異世界転生して嫉妬する話
ノリで書き上げたので誤字とかあったら笑い飛ばしてください。
「ゆ、許せねぇ……!」
シド・ディクタス――転生者――は、学園の図書室でわなわなと震えていた。
その手にあるのは、新進気鋭の作家「リープ・クイーン」の最新作だ。
閑散とした図書室にあって、シドの怒りは戯画的にも見える。
「……何が許せないんです?」
心底めんどくさそうに、近くに座っていた女生徒のアニエス・ビアリータークが彼に声をかけた。
これでもかとひっつめた髪と、今どき珍しいほどの瓶底眼鏡、その奥に浮かぶクマの浮いた目だけを見れば、彼女が貴族令嬢であることは到底信じられないだろう。
実際に、彼女は貴族が多く通うこの王立学園でもかなり浮いていた。さておき。
「リープ・クイーンの新作……! めたくそに面白い……!」
ガクッと机に突っ伏したシドもまた、実は貴族の三男坊だ。
できの良い兄が2人、できの良い姉と妹が1人ずつ。彼もまた転生チートとでもいうのか、それなりに優秀であった。チートでこの程度なら随分とささやかなものだろう。
そんなシドには夢があった。
娯楽の少ない(と信じていた)この世界で、前世のエンタメ小説を再現すればバカ売れに違いない。
これで俺も転生チートでウハウハスローライフだぜ。
「こんなん全米ナンバーワンだろ!」
「は?」
シドの魂の叫びは、アニエスの怪訝な反応でかき消された。
「くそぉ……俺より先にハリウッドデビューなんて許せねぇよ……ファンレター書かなきゃ……」
「はぁ、まぁ、手紙なら好きに書けば良いんじゃないですかね」
彼女が殊勝に相手をしているのは、彼はこうでもしない限り延々とブツクサ呟き続けるということを学習した結果であった。
シドとアニエスの他に利用者のいない図書館は、時折出る彼の発作さえなければ、彼女にとっては大変に居心地の良い場所である。
要は、部屋の掃除と一緒だ。
くそぉくそぉと嘆きながら手紙を書き始めたシドに、アニエスは一つ息をつくと自らの手元に向き直った。
◇
「シドくん、ちょっと良いですか」
「何だよ改まって珍しい……。俺は今からリープ・クイーンの新作を読むんだが?」
ある日、極めて珍しいことに、アニエスがシドに話しかけていた。
「従姉妹から頼まれごとをしたんですよ……。彼女も小説を書いてるんですが、そのプロットを見てくれと」
「ほー……。で?」
「鈍いですね。シドくんは、リープ・クイーンのファンでしょう。私が読むより、評価なり助言なりは的確じゃないかと」
「だだだ誰がファンだって!?」
「は?」
言い訳にもならないような戯言をほざくシドに、アニエスは瓶底眼鏡の底で目を細めた。
「貴方の繰り言に付き合う時間も惜しいんです。さっさと読んで、感想なりを聞かせてください」
「ぐ……しゃーねぇな、まぁ、いつも俺の愚痴に付き合ってくれてるからな……」
「意外ですね。迷惑をかけてる自覚が?」
「んなこというなら読まねえぞ、おー!?」
言いながら、シドはひったくるようにアニエスから紙束を受け取る。
不満たらたらな表情を隠そうともしないまま、それでも彼は思いのほかしっかりと内容を読み込んでいるようだった。
アニエスは小さくため息をつくと、自分の席へと戻った。
しばらく、図書館を静寂が満たす。
「ゆ、許せねぇ……!」
それは唐突に破られた。
「……何が許せないんです?」
アニエスの声には、常の棘がないようだった。
「このプロット……! めたくそに面白い……!」
「はぁ……。では、自信を持つように伝えておきますよ」
ガクッと机に突っ伏したシドの手から、アニエスは軽やかに紙束を回収する。
「なぁ、アニエス……」
「なんですか?」
突っ伏したまま彼は問う。
「その従姉妹さん、紹介してくんない?」
「は?」
彼女の声に、棘が戻った。
◇
「許せねぇ……!」
シド・ディクタスは、学園の図書室でわなわなと震えていた。
「……何が許せないんです?」
いつも通り、アニエス・ビアリータークが彼に声をかけた。
「持ち込んだ原稿がまたお祈りくらった……!」
「は?」
お祈りからお断りを連想する文化は、この世界にはない。
一瞬理解ができず、アニエスは鼻白んだ声をあげたが、すぐにいつも通り選考落ちしたのだと理解した。
以前に読ませてもらったシドの原稿は、話の大枠はともかくとして、とにかく字が汚いという難点があった。
「筆子でも雇っては?」
「ゴーストライターは主義に反する」
「は?」
彼女としては、字さえ綺麗なら良いところに行くのでは、という見立てがあるだけに、このこだわりは腹立たしかった。
