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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
4章 可逆不能のノーステップバック 下

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84話 レッツショウタイムザルーレット

オレ、スミスとカシムのおっさんは、怒号と悲鳴が入り乱れる左翼戦線へと全力で駆けていた。



「オラァッ! そこをどきやがれ雑兵ども!!」



最新作の剣で円卓の兵士たちを吹き飛ばしながら進むと、その先に、明らかに周囲の殺伐とした空気から完全に浮いている、様子の違う女がいた。



崩れた瓦礫の上にだらしなく腰掛け、自分の爪を眺めている。



凄惨な戦場にあって、戦いなんてどうでもよいといった、ひどく弛んだ雰囲気を醸しだしていた。



──────アイツだな。円卓の幹部は!!!!!!



オレとカシムのおっさんが足を止め、武器を構えると、女はようやくこちらに視線を向けた。



「あら? 貴方たち、アタシと戦うの?」



まるで、散歩中に野良犬にでも吠えられたかのような、心底どうでもよさそうな声。



「そう言うテメェは、戦う気あんのかよ」



オレが切っ先を突きつけて凄むと、女はけだるげにため息をついて立ち上がった。



「まあ、兄さんの頼みだしね〜。アタシにとっては、面倒な殺し合いより、楽しい方がいいんだけど」



パチンッ。

女が指を鳴らした瞬間、オレたちの足元の地面が眩い光を放ち、巨大な『ルーレット盤』のような極彩色の模様へと変貌した。



「な、なんだこりゃあ...!?」



「スミス、妙な術式だ。警戒しろ......!」



カシムのおっさんが鋭く声を上げる中、女は妖艶に微笑み、その両手を広げた。



「円卓第七席、イグマ=シター。さあ、命と能力を賭けて...楽しいゲームを始めましょうか」



女の背後に、巨大なルーレットの幻影が浮かび上がる。



「クイーン・ギャンビット」



女の背後で、極彩色のルーレットがけたたましい音を立てて回りだす。



その回転の渦を見つめている途中、オレたちは”戦う”という行為そのものを空間から禁じられるような、奇妙で抗いがたい重圧を感じた。武器を振るうことも、魔法を放つこともできない。ただ、結果が出るのを待つしかない強制ゲーム。



やがて、針がピタリと止まった。



その結果は......シターとか名乗る女の完全な勝ちだった。



「じゃあ、貴方たちの力。もらうね」



シターが妖艶に微笑んだ瞬間、オレの全身からふっと力が抜ける感覚に襲われた。



オレが一番誇りに思っていた才能。それが、すっと身体から抜き取られ、目に見えない糸のように女の方へと吸い込まれていく。



「おっさん、大丈夫か!?」



「......問題ねえ」



隣に立つカシムのおっさんも、どうやら何かを奪われたらしい。



だが、その表情に焦りは一切なかった。おっさんは静かに構えを変え、鏡映流の真骨頂である「受け」や「カウンター」の型を完全に捨て去ったのだ。

カウンターの勘や技術を奪われたのかは分からない。だが、おっさんは防御を捨てた超攻撃特化の剣術へと瞬時に切り替え、シターが放つ目くらましの魔力弾を、難なく力押しで叩き斬って対応している。



さすがは流派の開祖の末裔、底が知れねえ。



ならば、オレも出し惜しみはなしだ!



「行くぜ! オレの新作、”ピースメーカー”ッ!!!!!」



オレは背中に背負っていた無骨な大剣を抜き放つ。ロータシーの持っていた銃剣ゲヴェニアを解析した副産物で作った、オレの最高傑作。



この剣の特徴は、いわば所有者の認証なしで誰でも使えるゲヴェニア!



...またの名を、劣化版ゲヴェニアとも言うがな。



ガシャコンッ!



オレは中折れ式の剣身をガバっと開き、そこに1カートの魔力が満たされた特製マガジンを乱暴に叩き込む。カチリと機構が噛み合う音が響き、マガジンを動力にして剣身が赤熱。短い間だが、斬る力が爆発的に強化されるッ!



