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百折不撓のアルゴリズム  作者: 一ノ瀬隆
4章 可逆不能のノーステップバック 上

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74話 再起´

基地からの脱出、そしてエデニアムの副基地への旅は、困難を極めた。



円卓は、この支配された都市の至る所に兵士を配置している。

奴らは顔を隠すフルフェイスの兜を被り、機械のように巡回を繰り返している。

俺が「レイ」だということはまだバレていないが、見つかれば即座に戦闘になり、今の俺ではただの雑兵相手でも命取りになる。



......クソッ、ここも通れないか



俺は瓦礫の影に身を潜め、荒い息を殺す。

まずい。このままでは、何も情報を持ち帰れず、あの森へと──「死」という形での強制送還になってしまう。



それでは意味がない。

この『詰み』を変えられる何かを見つけるまで、無駄に死ぬわけにはいかないんだ......!



だが、その願いも空しく、俺の意識は限界を迎えつつあった。



数日間の絶食による飢餓。逃走中に負った擦り傷や打撲の、杜撰な処置による炎症。それらが確実に、俺の身体を内側から蝕んでいく。



まだだ、まだ......俺は......



足がもつれる。

視界が歪み、地面が迫ってくる。



その時。

冷え切った俺の身体が、とても温かい、優しい光に包まれた感覚がした。



◇◇◇◇◇



「......様!!」



「......レイ様!!!」



悲痛な、けれど聞き覚えのある声に、俺の意識がハッと引き戻された。

重い瞼を開ける。



「ここは......」



無骨な鉄の天井。消毒液と、古い羊皮紙の匂い。

見覚えがある。ここは、俺がかつて50回の敗北で見た、エデニアムの隠し副基地の医務室か......?



「......レイ様」



俺の傍らで、一人の女性が涙を浮かべていた。



「ソフィア......なのか?」



そこにいたのは、俺の知るソフィアだった。



だが、あの頃とは違う。


目元には皺が刻まれ、その美しい銀髪には白いものが混じっている。

そして何より、その腕や首筋には、幾多の激戦を潜り抜けてきたであろう無数の古傷が刻まれていた。



10年。

俺が眠っている間、この人はたった一人で、この絶望的な世界と戦い続けてきたのだ。



「よかった......。やはり、レイ様は生きていたのですね」



ソフィアは震える手で俺の手を握りしめ、安堵の息を漏らす。その力強い眼差しは、俺が知るソフィアのままだった。



「......もう覚えていないかもしれませんが、昔にレイ様にかけたままだった魔法が、私とレイ様を繋げていたんです」



ソフィアが懐かしむように、そして少し寂しげに目を細めた。



「ああ。......覚えているよ」



俺の脳裏に、かつての激戦の記憶が蘇る。

円卓の刺客、クオカミとムラク。あの二人と戦う際、ソフィアが「万が一」の保険として俺にかけてくれた転移の魔法だ。



そうか......あの魔法か。



俺を敗北から幾度となく再起させてくれた、命のパス。クオカミとムラクを倒したことで、あの時は使われることなく終わった。



だが、その見えない糸は切れずに残り続け、この10年という途方もない時間を超えて、俺をこの場所へと導いてくれたというわけか。



「ありがとう、ソフィア。本当に、助かったよ」



俺が頭を下げると、ソフィアは涙を拭い、居住まいを正した。ここからは、辛い現実を話さなければならないと覚悟を決めた顔だ。



「......それで、この10年。一体何があったんだ?」



俺の問いに、ソフィアは深く息を吸い、重い口を開いた。



「あの森からレイ様が帰還されず......数日後でした。ロンベルに、円卓第一席ガルファ=メオア率いる、円卓の全軍が押し寄せたのです」



「全軍......ッ」



ガルファはすぐさま、行動を起こしたのか。



「私たちは抗戦しました。ですが、レイ様不在の穴はあまりに大きく......。それに、敵陣の先頭には」



ソフィアが言葉を詰まらせ、俯く。



「......ユキ様の、亡骸が。見せしめとして掲げられていました」



「............ッ」



心臓が鷲掴みにされたような痛みが走る。

やはり、あの時見た光景は幻覚じゃなかった。ユキは本当に、殺されたんだ。



「ユキ様の死が確認され、エデニアムの士気は崩壊しました。スミス殿やイーシア殿の奮闘も空しく......私たちは敗走し、ロンベルは陥落しました」



ソフィアの声が震える。

それは、彼女にとって最も屈辱的で、悔やんでも悔やみきれない記憶。



「その後は、なし崩し的でした。抵抗の要を失った世界は、瞬く間に円卓の支配下へと落ちました。......今の世界は、彼らの『理想』という名の管理社会。私たちは地下に潜り、こうして細々と抵抗を続けるのが精一杯なのです」



ソフィアの話を聞き終え、俺は天井を仰いだ。



最悪だ。

俺が封印されていた間に、守りたかったものは全て壊され、世界は終わってしまった。



......だが



俺は拳を握りしめる。



タイムシフトの発動条件は、やはり満たしている。



そして何より、目の前にはソフィアが生きている。



彼女という協力者がいれば、魔力がない今の俺でも、何か手があるはずだ。



そう、俺が微かな希望を見出した、その時だった。ソフィアが意を決したように顔を上げ、更なる朗報を口にした。



「レイ様。今の状況は、仰る通り絶望的です。......しかし」



ソフィアは俺の目を真っ直ぐに見つめ、震える声で告げた。



「今この場に、聖剣は、──────あります」



「なッ......!?」



ユキの愛剣、聖剣リュミエール。

ユキが死んだのなら、円卓に奪われたか、あるいは主を失って消滅したと思っていたが......。



「聖剣は、再びあなたと......レイ様と話したいと、おっしゃっています」



ソフィアは噛み締めるように、その希望を口にした。ユキの魂の一部とも言えるあの剣が、俺を呼んでいる。



「案内してくれ、ソフィア」



俺の言葉に、ソフィアは力強く頷いた。



再び、あの聖剣と話すことが、反撃の一歩になることを信じて──────。

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