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電界駆動ブレード- compression  作者: 不治痛
point of no return - 白刃鼓動すべし
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第4話 Born to Be Wild/01

    【Present Day】


 ジェリー・ザ・キングは、背後に二機の影を従え、パンドラ・グローブを疾走していた。


 拡大鏡で覗いたように肥大化した植物の光景には飽き飽きしていたが、今日は少し違う。

 背後に仲間を引き連れ、CFを飛ばす――。


 まるでかつての、暗黒時代(ブラックアウト)の混乱期。

 国家と呼ばれた権威は失墜し、虚栄に肥大した企業は身動きが取れなくなった。


 その隙間を縫って、有象無象のギルドが看板(カラーズ)を掲げ、覇を競った時代。

 コード・フレームワークが隊列を成し、あらゆる場所を埋めていった、あの光景――。


 アナーキー・トレイン。

 キングは、あの時代と同じ匂いを感じていた。


 背後はたった二機。

 だが、数は問題ではない。


 この空気がいい。


 愛機スヴァルトピレンの首元に二つ。

 そしてキングのベストの胸。


 黒地に金で縁取られたダイヤ型のパッチ。

 そこには同じく金色で、1(ワン)%er(パーセンター)の文字が刻まれている。


 アナーキー・トレイン以前――。

 さらに古い現実の時代から引き継がれてきた、覚悟の象徴(シンボル)。


 掲げるのは自由だ。

 だが、周囲がそれを認めるかは別の話だ。


 そのシンボルはファッションではない。

 看板(カラーズ)以上に、重い掟がつきまとう。


 欲しければ、力で認めさせる。

 あるいは、持ち主を倒して奪う。


 手段は、その二つだけだ。


 閉域行政都市(イントラ)が稼働し、メサイアが現実国家と協定を結んだ頃から、企業都市国家(テリトリー)は息を吹き返した。


 あの愉快で、痛快で、血生臭い時代は、秩序の名の下に静かに終わっていった。


 その頃にはビッグ・マクマホンが連盟(フェデレーション)をまとめ上げ、キングもその列に加わっていた。


 そして、1(ワン)%er(パーセンター)であっても、その象徴を掲げ続ける者はほとんど居なくなった。


 なぜなら――。

 それは「いつ何時、誰の挑戦でも受ける」という宣言に等しいからだ。


 その中でも、名を刻んだ連中は限られている。


 「大物(ビッグ)」、ジェームス・マクマホン。

 「鉄人(アイアンマン)」、リー・テーゼ。

 「秒の殺し屋(ザ・シューター)」、イスタス・カレル・ゴッチ。

 「不敗伝説の男(バット・アス)」、デットマン。

 「超人(インクレディブル)」、テリー・“ジ・ハリウッド”・ボレア。


 そして――。


 自分。

 「剛拳(パワーフィスト)」、ジェリー・ザ・キング。


 アナーキー・トレイン終息の頃、あえて1(ワン)%er(パーセンター)を掲げ続けた連中だ。


 もっとも――。


 ビッグとハリウッドは、立場もあって今では外している。

 テーゼとゴッチは連盟(フェデレーション)を離れ、今では行方知れず。


 今もなお、この象徴を目に見える形で掲げているのは――。


 キング自身と、連盟(フェデレーション)と距離を置き、好き勝手に暴れているデットマンくらいのものだ。


 そのデットマンも、ここしばらくは噂を聞かない。


 まあいい。

 あの男は、殺したところで死なない。

 そのうち、何事もなかったように顔を出すだろう。


 キングは自分も歳をとったと実感している。

 時代は変わった。


 実際、この象徴(シンボル)は矜持として掲げていても、こうしてCFに乗って出る機会はめっきり減った。


 ビッグが連盟(フェデレーション)で大手ギルドを束ねたことで、1(ワン)%er(パーセンター)は特権階級のように誤解されている。

 事実、そう振る舞う連中も多い。


 ここは一つ、その意義を再認識させる必要がある。

 それに、ビッグに預かったジュニアは守り抜かねばならない。


 だからこそ、ジュニアには悪いが――。

 罪の男(シナーマン)に対しての意地は通す必要がある。

 伝統を知る年寄りが、秩序を力で示さねばなるまい――。


(いーや…… そりゃ嘘だ)


