルギーと比べて遜色ないくらいのレベルではあるらしいが。あと、核廃棄物の汚染問題は深刻だぜ」
それを聞くと卜部はこう言う。
「だけど、原発にメリットがなかったら、そもそも原発を開発しようなんて思わないでしょう?
どうなの? そこんとこ、村上君」
突然に話を振られて、アキは驚いた顔を見せる。そして慌てて話し始めた。
「えっと……、まぁ、そうだね。例えば、原発の燃料のウランは、産出国が比較的世界各国に分散しているんだ。原油の場合は、一部の地域に固まっているから、中東やロシアの政治要因によっては供給が不安定化するのに対し、ウランはそうはならない。今のところは価格も安い。
ってのが、あるけど」
そうアキが説明すると、卜部は「どーよ」と言いつつ、火田を見た。火田は、何とも言えない表情をしている。“どーよ”と言われても……。その光景を見て、久谷が言った。
「おお、なんだか卜部さんがバトル・トークの流れを作ってくれていますよ。案外、協力的じゃないですか」
立石が返す。
「卜部の場合は、単に性格が悪いだけよ。きっと、火田さんに反論してみたくなったんでしょう。でも、自分じゃ知識に限界があるから、村上君を巻き込んだ、と」
火田は淡々とこう返した。
「それを言うなら、自然エネルギーなら国際情勢の影響は全く受けないぞ? 太陽も風も人間の営みには関係なく照るし吹く。それに、ウランの価格は今は安いが、発展途上国が原発を開発しまくってるから、そのうちほぼ確実に高くなるな。自然エネルギーなら、その心配もない」
アキがそれに続ける。
「例え、供給量が増えてそうならなくても、円安になれば高くなりますしね。もちろん、価格高騰プラス円安なら、更にですし」
それを聞くと、卜部が吠えた。
「こら、村上! どっちの味方だ!」
アキは困った顔を見せる。
「いや、どっちの味方とかそういうのは別にないけど…… あえて言うなら、沙世ちゃんの味方かな?」
「どっから出てきた、わたしの名前?」と、沙世がそれにツッコミを入れる。その後で、卜部は舌打ちをした。
「チッ 村上、使えねー!
大体、原発が危険って言っても、大きな問題が起こったのは千年に一度の大地震でしょう?
あと、何年後よ? この次は! 心配する必要あるの?」
燃えている卜部に対して、火田は「さぁなぁ?」とやる気なく返す。
「じゃ、どうして反対しているの?」
それに対し火田は「あのなぁ 断っておくが、俺は別に原発に反対していないぞ?」と返す。
「は?」
と、それを聞いて全員が疑問の声を上げる。
「あの… だって、散々、原発に対して否定的な発言ばかりだったじゃないですか?」
そう質問したのは神谷だった。火田はこう返す。
「いや、反対じゃないってのは正確じゃないな。俺個人の意見としては、反対だ。少しずつでも割合は減らすべきだ。そうしないと後で苦労するからな。自分が。
が、直ぐに完全に停止するのが現実的かと言えば分らないし、仮に様々なデメリットを世間の連中がよく把握した上で、それを認めると言うのなら、認めるよ。と言うよりも、多数決だから、認めざるを得ない。ただし、危険性を含めてのデメリットを本当に正しく認識していたらだがな」
「どうしてです?」と、聞いたのはアキだった。
「もしかしたら、危険と隣り合わせのスリリングな生活が好きな奴だっているかもしれないだろう?
