4.違和感
いつも通りの道だった。
同じ舗道、同じ信号、同じ時間。
変わったところなんて、何もない。
それなのに、その日は足が止まった。
座り込んで動かない人。
顔を伏せて泣いている人。
建物の隅で、ただそこにいる人。
突然現れたわけじゃない。
私が、見てこなかっただけだ。
通り過ぎるのに都合のいい距離で、
視線を外しやすい位置に、
最初から配置していただけ。
それが、正義の側の目線だった。
困っている人を探すためじゃない。
関わらずに済む場所を選ぶための視線。
私はずっと、それを使って歩いてきた。
だから今さら、見えなかったとは言えない。
見てこなかっただけだ。
私は、歩き出した。
足を止めたままではいられなかった。
それでも、さっきまでと同じ速度では歩けなかった。
信号が変わるのを待つ間、
視界の端に入るものが、前より多い。
ベンチに横になっている人。
駅の入口で、行き先を失ったまま立っている人。
目が合いそうになると、先に視線を落とす人。
誰も、私に何かを求めてはいない。
声もかけてこない。
説明も、要求も、ない。
それでも、いなかったことにはできなかった。
私は、少しだけ立ち止まった。
建物の影に座っている人の近くで、
足が止まっただけだった。
声はかけなかった。
顔も見なかった。
代わりに、バッグの中から
水のボトルを一本取り出した。
キャップは、開けないまま。
相手の手に触れない距離で、
足元に置く。
それだけのことなのに、
心臓の音がやけに大きかった。
何も言わず、
相手がそれを見るかどうかも確かめずに、
私は立ち去った。
正義を呼ぶ道具は、使っていない。
助けたとも、言えない。
それでも。
それは優しさでも、正義でもなかった。
ただ、見過ごすだけの自分では、もういられなかった。




