表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
4章 可逆不能のノーステップバック 上

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/94

78話 『ノーステップバック』

ドクン、ドクン、ドクン......。



力が、溢れて止まらない。

世界とのズレが無い状態での魔力操作は、これほどまでに甘美で、万能なのか。



俺の意思が、そのまま世界の意思になる。



もはや下地にあった黒色は隠れ、俺の纏うコート『ヒュニエスタ』は、内側から噴き出す魔力で禍々しい紅色へと変色していた。



まるで、生き血を啜った獣のように蠢いている。



ああ、これなら......何でもできる



正に、天を穿つほどの力。俺はニヤリと口角を吊り上げ、指先を振るう。



「──貫け、ヒュニエスタ」



ズオオオオッ!!!!!



魔鉱石を紡績した魔布で出来ているヒュニエスタが、俺の言葉に呼応して爆発的に膨れ上がる。



何本もの鋭利な槍となり、鞭となり、深紅の顎となってガルファへ殺到する。



「ハハッ!!! 全部避けるか!!!」



ガルファは紙一重で、その嵐のような猛攻を躱し続けている。



だが、それがどうした?



今の俺に、敗北の二文字はない。



だって、今の俺は──世界そのものだから。



『──ヴァルセリア』



脳内に響く、魔剣の声。いや、俺自身の破壊衝動か。



『殺せ、”奴”を。跡形もなく──────』



俺は笑いながら、さらに出力を上げようとする。その慢心。その一瞬の思考の空白。

それを、百戦錬磨の長男は見逃さなかった。



「......俺も、長男として、負けられないんでね」



嵐の中で、ガルファが静かに呟く。

その瞳には、恐怖も焦りもない。あるのは、背負ってきたものの重さと、弟たちの屍を超えて進む覚悟だけ。



「これが、土壇場の兄としての力だ」



その時。

ガルファの周囲の空気が、ピタリと止まった。



彼もまた、その正義を《完成》させたのだ。



──突っ込んでくるか



ガルファが一直線に俺へ向かってくる。



だが、遅い。



今の俺の知覚速度からすれば、止まって見えるほどだ。そんな一撃、当たる確率は万に一つも──。



ザシュッ!!!



「......え?」



鮮血が舞う。俺の胸に、深い斬撃が刻まれていた。



双対する正義は、確率も、速度も、理屈も超えて。

不可能を可能にする者へと変化した。



◇◇◇◇◇



「ご、ふッ......ォェッ......!」



喉の奥から、鉄の味とは違う、もっと粘り気のある禍々しいものがせり上がってくる。俺は膝をつき、地面にドス黒い感情と共に、大量の鮮血を吐き出した。



......危なかった



飲み込まれかけていた。

力が全能すぎて、自分が自分でなくなる感覚。

破壊衝動と殺意が脳を支配し、ただ目の前の敵を蹂躙することだけに悦びを感じていた。



これが、『悪意』だというのか。



どうやら、世界そのものである『エクタ』を過剰に使用すると、生身の肉体と精神が人間の悪意をコントロールする『ディソナンス』に蝕まれていくようだ。



その『悪意』は、思考をジャックし、俺を終わらない闘争の果てへと引きずり込もうとする。



「はぁ......はぁ......ッ」



意識が遠くなるその感覚。

死神が耳元で囁くような冷たさは、俺に「もう過去へは戻れない」という事実を、嫌というほど思い出させてくれる。



......慢心はダメだ、絶対に....!



俺は血のついた口元を乱暴に拭い、脳内で暴れる『悪意』を握りつぶす。冷静になれ。俺は神じゃない。ただの、一人の人間だ。



背後から温かい光が降り注ぐ。



傷は瞬時に『拒絶(リジェクト)』され、塞がった。しかし、回復してくれるユキの顔色は蒼白だ。彼のリソース的にも、ここから先は油断できない。無尽蔵に回復できるわけじゃないんだ。



俺は立ち上がる。



不可逆な戦場。一度きりの命。



その重圧が、俺の感覚を再び鋭く研ぎ澄ませていく。



「......悪い、待たせたな」



俺は魔剣を構え直し、静かに告げる。



「第二ラウンドと行こうか。ガルファ」



「フッ......ようやく、戦士の目に戻ったか」



相対するガルファもまた、レイピアを正眼に構える。兄としての責務、弟たちの無念、そして円卓の運命。その全てを受け入れた男の、静寂を纏った構え。



「来い、レイ。ここからは、互いの『全て』を懸けた殺し合いだ」



「シッ、ハァァァァッ!!!」



「オラァッ!!!」



ガギィッ! キィィィンッ!! ズガガガガッ!!!!!