まぁ、普通いないが」
「個人の嗜好ですか? でも、そう言ったって、他人に迷惑をかける個人の嗜好なんて許されないと思いますが」
「そうだな。しかし、そんな連中が大半を占めるのなら話は別だ。世間の“正しさ”なんてそんなもんさ」
それに対して、卜部は噛みついた。
「だから、そもそもそんなに危険はないでしょう? 原発に」
立石がため息を漏らしながら言う。
「あんたねぇ… 高速増殖炉の事故が起きてるじゃない。そういえば、あれもテレビでは報道されていないけど。少なくとも、あれは危険と評価するしかない」
「高速増殖炉は諦めれば良いじゃない」
卜部がそう言うと、パタンと本を閉じる音がした。
「高速増殖炉を諦めたら、原発のメリットはうんと下がるよ。少なくとも、長期的にはほぼ確実に脱原発を迫られる」
そして、そんな声が上がった。声の主は吉田である。どうやら、読書を切り上げたようだ。
「うるさくて、本に集中できやしない。そんなに大きな声を出さないでよ」
それから、そう言う。
「会議の最中に本を読んでいるのも、どうかと思うけどな」
と、それに神谷がツッコミを入れた。
「どうしてよ?」
卜部がそう言うと、火田が答えた。
「そもそも、ウランはそんなに豊富な資源じゃないからだよ。可採年数は70年ほどだとも85年ほどだとも言われている。こういうのは変わる数字の代表格だから、今後どうなるかは分からないが。だから、長く原発を使い続けるには、再利用効率を上げるしかない。しかし、飛躍的に効率を上げるには、高速増殖炉を安定的に稼働させなくちゃならないんだよ。危険だからとその高速増殖炉を諦めるのなら、原発の有効年数はうんと減る。すると、俺達が生きている間での脱原発への方向転換は避けられなくなる可能性が大きい。既に60歳を超えているだろう国や電力会社のお偉方には関係ないだろうが。
更に、さっきも言ったが、発展途上国が原発を造りまくってるから、資源不足に伴ってのウラン価格の高騰も心配だ。これは早ければ十年以内に起こってもおかしくない」
卜部はその説明を聞くと、なよなよとした動作で言う。
「でも、官僚や科学者が心配ないって言うなら、いずれは高速増殖炉も安全になるのじゃないの~?」
「本心は?」と、久谷。
「はっ! 国の言う事なんて、信用できるかってーのよ! 今までに何度、嘘をついてきた!」
それを受けて、立石が言う。
「はい。投了ー」
が、それでも卜部は言った。
「ちょっと待った。泣きの一回!」
「変な言葉を知ってるわね。あんた。おやじか?」、そんな立石のツッコミの後で卜部が言う。
「ウラン価格の高騰なら、さっき火田さん達が言ってた、料金を国民から徴収する方法で何とかならない?
ウランが枯渇するまでの間は、それで何とかすればいいじゃない」
それを聞くと、火田はこう返す。
「甘いな。甘栗のよーに、甘い」
「甘栗ってそんなに甘くないわよね?」と、それに立石。
「ちょっと待って。甘栗の味のある甘さをバカにしてもらっちゃ困るわ」と、沙世。
「このタイミングで変なボケを入れるな!」
珍しく、卜部がツッコミを。
「火田さん、答えて頂戴。甘栗のよーに、甘いって何?」
「なんだか、安心するような甘味って意味よね?」と、沙世が言う。
卜部が叫んだ。
「だから、ボケるな! 話が進まなーい!」
アキが言った。
「沙世ちゃんが珍しく天然じゃなくて、普通にボケてるのだから、ボケさせてあげてよ」
「いや、これはツッコミだから良いのじゃない?」と、それを聞いて立石が。卜部がまた言う。
「ええい、話が分からなくなった。えっと、なんだっけ? そうだ。どうして、ウラン価格高騰は、国民から料金を徴収する方法じゃ解決できないの?って話だった」
ようやく火田がそれに答えた。
「さっきの方法は、飽くまで国内の人件費に料金の大半が支払われる場合しか使えないんだよ。徴収した料金が、ウラン購入に充てられるのなら、金は海外へ消える。国内総生産は上昇しない。それはそのまま国民の負担になるな。
という事は、今もウラン購入は国民の負担になっているって事だが。電気料金に含まれている。
もう少し言っておくと、今のうちなら労働力が余っているから、自然エネルギーに方向転換する労力は充分にある。何十年後かにそれをやらなくちゃいけないとなると、少子化の影響で労働力が足りないから、凄まじい苦労をする事になるぞ? 断っておくが、その事態は俺達が生きている間にやって来る可能性がでかい。俺は自分が苦労をしたくないから、自然エネルギーを推しているんだよ。自然エネルギーの多くは、維持費がかからないから、今のうちに造っておけば後の世代が助かるんだ」
吉田がそれに続けた。
「原発は維持費がかかるどころか、廃炉にするのにも膨大な経費がかかる。労働力が足らない時代に、それを押し付けるのは酷だと思うけど。
ま、僕らの世代も被ってるけどね」
二人にそう説明に「うー」と唸る。その様子を見て立石が言った。
「はい。お終い、お終い。この二人を相手にして、あんたに勝ち目があるはずないでしょう? 卜部」
しかし、それでも卜部は叫んだ。
「まだ、まだぁ!
