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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
終章 観測終点の連鎖

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91話 『父として』

ドォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!



朝の光の中、無数の刃が帝王シンの強固な鎧を粉砕し、激しい土煙が舞い上がる。

俺は右手をかざし、空中に散らばった無数のヴァルセリアの破片を手元へと呼び寄せた。黒と黄金の光が手のひらで収束し、再び漆黒の魔剣を一つの『個』へと戻す。



「......やったか?」



だが、土煙を切り裂くように、紅蓮の炎を纏った大剣ボルケイムが俺の首めがけて横薙ぎに一閃された。



「......ッ!」



間一髪でヴァルセリアを盾にして防ぐ。

そこには、英雄の鎧を完全に失い、全身傷だらけになりながらも、決して膝を折らない帝王シン=エルザナの姿があった。



「まだだ......。私は、王だ。あの子らが命を賭して繋いだこの命、こんなところで終わらせるわけにはいかない......ッ!」



シンが血を吐きながら咆哮し、捨て身の猛攻を仕掛けてくる。

防御を捨てた、純粋な殺意と意地の連撃。先ほどの洗練されたハイセンスな剣技ではない。なりふり構わず、ただ眼前の敵を打ち砕くためだけに大剣を振り回している。



ガァンッ! ギギギギギッ......!!



「くそッ......どんだけ重いんだよ......!」



王としての執念が乗った一撃は、鎧がないにも関わらず凄まじい威力を誇っていた。

だが、焦りが見えるその剣筋は、極限まで研ぎ澄まされた俺の目には確実に『隙』として映っていた。



大振りの袈裟斬りをステップで躱し、俺はシンの懐へと深く潜り込む。

ガラ空きの胸元。黄金の光を帯びたヴァルセリアが、シンの心臓を捉えた。



「これで......終わりだァァァッ!!」



俺がトドメの一撃を突き立てようとした、その瞬間だった。



──────パチンッ。



シンの内側で、何かが弾けるような音がした。

直後、突き出したはずの俺の魔剣が、まるで見えない分厚い壁に阻まれたかのように、シンの胸の数センチ手前でピタリと停止したのだ。



「......なッ!?」



「......ありがとう。我が子たちよ。その力、ここで使わせてもらおう」



シンが慈愛に満ちた声で虚空に囁くと、彼を囲むように四つの不気味な魔法陣が同時展開された。

そして、帝王の口から、かつてこの地で俺たちが死闘を繰り広げた『円卓』の能力名が次々と紡がれていく。



「いつも、速さに囚われ、世界で一番速い人になることを目指していたな、ルター」

──────『ターボ・アフトキニト』


「投剣の英雄に憧れ、その力を手に入れるための努力をしながら、よく変わり者の兄妹達を見ていたな、シプロ」

──────『インフィニット・マヘリ』


「皆が傷つくを是とせず、自らが傷つくこと選んだ、その心意気、正直父としては複雑だった。しかし、その信念は立派だったぞ、クオカミ」

──────『バーサク・アンドレイア』


「兄として、自らを律し続けさせてしまって、すまなかったな、ガルファ」

──────『マニフェスト・ディスティニー』



「......嘘だろ」



俺の戦士としての直感が、即座にその異常事態を理解し、けたたましい警鐘を鳴らす。その四つの能力は、俺や仲間たちが命懸けで打ち倒してきた円卓の幹部たちの力を、シンがそのまま自らの身に宿したものだ。



シンのオーラが、一人だけの物ではなくなる。背後に、子供達の遺志を背負った、父としての威厳が、周囲を威嚇している。



視界から消えるほどの『超高速移動』。


空を埋め尽くし、死角から襲い来る『無数のナイフ』。


傷口から流れる血を自在に操る『血の操作』。


そして、結果を強制的に捻じ曲げる極めて理不尽な『運命の操作』。



オリジナルの幹部たちが使っていたものと比べれば、出力や精度はいくらか劣っているようにも見える。

しかし、その凶悪な力は間違いなく『本物』だった。



それが、基本スペックが神の領域にある帝王シンの手によって、四つ同時に、最適解のコンビネーションで襲いかかってくるのだ。



「......さあ、第二ラウンドだ......ッ」



絶望的な四つの魔法陣を背負った帝王が、再び静かに俺を見下ろした。



ユキの力と同調し、極限まで強化されたハズの俺が、ひどく小さく見える。

それほどの怒涛の攻撃が、俺を襲う。



「遅いぞ、英雄」



視界からシンの姿が完全に消失した。

円卓第四席が使っていた超高速移動『ターボ・アフトキニト』。だが、帝王の基礎スペックで放たれるそれは、音置き去りにするどころの次元ではない。



俺は戦士としての直感だけで背後にヴァルセリアを生成し、振り下ろされた大剣ボルケイムの剛撃を間一髪で防いだ。



ガァァァァンッ!!!