互いの剣がぶつかり合うたび、火花が視界を埋め尽くす。



速い。重い。そして、鋭い。

さっきまでの怪物じみた「確率干渉」や「現実改変」の応酬じゃない。互いに死力を尽くし、ただひたすらに、剣の腕と読み合いだけで殺し合う。



これが、円卓第一席......!!



ガルファの剣には、迷いがない。

弟たちの無念、組織の長としての誇り、その全てが切っ先に宿り、俺の防御を抉じ開けようとしてくる。



「もらったァッ!!!」



「──ッ!?」



一瞬の呼吸のズレ。

ガルファが俺の大振りを誘い、そのカウンターとして完璧なタイミングで踏み込んできた。



ガァァァァァァンッ!!!!!



「ぐ、ぅ......ッ!!」



手首に走る激痛。

強烈な衝撃に耐えきれず、俺の手から漆黒の魔剣『ヴァルセリア』が弾き飛ばされた。



クルクルと回転し、地面に突き刺さる魔剣。

俺は丸腰。



ガルファのレイピアが、無防備な俺の喉元へと迫る。



......魔法だ!



脳裏に、甘い誘惑が過ぎる。

指を鳴らせ。世界を書き換えろ。エクタを過剰に使えば、剣がなくとも奴を消し炭にできる。あの全能感に身を委ねれば、勝てる。



────違う。



俺は奥歯を噛み砕く勢いで、その誘惑を振り払った。エクタを媒介にした魔法は、もう使ってはいけない。あれを使えば、俺は勝っても「俺」でいられなくなる。ガルファと同じ、力に溺れた化け物に成り下がる。



ならば──────。



俺は構えを取る。



剣はない。だが、俺の中にはある。あの森でルターと戦った日々。ソフィアに教わった兵法。スミスと語らった武具への信頼。

そして、何万回と繰り返した死の中で、体に染み込ませた「戦いの記憶」。



俺は、ここまで研鑽を積んだ、己の剣を信じるのみだ。



死が迫る。



ガルファの必殺の刺突が、俺の眉間へと迫るコンマ数秒の世界。



その時、脳裏に”あの声”が、静かに響いた。



『──焦るな。イメージしろ。お前の剣は、まだそこにある』



これまで何度も、窮地を脱する時に俺を導いてくれた声。エデニアムの誰かでも、ユキの声でもない。もっと硬質で、けれど誰よりも俺を知っている声。



......そうか



俺は口元を緩める。



いつも、俺の背中を叩いて『それ』を教えてくれていたのは......



ヴァルセリア。お前だったんだな



俺はガルファから視線を外さず、腰を深く落とす。



右手を、何も無い腰の横へ。



左手を、存在しない鞘へ。



「......あぁ!?」



ガルファが訝しむ。丸腰で、抜刀術の構え? 狂ったか、と。



違う。



俺は強くイメージする。俺の腰には、共に歩んできた相棒がある。その重み、その冷たさ、その長さ。全てを幻視する。



その想像した強固なイメージは、右腕の『トゥーゴ』と大気中の『エクタ』を触媒にし、時空そのものを歪ませる。



物理的な鋼ではない。



勝利を掴み取るためだけに存在する、概念の刃を生成する。



「終わりだ、レイ!!」



ガルファの刃が届く──その刹那。



俺は踏み込んだ。

もう二度と、後ろへは下がらない。過去へは戻らない。



「第四節《【後編】ノー=ステップ=バック》」



キィィィィンッ──────!!!!



神速の抜刀。

空間ごと断ち切る不可視の一閃が、戦場を横切った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