そもそも原発って何なの? それを知らなくちゃ、どうして危険なのか納得できない~!」
「ちょっと、苦し紛れで変な質問しないでよ! 吉田君が答えちゃうでしょう?」
「原発ってのは、原子核の結合力を解き放ってそれを電気エネルギーに変える発電方法だね。原子ってのは、中性子と陽子が強い力で結合しているのだけど、その中性子や陽子がたくさん結びついて大きくなれば、綻びがある原子も現れる… つまりそれが一部のウランなのだけど… その原子は刺激を与えると崩れるから、核力が解き放たれて大爆発が起きる。そのエネルギーで発電するのが原子力発電で、更にプルトニウムっていうのは……」
「って、ほら、言ってる傍から吉田君が説明し始めちゃった。神谷君、止めて」
「吉田、分かっているとは思うが、苦し紛れの質問なんかに真面目に答えるな。話の本筋に関係ない難しい説明をしたら、ただでさえ少ない読者が更に減るぞ!」
しかし吉田は、それでも続けた。
「……プルトニウムは、ウランの核分裂反応で出たエネルギーが…」
「って、駄目だ。スイッチ入った。止まらね~」
……吉田が説明をし続けたので、省略します。
「とにかく、何となく話はまとまったかしら?」
と、吉田の説明が終わった後で立石が言う。
「経済的な問題は、料金を徴収して通貨を循環させる方法で解決できる。むしろ経済発展すらするから、問題はほぼなし。
技術的には、自然エネルギーを充分に活用する為には蓄電が必要だけど、揚水発電があるから、ある程度の利用は既に可能。で、太陽電池だと電力使用のピークに発電を合わせられるから、蓄電がなくても補助電源としては活用できる、と」
火田が続けて説明を始める。
「まぁ、そんなところだな。因みに、今の技術力と労働力でも、自然エネルギーの発電割合20%くらいなら問題なく達成できるのじゃないかと思う。先の通貨循環を発生させる方法が上手くいけば、軌道に乗って更に飛躍的に上昇って可能性もある。大雑把な予想だがな。それと、蓄電に関しては今後は発展が期待できるから、更に自然エネルギー利用の土台は整う。
個々の自然エネルギーの特性については、あまり触れられなかったが、代表的なものに触れておくと。
まず、太陽電池のメリットは維持費がかからないのと様々な場所で発電が可能という点。また、電力使用時のピークに発電を合わせられる点も魅力だ。更に太陽電池本体は半導体なんだが、半導体は鉱物でほぼ半永久的に使用し続けられる。その為、再利用効率が高い。
問題点としては、当然の事だが、夜間は発電ができない。それと、太陽光の利用効率が凄まじく高いと言っても、面積が必要で設置場所がばらける。その為、送電網を整備しなければ、社会全体での電力共用は難しい。
風力発電は、維持費は低いし耐用年数も100年以上で自然エネルギーの中じゃ一番採算性が高いと言われる。太陽電池も合わせて、今のうちに大量に造っておけば、次世代が助かるエネルギー源だな。
問題点は、場所を選ぶという点。設置場所を間違えれば、充分な発電を得られないなんて悲惨な結果も待っている。それと、強風と雷に弱いという難点もある。台風の通り道の日本で利用を拡大するのなら、この点の補強が必要だ。また、風が吹かなければ発電0だから、発電が不安定って点も捨ておけない。最も蓄電が必要なエネルギー源の一つだ。
地熱は電力供給に不安は少ないものの、環境破壊になる点や長期間利用する場合、減衰が心配になってくる。また、危険でもあるし、コストもかかる。
後、個人的には日本で太陽熱発電が再開したって話も気になる。太陽“光”じゃなくて、“熱”な。これは太陽熱で発電するものだが、熱を蓄える事で夜間でも発電が可能だ。太陽光の弱点をカバーできる。ま、砂漠ならともかく、日本でどれだけ期待できるのかは分からないが。
熱で思い出したが、実は太陽光発電には節電効果もあると言われているんだ。普通、発電ってのは送電先にエネルギーを送るから、送電先の気温を高くしちまうんだよ。しかし、太陽光の場合は、放っておけば熱に変る太陽光を利用するから、反対に気温を下げる効果が期待できるんだ。
都会に大規模に普及させれば、ヒートアイランド現象を緩和して、冷房コストを下げられるかもしれない。まぁ、これは実際にやってみなくちゃ何とも言えないんだが」
火田の語りが終わると、久谷が「おお」と言う。
「語りましたね、火田さん」
「まぁ、最後だしな」
「いやいや、面倒臭がっていた癖に饒舌に語る火田さんを観て、本当に太陽電池が好きなんだなって思いましたよ」