 キングは、そのもっともらしい理屈を内心で叩き潰した。


(やれやれ、これが歳をとったって証拠だな――)


 自嘲が一瞬だけよぎる。


 キングの目的は一つ。


 罪の男(シナーマン)の獲物を横取りすることだ。

 あの男なら、黙って見てはいない。

 確実に刃を向けてくる。


 そうなれば――。

 獲物を奪っただけの話は、向こうから売ってきた喧嘩に変わる。

 あとは、噛みついてきた若造を返り討ちにするだけだ。


 ビッグにも、ジュニアにも、それで説明はつく。


「それに、あんなイキのいい相手を、若造にくれてやるのはもったいねぇ」


 アルマナックのγのことだ。

 あれは間違いなく、あの男から学んでいる。

 殲滅明王(せんめつみょうおう)。


 ただの暴力で、連盟(フェデレーション)と、その中核にいた1(ワン)%er(パーセンター)たちを圧倒した男。


 今では、もうCFには乗れないと聞く。

 ……いい気味だ。


 だが、それではキング自身の黒星は消えない。本人に返せなくなった借りだけが、今も残っている。


 シージン・マーチのラスト。

 罪の男(シナーマン)との対決を選んだ、2行程処理型(ダブルアクション)のCF――。

 γ(ガンマ)。


 あれを潰せば、殲滅明王への意趣返しになる。

 同時に、罪の男(シナーマン)の鼻先から獲物を奪うこともできる。


(まったく――都合がいい)


 罪の男(シナーマン)も、γも。

 放っておけば、連盟(フェデレーション)にとって災いになる。


 どちらも今のうちに潰せ――キングの1(ワン)%er(パーセンター)としての本能が、そう告げていた。


 視界の端で、索敵表示が一度だけ明滅する。

 密林の向こう。まだ姿は見えない。


 だが、探知範囲をかすめたその反応を、キングは知っている。


    【Flashback】


 これほど面白いものが見れるとは思わなかった。

 わざわざ、西燼(シージン)くんだりまでやってきた甲斐もあろうってもんだ。


 それに、今年のシージン・マーチはいい盛り上がりだ。


 ……とは言ってもだ。


 祭りの熱気とは裏腹に、こっちの目論見通りにはちっともいかない。

 連盟(フェデレーション)にとっては、お寒いことこの上ない。


「キング――。 あの、ビッグからですが……」


 思わずため息が出た。

 無言で出ていけと、激しく手を振る。


 哀れな部下がボックスシートから出ていくのを確認すると、目の前の空間ディスプレイへ視線を戻した。


「だから言ったんだよ、ジェームス……面子にこだわるなら、出し惜しみするなってな」


 左端の画面。


 すれ違い様に両手のハンマーで相手を叩き潰す、銀色のCFが凄まじい勢いで駆けている。

 表示された名前は――ウー・シェイフー。


(まったく……。 とんだ疫病神だ)


 罪の男(シナーマン)。


 元はペレスとかいうチンピラが頭を張っていた、三下ギルドの名前だ。

 連盟(フェデレーション)に入れない、使いっ走りの一つだった。


 だが――。


 少し前に、トランシスコ・ベイでちょっとした事件があり、そのせいで南部の帝王(うち)のナンバー2が死んだ。


 ペレスも、その場にいた。

 ……あいつが直接やったわけじゃない。


 問題は、その後の動きだ。

 状況を読み違え、無駄に火種を広げた挙げ句――。

 ケツも拭かずに逃げたらしい。


 やったのはペレスでなくとも、原因を作った張本人だ。


(まあ、誰かがやらなきゃ、俺が落とし前をつけていた)