「......甘い」



防いだと思ったその瞬間、シンの全身の傷口から噴き出していた鮮血が蠢き、硬質化して鋭い棘の鞭へと変貌した。



円卓第十席の血の操作『バーサク・アンドレイア』。

変幻自在の血の鞭が、ヴァルセリアの防御をすり抜け、俺の脇腹と太ももを深く抉り取る。



「ガァッ......!?」



痛みに顔を歪めた俺の頭上に、追い討ちをかけるように巨大な影が落ちた。

見上げれば、朝の空を埋め尽くすほどの無数の凶刃。円卓第五席の『インフィニット・マヘリ』が、一切の死角を潰して雨のように降り注いでくる。



「舐めるなァァァッ!!」



俺はヴァルセリアの生成と消去を限界の速度で繰り返し、襲い来るナイフの豪雨を弾き、砕き、ステップで躱す。右の頬が裂け、左肩にナイフが突き刺さる。それでも足を止めず、血の鞭を掻い潜り、シンの懐へと強引に踏み込んだ。



......いけるッ! このタイミングなら!



ナイフと血の防御網の、ほんのコンマ一秒の綻び。

俺は残る全精力を注ぎ込み、シンの首筋めがけて完璧なカウンターの斬撃を放った。当たれば、確実に首を刎ね飛ばせる軌道。



だが。



「無駄だ。結果は既に......『書き換わっている』」



俺の剣がシンの皮膚に触れる直前。空間の因果が、グニャリと不自然に歪んだ。

円卓第一席の理不尽な運命操作『マニフェスト・ディスティニー』。



完璧だったはずの俺の斬撃は、何もない虚空をすり抜け......逆に、シンの放った強烈な蹴りが、不可避の軌道で俺の鳩尾に深々と突き刺さった。



「カハッ......ァ......!」



内臓を破壊されるような衝撃。

俺は呼吸すら忘れ、荒野の土の上をボロ雑巾のように何度も転がって吹き飛ばされた。



「......どうした。もう終わりか?」



砂煙の向こうから、四つの能力を常時展開させたままの帝王が、ゆっくりと歩み寄ってくる。速さ、手数、変幻自在の攻撃、そして絶対的な運命の操作。

全てが完璧に噛み合った、一切の突破口が見えない死のコンビネーション。



「......ハァ、ハァ......」



全身から血を流し、肺が焼け焦げるように痛む。

それでも。俺は震える足に力を込め、ヴァルセリアを杖代わりにして、ゆっくりと立ち上がった。



ここで俺が倒れれば、世界が終わる。

皆の想いを、ユキから託されたこの光を、こんな理不尽な力に屈して消えさせるわけにはいかないんだ......!



運命すら操作し、絶対的な防壁を誇る帝王シン。小手先の剣技や戦術が通じない相手ならば、どうするか。



答えは一つ。運命の天秤が機能する前に、その天秤ごと圧倒的な力で消し飛ばす。



俺はヴァルセリアを両手で構え直し、体内で脈打つ魔力の源泉である器官『フェルファクナ』へと深く意識を沈めた。そして、そこにユキから託された『日のエクタ』と、俺自身の『月のエクタ』を、一切の制限を解除して同時に叩き込む。



「......ガ、ァァァァァァァッ!!」



俺の肉体の中で、フェルファクナが悲痛な悲鳴を上げた。

本来交わることのない二つの神の領域の力を直接流し込まれ、限界容量をとうに超えている。魔力回路が内側から焼き切れ、ボロボロになり、自らの制御ができないほどに異常な膨張を始めているのが分かった。



「......自壊する気か、英雄。無駄だと言っているッ!」



シンが俺の異常な魔力膨張に気づき、四つの能力を全開にして襲いかかってくる。



視界を埋め尽くす無数のナイフ、急所を狙う血の鞭、そして超高速の踏み込みから放たれる大剣の剛撃。



だが、そんなの関係ない。

フェルファクナが破裂しようが、この身体が二度と魔法を使えなくなろうが、今この瞬間、この一撃に全てを乗せられればそれでいい!!



「はあああぁぁぁあああッッッッ!!!」



俺は血を吐きながら、さらに限界を超えてエクタを流し込み続ける。

黄金と漆黒の光が俺の全身から火柱のように噴き出し、荒野の空気をプラズマのように焦がしていく。俺に触れようとしたナイフも血の鞭も、その圧倒的な熱量と光の壁の前に、触れる端から蒸発し、消滅していった。



俺は、限界まで膨張しきったフェルファクナの全エネルギーを、高く振り上げた魔剣ヴァルセリアの刀身へと一極集中させた。



「これでも......ッ、受けきれるか......ッ!!!!」



俺はシンの絶対防壁ごと世界を貫く勢いで、フェルファクナをシンの胴体へと向ける。



完全(フル)開放(バースト)ッッッッ!!!!!!!!!!』



パリィン......。



右腕を制御し、酷使され続けたフェルファクナが、ついに限界を迎えて砕け散る音が響いた。その代償として魔剣から解き放たれたのは、星の瞬きすらも喰い殺すような、純粋で破壊的な光の奔流。



「......ば、か、なッ......運命が、書き換わらな......ッ!!」



帝王シンの驚愕の声すらも、光の暴風がかき消していく。



理不尽な運命の操作も、超高速の回避も、全てがこの絶対的な力の濁流の前では無意味だった。

シンの展開していた四つの強大な能力を根こそぎ焼き切り、飲み込みながら、俺の命を懸けた最後の一撃が、ロンベルの荒野を真っ白に染め上げて轟いた。

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