「あら、野蛮なオモチャね。でも、一番の才能を奪われたのに、まだ戦えるの?」



シターが余裕の笑みを浮かべて挑発してくるが、オレは赤く輝くピースメーカーを肩に担ぎ、ニヤリと笑い返してやった。



「バーカ。どうせ、テメェがオレから奪ったのは『武器や防具を鍛える力』だ! この戦闘なんぞ、何の影響もないぜ!!!!!!!」



オレは強化されたピースメーカーを構え、カシムのおっさんと共に、驚きに目を丸くする女の懐へと力強く踏み込んだ。



赤熱するピースメーカーと、研ぎ澄まされたカシムのおっさんの剣。



オレたち二人同時の猛撃が、シターへと迫る。



それに対して、イグマ=シターは余裕の笑みを浮かべたまま、すっと『受け』の体勢を取った。



「きょうえいりゅー。カウンター、だっけ?」



女がふざけた調子で唱えながら指を鳴らすと、足元の地面からボコッと岩の破片が隆起した。



魔力を土のマナと結びつけただけの、剣の形すらしていないただの脆い岩塊。



だが。



ガァァァァンッ!!!!!



「なっ......!?」



「......ッ!」



ありえない。



その適当な岩の破片は、オレとカシムのおっさんの死角と力のベクトルを完璧に読み切り、最小限の動きで二人の渾身の一撃をいとも容易く弾き返しやがったのだ。強烈な反発力に、オレたちは大きく後ろへと弾き飛ばされる。



「おい! おっさん。アンタどんだけ理不尽なカウンターの技術もってんだよ! 適当な岩っころで防がれたぞ!」



オレが体勢を立て直しながら怒鳴りつけると、カシムのおっさんは自分の奪われた技術の厄介さを目の当たりにしているにも関わらず、どこか鼻高々な顔をしていた。



「うるさいなぁ。これでも、今の剣士の中じゃオレはかなり上澄みなんでな」



何故か分からんが、この死地に及んでおっさんは自分の技術の完成度に誇らしげにしている。



「チッ...自慢は後だ。で、どうしたらいい?」



オレが舌打ちしながら問うと、カシムのおっさんは鋭い目でシターの構えを一瞬観察し、短くこう告げた。



「オレに任せろ。スミス。お前はオレに合わせろ」



──────無茶言うぜまったく!!!



言うが早いか、おっさんは再び地を蹴った。先ほどまでとは違う。防御を捨てた超攻撃特化とも違う。それは、一切の無駄を削ぎ落とした、殺意すら感じさせない極限の踏み込み。



「えー、まだやるの? じゃあ、もう一回カウンター──」



シターが再び岩の破片を動かそうとする。



だが、遅い。



シュアァァァッ!!



おっさんは目にもとまらぬ早業で、カウンターの軌道すら置き去りにする神速の踏み込みを見せた。シターの表情から、初めて余裕が消し飛ぶ。



「...あのルーレットで、『これ』まで取られていたら、オレたちも終わりだったかもな」



すれ違いざま、おっさんが低く呟く。



「鏡映流、秘奥。......ハヤブサ」



ザシュゥゥゥゥンッ!!!!



セイラムの家に代々伝わっている相伝の攻撃技。その不可視の一閃が、シターの防御ごと、彼女の右腕を根元から綺麗に吹き飛ばした。



「いッ......!? 痛ぁぁぁぁぁぁいッ!!!!」



鮮血が舞う中、シターは吹き飛んだ右腕の断面を押さえ、その場にへたり込んで大声で泣き叫び始めた。

怒りや憎悪ではない。ただ純粋に、痛みに耐えられない子供のような泣き声だ。



「もう痛いのはイヤ! 痛い痛い痛いッ!! もうアタシの負け!!」



彼女は戦う意思を完全に放棄し、涙目になりながらすんなりと降参しやがった。

円卓の幹部とは思えないそのあっけなさに、オレとおっさんは拍子抜けしたように顔を見合わせるしかなかった。

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