そもそも、口述筆記はゴーストライターでも何でもないのだが……。
「まぁ……好きにすればいいですけど。そうそう、またプロットの査読依頼が来てますよ」
心底呆れたようにため息をつきながら、アニエスは紙束を取り出した。
過日以来、時々こうしたやり取りが起こるようになっていた。
もちろん、出てくるプロット全てに彼が突っ伏すわけでもないのだが、彼女はそれでもどこか満足げだった。
「なぁ……そろそろ、その従姉妹さん、紹介してくれない?」
ぺらぺらとプロットに目を通しながら、シドは何度目かの要求を口にする。
「は?」
「……すいません」
決まって棘の鋭さを増すアニエスに、彼は小声で謝るしかなかった。
◇
「……んー?」
シド・ディクタスは、学園の図書室で首を傾げていた。
その手にあるのは、新進気鋭の作家「リープ・クイーン」の最新作だ。
「何ですか、妙な声を出して」
いつもと違う様子に、アニエス・ビアリータークが彼に声をかけた。
「うーん……気のせい、じゃないよなぁ……?」
「は?」
要領を得ない返事に、彼女も首を傾げる。
「いやな、前に読ませてもらった従姉妹さんのプロットとさぁ……この最新作、すげー似てんだよね」
「ああ」
そこで、アニエスは合点がいったとばかりに頷いた。
「妙なことではありませんよ」
「何でだよ」
「本人ですから」
ガタン、とシドが椅子から転げ落ちた。
現実でこういう反応をする人がいるのか、とアニエスは興味深そうにそれを眺めている。
「な……!? おま……なに……え? ……え? ギャグ?」
ぱくぱくと口を動かすシドに、アニエスはもう一度繰り返した。
「あのプロットは、リープ・クイーン本人の作です」
「……おまえおまえおまえー!?」
男子生徒が女子生徒に叫びながら詰め寄る。
この図だけを見れば、生活指導の教官からの呼び出しは待ったなしだっただろう。
だが、当のアニエスは涼しい顔だ。
なぜなら、シドはしっかりと詰め寄り切る直前で止まっていたからだ。
「怒っても一線は超えない。評価高いですよ」
「なら従姉妹さん紹介してくれよぉ……」
「意味がありません」
「何でだよ!?」
◇
「許された……!」
ある日、シド・ディクタスはガッツポーズして天を仰いでいた。
机には開封された出版社からの返書。
文面は、最終選考の結果、入賞とあった。
長期休暇が明けたらあの眼鏡に自慢してやろう、とほくそ笑む。
「いや、その前に入賞式典か! しかもリープ・クイーンのいる出版社だぜ……! これはワンチャン会えるか!?」
シドは愉快な一人笑いをした。
◇
「許せねぇ……!」
シド・ディクタスは、学園の図書室でわなわなと震えていた。
長期休暇中の、自身の作品の入選、式典への参加という一大イベント。
それ自体は良かったが、肝心の式典で画竜点睛を欠いた、というのが彼の言い分だった。
「はぁ……」
休暇明け初日に、いつも通り愚痴を聞かされたアニエスは呆れたように頬杖をついている。
「俺というスーパールーキーが、新進気鋭のクイーンと話そうとするんだから、そこはもう周りが気を使うところだろぉ!?」
「大賞でも佳作でもない癖に言いますね」
「ロジハラはやめろ」
「は?」
相変わらず良くわからない言葉を使うシドに、彼女はため息をついた。
「でも、お目当てのリープ・クイーンには近づけたんでしょう?」
「まぁなぁ……」
「実物を見た感想は? 巷ではたいそう美人、と言われてますが」
「あー、まぁ、美人なんじゃねえの」
気のなさそうな返事に、アニエスは瓶底眼鏡の底で目を細めた。
年頃の男子が斜に構えている、とは違った声音だった。
「つーか、俺はあの人の作品が好きなんであって、別に外見はどうでもいいし……」
「は? 作品が好き? 外見はどうでもいい? 何を気取ってんです?」
「ちょっと辛辣すぎねぇ!?」
早口のアニエスの頬が赤くなっていることに、シドは気づいていないようだった。
それでも、気を取り直したように彼は咳払いをして、続ける。
「まぁ、外見はともかくだな。何とかファンレターだけ直接渡したよ」
「ふーん」
うんうん、とシドが目を閉じて頷いている間に、アニエスがひっつめた髪を解き、眼鏡を外している。
「シドくん」
「何だよ」
「こっち向け」
「はい」
言われるがまま振り向いたシドは、見事に固まった。
「どうでもいいという顔はこんな顔でしたか?」
「……じ、自分で自分のこと、『たいそう美人』とか言ったの?」
「は?」




