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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
4章 可逆不能のノーステップバック 上

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79話 不可逆の世界

俺のここまでの軌跡──過去、現在、未来、その全てを乗せた究極の一太刀。

時空すらも断つその刃は、円卓第一席ガルファ=メオアの肉体を、その誇り高い魂ごと両断した。



ドサッ......。



上半身と下半身が別々に崩れ落ちる。

勝負は決した。



「......ぁ......あっぱれ......だ」



ガルファは口から血を溢れさせながら、それでも最期まで俺を見据えていた。

その瞳に、憎しみはない。あるのは、純粋な称賛と、そして──。



「しかし、私たちはまだ......負けていない」



消えゆく命の灯火を燃やし、彼は最期の予言を遺す。



「我らの悲願は、個の死では止まらない......。必ずや、貴様らの正義を、超えてみせよう」



「......ああ」



「フッ......弟たちを、頼む......」



ガルファはそう言い残し、静かに息を引き取った。

その表情は、どこか安らかで、重責から解き放たれたようにも見えた。



ルター、そしてガルファ。

その二人がしてきたことは、決して許されることじゃない。多くの血が流れ、多くの悲劇を生んだ。

しかし、その後ろに宿る『正義』──彼らが円卓として掲げた理想と覚悟は、確かに本物だった。



......重いな、あんたたちの想いは



俺は魔剣ヴァルセリアを納め、大きく息を吐き出す。



緊張の糸が切れた瞬間、全身を鉛のような倦怠感が襲った。



「レイぃッ!!!!」



背後から、悲鳴のような声が聞こえた。

激戦の間、ずっと俺の背中を支え続けてくれたユキだ。彼が駆け寄ってくる足音が聞こえる。



......悪い、ユキ。心配かけて



どうやら、俺の名前を呼んで心配してくれているようだが、それを聞き取るだけの聴力も、答えるだけの気力も残っていない。

視界が急速に狭まっていく。



地面が近づいてくる。



ガシッ。



倒れ込む俺の身体を、ユキが小さな体で必死に支えてくれた。



「レイ! レイ!?」



泣きそうな顔で俺を覗き込むユキ。

俺は最後に、震える手を持ち上げ、その黒色の髪を優しく撫でた。



......よく、頑張ったな



言葉にはならなかった。

だが、その感触だけで十分だ。



俺はユキの体温を感じながら、意識を完全に手放した。



◇◇◇◇◇



「ん....んん???」



意識が浮上すると同時に、後頭部に伝わる柔らかく、温かい感触。 まぶたを開けると、木漏れ日の逆光の中に、心配そうに覗き込むユキの顔があった。



「あ!起きたんだね。おはよう、レイ」



鈴のような声。土と草の匂いではなく、ユキの優しい匂いが鼻をくすぐる。 俺は何をしてたんだっけか。 ──ああ、そうだ。ガルファとの死闘を、乗り越えたんだった。



「ん、ああ。おはよう」



少しかすれた声で応える。 起き上がろうとすると、ユキの服に少しシワが寄っているのが見えた。 もしかして、俺が起きるまでずっと、この体勢でいてくれたのか?



ん? このくだり、なんだか前にもどこかでやった気がする........



そんな既視感は一旦隅に置いておき、俺はゆっくりと上体を起こした。そして、隣に座るユキに、俺が見てきた「未来」と、今の自分の現状を話し始めた。



ガルファの凶刃に倒れ、十年後の絶望的な未来へ飛ばされたこと。



そこで、ユキの魂の一部である聖剣と再び会ったこと。



この世界に当事者として定着することを選び、最大の切り札だった『タイムシフト』を手放したこと。



そして──魔剣『ヴァルセリア』の真名を開放し、本当の意味でこの世界に転移してきたこと。



ぽつりぽつりと、全てを語る。それを話し終わると、自分の中でずっと張り詰めていた緊張と疲労が、どっと外へ出ていく感覚がした。

もう、一人で時間を巻き戻して苦しむ必要はないのだと、心が理解したからかもしれない。



ユキは口を挟まず、静かに俺の話を聞き終わったあと、ふわりと、太陽のような笑顔を見せた。



「お疲れさま、レイ。.......やっぱり、僕の英雄は凄いや」



その労いの言葉一つで、俺の報われなかった無数の時間が、全て救われた気がした。



「さあ、帰ろうか。ユキ」



「うん!」



俺たちは立ち上がり、始まりの森を抜けて、王都ロンベルへの帰路についた。



◇◇◇◇◇



数日後。

俺とユキがロンベルの巨大な城門をくぐり抜けると、そこには信じられない光景が広がっていた。



「お待ちしておりました!! レイ様、ユキ様!!」



「うおおおおおッ!! 勇者様バンザイ!! 剣聖様バンザイ!!!」



鼓膜を揺らすような、割れんばかりの大歓声。

大通りの両脇には、溢れんばかりのロンベルの民衆たちが詰めかけ、色とりどりの花吹雪を降らせている。



どうやら、円卓の第一席と第四席を討ったことが、もうすでに伝わっていたらしい。



そして、その先頭に立っていたのは──。



「レイ様.......ッ! ご無事で、本当によかった.......!」



涙を浮かべ、胸に手を当てて深く安堵の息を吐くソフィア。

あの10年後の未来で見た、傷だらけで白髪の混じった彼女ではない。若く、美しく、希望に満ちた「今」のソフィアがそこにいた。



「へへっ、大金星じゃねえか、兄弟!」



「全く、ヒヤヒヤさせないでよね。でも.......よくやったわ」



その後ろからは、自慢げに笑うスミスと、腕を組んで照れ隠しをするイーシアの姿。



誰も欠けていない。あの絶望の未来は、俺の剣で確かに叩き斬ったのだ。



「レイ、すごいよ! みんな笑ってる!」



「ああ。.......そうだな」



隣で歓声に手を振るユキを見下ろし、俺も自然と笑みをこぼした。空はどこまでも青く、高く澄み渡っている。



俺の、二度とやり直しの効かない、たった一度きりの「人生」が、ここから始まる。

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