 残念ながら手を出す前に、ペレスは自らのギルドの手によって始末された。


 当時、二番手だったウーがペレスを粛清し、そのままギルドを乗っ取った。

 ……まあ、ありがちな流れだ。


 不始末を起こした頭を切った。

 ギルドとしては、仁義を通したと認めるしかない。


 その時は、今どき珍しい古風なやり方だと感心したものだが……。

 ヤツの人となりを聞くと、どうやら、そんな殊勝な話じゃなかったようだ。


 下っ端ギルドの連中の顔など知りもしなかったが、あの時、ウーとかいう小僧と俺との間には因縁がついたらしい。


 そして、ウーが率いるようになった罪の男(シナーマン)は、メサイアの私掠ギルド(プライベティア)として、賞金首を狩り回るようになった。


 確かに、これなら連盟(フェデレーション)から仕事を貰う必要はない。


 だが、結果として――。

 ヤツは獲物を狩りすぎた。


 その上、同業者も、容赦なく叩き潰して回った。

 やり口は偏執的で、通った後には草も生えないとはよく言ったもんだ。


 連盟所属のギルドからも次々にクレームが上がり、裏で手を回さざるを得なかった。

 早い話、連中に仕事が回らないように政治で干したわけだ。


 ここまでなら―― 「天晴れ」で済んだ。

 問題は、その後だ。


 ヤツは、各地のコミュニティのオープンレースや模擬戦(マッチ)で荒稼ぎを始めた。

 やりっぷりは容赦がなく、これまた執拗だった――。


 しかも、特に――。

 連盟(フェデレーション)のギルドを選んで真っ先に潰していたフシすらある。


 あっという間に罪の男(シナーマン)という名前は、ギルドではなく、銀のCF、そしてその操縦者ウーそのものを指す呼び名になっていった。


(面白くねぇな……)


 その罪の男(シナーマン)がコテンパンに叩き潰した中に、クラッシュのメンバーがいたのがまずかった。

 それで、政治のカードを切らされた上に、力という面子を潰されたビッグの逆鱗に触れることになった。


 シージン・マーチで潰せ――。

 そう、檄が飛んだのだが――。


「やっぱり、俺が出ておけばよかったんだ」


 この手の敵は、初手で叩き潰すべきだと俺は主張した。


 だがビッグは、俺が出るのを止めた。

 1(ワン)%er(パーセンター)のパッチを晒せる相手じゃない、と。


 嫌な予感はしていたんだ。

 だから、せめて目付として同行したのだが、実際に目の当たりにして、確信した。


 かつて同じ空気を纏った奴がいたことを、俺は知っている。


 殲滅明王。

 闘神のエース。


 あいつに、俺は負けた。

 だからわかる。


 なのに、代わりに出たのは、ホールとナッシュの二人だ。


 確かに、あいつらも1(ワン)%er(パーセンター)だ。

 だが、パッチを掲げる度胸はない。


 腕はあるが―― 頭は足りねぇ。

 覚悟も足らない。


 その結果が、この有様だ。


 俺は隣のディスプレイへ視線を移す。


(何をやってやがるんだ、あいつらは……)


 本来の標的はシナーマンのはずだ。

 だが今や、バカ二人は、別のCFを追っている。


 白と青に赤。

 トリコロールの機体。


 γ。


(懐かしいな)


 2行程処理型(ダブルアクション)の並列コード・ヘッド。

 パラレル・ツイン。


 軽くて、扱いやすく、安い。

 一時期は流行った機種だ。


 だが、耐久性が弱く、メンテも面倒。

 今じゃ好き者が乗る旧型だ。


 ……のはずだ。


 だが――。

 こいつは、明らかに、速い。


 スーパーデュークとフォーティーエイトが、置いていかれている。


 直線では詰める。

 だが――。


 コーナー。

 混戦。

 障害物。


 そのたびに、差が開く。


「こりゃ、ダメだ……。 相手にされてねぇな」


 勝負にもなってねぇ。

 戦闘はともかく、走りはあのγが遥かに上だ。


 しかも――。

 罪の男(シナーマン)も、そいつを、本気の走りで追い始めた……。


(おいおい……)


 狙いはそっちじゃねぇだろうが。


 だが、ホールとナッシュの気持ちもわかる。

 あの動きは、確かに放っておけねぇ。


 外から、甲高い咆哮が響いた。


 バラララァン!


