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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
4章 可逆不能のノーステップバック 上

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77話 転移した怪物

五感が、異常なほど鋭くなる。

風の揺らぎ、マナの流れ、そして世界の鼓動。

これまでどこか一枚フィルター越しに感じていたそれらが、今は直接神経に接続されているかのように鮮明だ。



世界と、自分が繋がった感覚。

これが「定着」か。



俺は左肩に突き刺さったままのガルファのレイピアを、静かに、しかしゆっくりと引き抜く。



「......ッ」



鮮血が噴き出す。

だが、その赤い飛沫が地面に落ちるよりも早く、背後から優しい光が俺を包み込んだ。

ユキだ。間髪入れずに『拒絶』を発動し、傷をなかったことにしている。



──見えたぞ、ガルファ



今ならわかる。


あの未来で俺が殺された理由。そして、今この瞬間の違和感。ガルファの能力は、ただの身体強化や神速じゃない。



「弾いたはずなのに刺さっていた」。つまり、過程を無視して結果を押し付ける──もっと、確率に干渉するような力のハズだ。



──────ならば。


避ける必要はない。いや、避けても無駄だ。ならば、受けて進む。



「ユキ! 援護を頼むぞッ!!」



俺は叫ぶ。

致命傷以外は全て行動リソースとして支払う。



ユキなら、俺が死なない限り、それ以外のダメージを瞬時に『拒絶』してくれるはずだ。



「......チッ、小賢しい真似を!」



ガルファの表情が歪む。

彼は既に次の攻撃動作に入っている。俺の急所を確実に貫く、「必中」の構え。



だが、その予想範疇を超えてみせる。



「チャージング=ストレングス......バーストッ!!」



ドォォォォンッ!!!!!



地面が爆ぜた。



速い。



今まで感じていた、世界とのズレが一切ない。重い枷を外したように、思考と同時に身体が弾丸となって飛び出す。



「なッ......!?」



ガルファの顔をちらりと見る。

その顔に張り付いていた余裕と冷徹さが剥がれ落ち、焦りと驚愕が浮かび上がっていた。



ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ!!



不可視の刃が閃く。左腕、右腹、左太もも。



ドンッ、グシャッ、ザシュッ!!



三点。

ガルファの描いた「確率」通りに、俺の身体が貫かれる。



だが。



「......だ、から......どうしたッ!!!」



「バカなッ!?」



そんな攻撃程度、『必ず』受けるとしても、俺の行動に支障はない。痛みはある。肉は裂けている。



だが、俺の足は止まらない。



俺は被弾の衝撃を無視し、驚愕に目を見開くガルファの懐へと、魔剣『ヴァルセリア』を叩き込んだ。



ブンッ!!



漆黒の魔剣『ヴァルセリア』が、ガルファの首を刎ね飛ばす──その寸前。軌道が「ズレた」。



俺の太刀筋が歪んだのではない。世界そのものが、ガルファの首が刎ねられるという未来を拒否し、強引に座標を書き換えたような違和感。



その刃は、寸でのところで神技とも呼べる回避により、空を切った。



......なるほどな



運命の操作は、必中攻撃だけでなく、絶対防御としても使えるってことらしい。確率をいじって「当たるはずの攻撃」を「当たらなかった」ことにする。チートもいいところだ。



だが。



「なら、確率ごと焼き尽くすまでだ」



パチンッ。



俺は左手で、乾いた指を鳴らす。たったそれだけの動作。だが、指先に集束した膨大な魔力とエクタが、世界を震撼させる。



「イグニス=ノヴァ」



ドォォォォォォォンッ!!!!!



詠唱破棄などというレベルではない。

俺の意思に呼応し、空間そのものが発火したかのような紅蓮の爆炎が、ゼロ距離でガルファを飲み込む。



「ぬ、ゥゥゥオオオッ!!!」



爆煙の中、ガルファの咆哮が轟く。効いている。だが、死んではいない。

炎を切り裂き、焼け焦げた服と皮膚を晒しながら、ガルファが修羅の形相で飛び出してきた。



「この......化け物がぁッ!!!」



ヒュンッ、ザシュッ、グシャァッ!!!!



神速の刺突連打。俺の心臓、喉笛、眼球。人体において「死」に直結する急所のみを、正確無比に貫く運命の刃。



だけど、今なら死ぬ気がしない。そんな全能感と、自身が思考を覆う。



「ガ、はッ......!」



視界が赤く染まる。



心臓が止まる感覚。血流が逆流する悪寒。普通の人間なら、痛みを感じる暇もなく絶命しているダメージだ。



だが──俺は「止まらない」。



ドクンッ!!



背後から、ユキの強烈な『拒絶(リジェクト)』が叩き込まれる。



止まった心臓が無理やり動かされ、潰れた眼球が再生し、千切れた血管が繋がる。「瀕死」という状態異常を、気合と魔法でねじ伏せる。



「な......ッ!?」



「はァアアッ!!」



俺は心臓を貫かれたまま、ヴァルセリアを振り下ろした。ガルファが驚愕に目を見開き、レイピアで受け止める。



ガギィィィンッ!!!!



火花が散る。俺は血反吐を吐きながら、ニヤリと笑った。



「狂っている......!」



ガルファが初めて、恐怖に近い感情を吐露する。



「褒め言葉として受け取っておくよ」



俺のテンションは、死線を反復横跳びするたびに、更に駆け上がる。

楽しい。熱い。



これが、俺たちの全力だ。



「さあ、やろうぜ。ガルファ」



俺は魔剣を構え直し、世界に宣言する。



「ここが、俺たちの......運命の一戦(ターニングポイント)だ──────!!

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