火田はその言葉に少し照れた。
「うるせーよ。とにかく、そろそろ会議も終わりだろう? 久谷は、なんか言う事ないのか?」
「んー、途中から(主に卜部の所為で)異常な状態になって、普通な神谷さんの発言が減ってしまったのが残念です。
もっと、普通の質問をして欲しかった」
「会議に関係ある事を言えよ」と、火田はそれにツッコミを入れる。それを聞くと、神谷は「ははは」と笑った。
「普通って言うな~
とは言わないけど、他の人も案外、普通の質問してたよね? 僕だけじゃなくて」
それに対して、「普通の意見ですね」と久谷。「普通ね」と立石。「普通でもいいんじゃない?」と沙世。そして、
「どうでもいいけど、あたしは次も出番あるのかしら?」
と、卜部。
「あんたは、あれだけ議論を引っ掻き回しておいて、よくそんな事が言えるわね。最後まで、自分の事かよ!」
「うるさいわね~。もし、これでアクセス数が上がったらあたしのお蔭だからね~」
「なんでそうなる?!」
……まぁ、多分、上がりません。
……さてさて。
最後に簡単に纏めてみます。
自然エネルギー開発にはプラスの経済効果です。何故なら、今の不況は需要不足で起こっていて、自然エネルギー開発を行えばその需要不足を補えるからです。自然エネルギー関連の物を生産する分の生産量が増えるから、国内総生産がその分増えるのですね。もちろん、海外からの天然ガスや原油やウランの輸入が減る分の国内総生産の増加もあります。
ただし、自然エネルギー開発を企業負担にさせた場合は(電気料金が上がるので、低所得者層も困ります)、商品価格が上がったり、または海外に企業が逃げてしまうかもしれないので、経済に悪影響の可能性があります。
生活者が料金(税金でも良いのですが、国に悪用される可能性を減らす為に、税金とは別枠の料金の方が良いと僕は考えます)を払い、その金で自然エネルギー開発を行えば、企業負担にならずに自然エネルギー開発を行えます。
国内で大半の労働力を賄う事が条件ですが、生活者が料金を支払っても、その分、収入が増えるので大きな問題にはなりません。
また、通貨の循環が増える分ならば通貨を増刷しても問題にならないので(通貨需要と通貨供給を同時に増やしている)、初めの一回目ならば、増刷した分を料金に充てる事が可能です。
もし、この方法が成功したなら、不景気と財政問題とエネルギー問題が改善します。効果の大きさから判断して、少なくとも僕は、試してみる価値はあると考えます。
技術的には、太陽電池ならば補助電源として優秀なので、蓄電がなくてもある程度の効果は期待できます(因みに、太陽電池は運搬が可能なので、料金徴収方法にも適しています)。風力発電は無駄に発電してしまう分を蓄電できれば、大幅に問題は改善でき、効率も上がる訳ですが、それには原発の為に造られた揚水発電がそのまま使えます。既に2000万Kw以上の発電量があるらしいので、洋上大規模風力発電の開発も充分に可能のはずです。
この太陽電池と風力発電は二つとも維持費がかかりません。また、太陽電池は再利用効率が高く、風力発電は耐用年数が100年以上と長いので、今の内に造っておけば次世代が助かります(当たり前ですが、日光も風も国際情勢の影響を受けず、価格的には安定しています)。
これに対し、原子力発電は、ウランの枯渇が心配な点や、廃棄物処理コスト(国の出している費用計算には、このコストは含まれていないらしいです)がある点、また廃炉にするにも費用がかかる点を考慮すると、次世代へツケを回す方法と判断せざるを得ません。国の計算では、原発はコストが安い事になっていますが、国際的にはむしろ高額と言われており、一部の国の人間が自分たちにとって都合の良い数字を捏造したのではないか?とも言われています。例え、安全であったとしても問題だらけ、ですね(もちろん、高速増殖炉開発に手を出すのなら、完全に危険です)。
ウランが枯渇し始め、必然的に脱原発を迫られる時代は、日本は少子化の影響で労働力不足が深刻になっているだろうと予想できるので、恐らくは悲惨な事態に至ります。
財政問題、高齢化問題、そしてエネルギー問題、次世代へツケを回すのは、いい加減、控えた方がいいのではないでしょうか?
少なくとも僕は、自然エネルギー開発増強に賛成です。
こういう問題に無関心な人に読んでもらうには、と考えて書き始めたのですが、やっぱり難しいみたいです。
でも、書き続けます。
なぜなら、楽しいから(こーいうのを、普通にエッセイ?で、書くのに飽きたってのもあるのですが)。