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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
4章 可逆不能のノーステップバック 下

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80話 However

激戦を乗り越え、俺たちはロンベルへと帰還した。



円卓第一席、ガルファ=メオアの撃破。



その事実は瞬く間に広がり、ロンベルは街をあげての盛大なお祭り騒ぎとなった。

絶対的な支配者に対する、明確な「反抗の兆し」。人々はこれまで抑圧されていた分、祝杯を挙げ、それぞれが自由で明るい未来を思い描いて歓喜に沸いている。



だが、当の俺たちはというと、そんな狂騒から一歩引き、エデニアム本部の静かな一室でゆっくりと羽根を伸ばしていた。



「それにしても、雰囲気変わったね。レイ」



窓の外から微かに聞こえる喧騒を背に、向かいのソファでくつろいでいたユキが、ふとそんなことを口にした。



「そうか?」



「うん。なんていうか……前よりも、ずっと『ここ』にいるって感じがする。地に足がついているっていうか」



ユキの直感は鋭い。

それには明確な理由がある。俺が『タイムシフト』を手放し、この世界に定着したことにより、観測者としての浮遊感が消え、存在が完全に固定されたからだ。



「まあな」



俺は短く返し、手元のティーカップを見つめる。



タイムシフト──『死に戻り』という究極の安全装置を失う決断は、決して軽いものではなかった。

次、致命傷を負えば俺は死ぬ。やり直しはきかない。



しかし、その分だけ手にしたものは計り知れないほど大きいことも、また事実だ。いつ消えるか分からない幻のような世界ではなく、痛みも喜びも全てが刻まれていく、確かな現実。



俺は、この一方通行の世界を、着実に、一歩一歩進まなければな。



窓から差し込む陽光と、隣で穏やかに微笑むユキを見ながら、俺は静かに決意を新たにした。



その後、ロンベルの勝利を祝う祭りは、三日三晩にわたって絶えることなく続いた。



◇◇◇◇◇



三日三晩続いた祝祭の熱もようやく落ち着き、ロンベルの街が日常の平和を享受し始めていた、とある日のこと。



俺とユキ、そしてソフィアたちエデニアムの幹部が本部の会議室で今後の復興方針について話し合っていた時だった。



「──ッ! レイ、そこ!!」



ユキが鋭く声を上げ、同時にソフィアが腰の剣に手をかける。俺も即座に反応し、魔剣を生成して臨戦態勢を取った。



会議室の何もない空間が、突如として歪んだのだ。

空間の裂け目から現れたのは、見覚えのある意匠──『円卓』のローブを深く被った、一人の雑兵だった。



「貴様、どこから侵入した!」



イーシアが鋭く問い詰めるが、俺はすぐに違和感に気がついた。



「待て、イーシア。そいつ、恐らく実体が無い」



俺は彼女を制止する。



目の前の兵士には、生命の拍動も、呼吸の気配もない。

よく見れば、その身体の輪郭はノイズのようにブレている。あれは実体ではない。高度な術式によって遠隔から投影された『魔力の塊』──残像とも呼べる立体映像だ。



残像の兵士は、俺たちの警戒など意に介さず、ただ機械的な動作で一歩前へ出ると、部屋全体に響き渡る声で厳かに口を開いた。



『──────来たる、次の紅き月』



その声には感情がなく、ただ決定事項を伝えるだけの冷徹な響きがあった。



『我ら円卓は、全軍をもって、このロンベルの地へ侵攻する』



「全軍だと......?」



俺は思わず眉をひそめた。



第一席であるガルファを失い、組織としては致命的な打撃を受けたはず。それにも関わらず、総力戦を仕掛けてくるというのか。

ガルファが死の間際に遺した、「我らの悲願は、個の死では止まらない」という言葉が、重い現実となって突き刺さる。



兵士の幻影は、俺とユキを真っ直ぐに見据えるように顔を上げ、最後の言葉を紡いだ。



『この宣言をもって、我ら円卓は、エデニアム及び勇者へ──全面的な宣戦布告とする』



言い終わると同時に、魔力の塊はパツンと弾け、霧散して消え去った。後に残されたのは、会議室を包み込む重苦しい沈黙だけ。



どうやら、円卓のやつらも、もうこれ以上なりふり構っていられないんだろう。



それなら、俺たちだって迎え撃つのみだ。



「紅き月。後、半月ほどでしょうか」



ソフィアが、冷静に分析しながらその決戦の期限を口に出す。



俺は拳を強く握りしめる。



一方通行の世界。やり直しのきかない、たった一度の命。

その絶対的な条件の中で、俺たちは俺たちの旅の最終盤──世界を二分する最大の総力戦の舞台へと引きずり出されたのだ。

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