 窓の外をγが一瞬で駆け抜ける。


「いい走りっぷりだな……」


 思わず口元が緩んだ。


「うちに欲しいぐらいだぜ」


 再びモニタへ視線を戻す。

 コード・ライダーの名前を確認する。


 九能(くのう)悠(ゆう)。

 所属は―― アルマナック。


「……ふーむ。 聞かねぇ名前だな」


 俺はわずかに目を細めた。


「調べておくか」


 そう呟き、ボックスシートの外にいる部下を呼んだ。


    【Present Day】


 索敵警告が、キングの意識を現在へ引き戻した。

 先ほどまで明滅していたコード反応が、今度ははっきりと表示されている。


 近い。


 スヴァルトピレンの後方で、二機が駆動音を重ねながら間隔を詰めた。

 かつてのような大部隊ではない。


 それでも――。

 今は、この三機で充分だ。


 キングは、スヴァルトピレンのアクセルを開ける。

 機体が唸りを上げ、加速する。


 同時に、背中のウェッポンラックが展開した。


 体の前面へ――。

 巨大な金属のギブスのような、あるいはグローブのような武器が、左右から迫り出す。


 キングはそのまま、前腕を筒状のフレームへと差し込んだ。

 ロック。

 次の瞬間、ラックは背中へと戻る。


 それが、ジェリー・ザ・キング。

 剛拳(パワーフィスト)と呼ばれる所以(ゆえん)。


 CF用打撃ガントレット。


 インパクトの瞬間、金属の塊が突き出て、相手を粉砕する。


 原始的だが――。

 それでいい。


 近接での破壊力は、それだけで事足りる。

 さらに、このガントレットには仕込みがある。


(あの時の失敗は―― 繰り返さねぇ)


 シージン・マーチの後、アルマナックを調べさせ、その結果を聞いた時――。


 柳橋(やなぎばし)亮平(りょうへい)。

 その名前を見た瞬間、殺意が噴き出した。


 同時に――。

 忘れたことなど一度もない、あの時の声が蘇った。


「鬱陶しい……。 いらねぇよ、そんなモン」


 連盟(フェデレーション)をたった二機で屠った、その片割れ――。

 キングたち1(ワン)%er(パーセンター)を圧倒し、マディソン・スクエアを中破させ、敗走に追い込んだ闘神のエース。


 そして勝者が持つべき称号すら、何の価値もないものとして吐き捨てた。


 負けたことだけではない。

 自分たちが命より重いと信じてきたものを、受け取る価値すらないと切り捨てられた。


 あの一言が、今もキングの中に残っている。

 そして、γがホールとナッシュを倒した時――。

 キングは確信した。


(あの化け物が――育ててやがる)


 冗談じゃない。


 キングの知る殲滅明王は、人を導くような男ではなかった。


 あれは獣だ。

 誰かを鍛え、後ろから押してやるような柄ではない。


(なんで、そんな野郎がギルドの頭に収まって、ガキを育ててやがる?)


 キングは舌で唇をなぞった。


(本人が乗れねぇなら――育てたガキを潰すまでだ)


 ガントレットを胸の前でX字に構える。

 重いフレームが、低い駆動音を響かせた。


(代わりにならねぇことぐらい、わかってるさ)


 次の瞬間――。

 スヴァルトピレンが跳躍した。


(一つずつだ……。まずは、俺様の黒星の清算からさせてもらう)


 密林を突き抜ける。

 人工のジャングルが裂け、視界が開けた。


 そして――。

 そこにいた。


 巨大に湾曲した壁に取り付く、トリコロールのCF。

 γ。


 さらに――。

 もう一機。


 長銃床(ロングストック)のアサルトライフルを装備したキャンディーブルーのホーク。


(当たりだ)


 口角が、歪む。


「ほーら。 みーつけた」


 重い駆動音が唸る。

 スヴァルトピレンが空中で身を翻す。


 X字の構えが解ける。

 右腕が引かれる。


 狙いは――。

 γ。


 キングの剛拳(パワーフィスト)が、今振り下ろされる――。

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