とある留学生の手紙
とある留学生の話と同じ話。
報連相は大事。
拝啓
お祖父様、父上
うちの国では薄紅色の花が咲き誇り、お祖父様は季節関係ありませんが腰痛、父上は季節柄くしゃみが止まらない頃と存じます。
またやってしまいました。
留学先で友人が婚約破棄されたため、第三馬鹿王女に言い返してしまいました。
反省も後悔もしておりません。
可愛げのない孫、息子で申し訳ありません。
今日は友人の屋敷でケーキを食べています。くるみのケーキです。友人はお菓子作りの天才だと思います。
もし彼が廃嫡とか勘当されたら専属パティシエとしてうちの国に持ち帰るつもりでしたが、駄目でした。
わかっていました。彼の家は大変まともです。馬鹿だったら持ち帰れたのに。彼の可愛い妹と猫の存在も大きな障害となりました。
真実の友情は真実の家族愛に負けました。
それが大変に、大変に悔やまれます。
さて、思えばこの留学のきっかけも姉上への婚約破棄からでしたね。
馬鹿王子、否、馬鹿元王子(以降あれとします)が姉上との婚約を堂々と人前で破棄したのを覚えていますか。
あれはまず我々の曾祖母が隣国の出身だからお前は純粋な王国人ではない!騙された!と言っていましたね。
別にうちの国は宙に浮いている孤島とかじゃなくて、大陸にあって、計三ヶ国と国境を接しています。曾祖父曾祖母の代まで遡れば王国人じゃない血を引く貴族は結構いるというのに。あれはうちの国から貴族を消したかったんでしょうか。
何ならあれの曾祖母は隣国の姫君。それを言ったら焦ってしまいました。知らなかったのでしょうか。今でも信じられません。
次に言い出したのは男を立てないでした。
あれのどこに立てる要素があるのでしょう。学業不振、運動神経ゼロ、性格は最低。そう言ったら泣き顔になってしまいました。
あれの立てられる場所はどこなのか?
今も気になって授業中と夜しかぐっすり眠れません。
ちなみに私の友人は、お菓子作り以外にも立てる要素はたくさんあります。あれや私と同じ男とは思えません。生物学的に何か違うのではないかと訝しむほどです。
それにしてもあんな頭でよく男を立てるなんて古めかしく小難しい言葉を知っていたものです。絶対にあれの浮気相手の入れ知恵です。
さらに言い出したのは真実の愛。
昨日は驚きました。第三馬鹿王女も一言一句同じ言葉を言い出しました。馬鹿が浮気を美化するのは残念ながら万国共通のようです。どういう脳みその構造なのでしょうか。知りたくもありません。
うちの国がまだマシだったのはその言葉に少なくとも半数の貴族はひいていた事です。
残念ながらこの国は真実の愛という言葉に弱いらしく、ぱちぱちきゃっきゃわーわーしていました。文字通りです。私でさえ目や耳がおかしくなったかと思いました。
さらに驚いたのは婚約者に冤罪をふっかけた点、これもあれと同じです。
うちの国と違うのはあっさり信じ、よって集って婚約者を叩いた事。
この時点で私は決めました。
友人のためではありません。
姉上の時と同じです。
ただむかついたからやり返しました。
まだ一日しか経っていませんが、王家からお咎めというか、反応らしき反応はありません。
この国の王家はどうやら第三馬鹿王女を切り捨てたかったようで、放ったらかしにしたらいずれやらかすと思っていた節があります。
図らずも手助けをしてしまいましたが、私や私の友人を生贄にしたみたいで気に入りません。
あの後唯一王太子からは友人に対し直接謝罪がありましたが、私は許していません。馬鹿を放置された結果迷惑をかけられたのはこっちです。他人に任せるのは無責任です。
生涯この事は忘れませんと王太子には言っておきました。
この手紙にきゃっきゃしなかった貴族のリストも付け加えて送ります。王太子と彼らがいればまぁ、この国はまだ大丈夫でしょう。
馬鹿でも王族を怒らせ廃嫡させたため、ほとぼりが冷めるまでの留学だったというのに、またもややってしまい申し訳ありません。
廃嫡も勘当も覚悟の上です。
逃げも隠れもしません。
しかし本来ならすぐに帰国し、姉上と義兄上の間に産まれた可愛い甥に会いたい気持ちは山々なのですが、色々とお祖父様も父上もやる事が増えたと思います。
ですので邪魔をしないように数日は帰りません。別に怒られるのが怖いとか、もうちょっと友人と遊びたいからとか、くるみのケーキが恋しいからとかでは、断じて、断じてありません。私ももう十八歳ですから。
その間に後始末と、ご自身の孫、息子へのお怒りを鎮められるよう切にお願いいたします。
敬具
あなたたちの可愛げのない孫であり息子
ボールドウィン
ボールドウィン式相手を怒らせる謝罪法。




