移住
『新天地』
私たちの星では、もう「未知」という言葉に大した価値はなかった。
科学技術が進歩し、観測可能な範囲は宇宙のほとんどを覆った。
新しい星を見つけることも珍しくない。
だから、その惑星が発見されたときも、最初は誰も興奮しなかった。
私たちの星と酷似していた。
水がある。
酸素がある。
豊かな生態系がある。
そして――文明がある。
知的生命体だった。
彼らは都市を作り、道具を使い、文字を持っていた。
私たちは彼らを調査した。
結果は、すぐに出た。
「こちらの方が優れている」
身体能力、知能、寿命、環境適応能力。
ほとんど全ての項目で、私たちが上だった。
会議では三つの案が提示された。
支配
和平
殺戮
最初は和平を望む声もあった。
しかし、ある男が言った。
「なぜ、わざわざ劣った生物に合わせる?」
反論は少なかった。
結局、私たちは彼らの星を手に入れた。
私は移住者の一人に選ばれた。
格安プランだったため、到着まで百年を要した。
長い旅だった。
そして今日、ようやく扉が開いた。
四本の脚を地面につける。
「……外だ」
久しぶりの重力。
久しぶりの空気。
久しぶりの世界。
思わず伸びをする。
視界いっぱいに、新天地が広がっていた。
だが――
「……つまらないな」
都市だった。
高層建築。道路。交通機関。
私たちの星と大差ない。
せっかく別の星まで来たというのに、これでは故郷と変わらない。
腹が減った。
近くの店に入る。
「肉を」
店員が差し出したものに噛みつく。
生肉だった。
二年間熟成された鶏肉。
表面は変色している。
「美味い」
濃縮された旨味が舌に広がる。
この星を選んだ理由の一つは、食料事情だった。
食べられるものが多い。
次に向かったのは、生命体観測場だった。
かつてこの星を支配していた知的生命体が保存されている。
ガラスの向こうに、それはいた。
奇妙な姿だった。
二本の脚で立ち、二本の腕を持つ。
頭部には眼球が二つ。
体毛は少ない。
四本足で歩く私たちとは、あまりにも違う。
「これが……知的生命体?」
正直、拍子抜けだった。
観察対象が何かを叫んでいる。
係員が説明する。
「視覚を遮断すると、認知能力が大幅に低下します」
実演が始まった。
目を覆われた生命体が、途端に動きを鈍らせる。
観客から笑い声が起こった。
私も笑った。
「やはり、殺戮して正解だったな」
この程度の生物と和平を結ぶ。
そんな選択をしなくてよかった。
私たちの文明に、彼らを必要とする理由はない。
観測場を出る。
新しい家へ帰る。
家具も食料も、すでに運び込まれていた。
私はベッドへ向かう。
そして、いつものように身体を横たえた。
眠気が来る。
私は右脳を睡眠状態へ移行させた。
左脳だけを起こしたまま、本を読む。
効率がいい。
明日は仕事を探そう。
この星での生活にも、すぐ慣れるだろう。
窓の外を見る。
夜の街が輝いている。
見慣れた光景だった。
ふと、机の上に置かれた古い本に目が止まる。
移住前に配布された資料だ。
表紙には、この星の先住知的生命体について書かれている。
私はページをめくった。
そこには、彼らの最後の記録が残されていた。
――人類は、最後まで抵抗した。
私は首を傾げる。
「人類?」
知らない言葉だった。
私は本を閉じる。
そして再び、読書を続けた。
明日になれば、この星のことをもっと知ることができる。
新天地なのだから。
きっと、まだまだ――
私たちが知らないことがある。




