71話 もう一つの正義
場所は、世界地図の最果て。
リスタリアの果てに存在する、常闇の城──円卓たちの根城。
重苦しい静寂が支配する会議室に、幼い少年の声が響いた。
「......ルター兄さんが死んだ。ぼくの能力で、たった今、その命の灯火が消えたのを確認したよ」
円卓第九席、イオ=タイパ。
小柄な体躯に似合わぬ、冷徹で、けれどどこか悲しげな瞳をした少年が、虚空を見つめながら静かに告げる。
その報告に、部屋の空気が凍りついた。
ロータシーに続き、ルターまでもが。
「......そうか、あのバカが。我らの制止も聞かずに先走って、その挙句にか......ッ!」
バンッ!!
重厚な机が、拳の一撃で軋みを上げる。
円卓第一席、ガルファ=メオア。
全ての円卓を統べる長兄は、弟を失った喪失感と、それを上回る自責の念に顔を歪めていた。
「すまない、ルター。俺がもっと早く、お前の焦りに気づいてやれていれば......」
ガルファは拳を震わせ、その荒れ狂う感情を無理やり噛み殺す。
そして、顔を上げた時──その瞳には、修羅の決意が宿っていた。
ここが転機だ。
これ以上、弟妹たちを無為に失うわけにはいかない。
自分たちの掲げる『理想』と、勇者が掲げる『拒絶』の運命。
そのどちらが正史となるのか。その行く先を決めるのは、次の一手なのだと。
ガルファが無言で立ち上がる。その背中から放たれる覇気に、誰よりも早く反応した者がいた。
「兄貴、まさか......!」
ガタッ!
円卓第五席、シプロ=ユインが席を蹴って立ち上がる。
直感で悟ったのだ。長兄が自ら、死地へ飛び込もうとしていることを。
「待ってくれ! 第一席のアンタが動くなんて早すぎる! それなら俺が──」
「座りな、シプロ」
シプロの肩を、横から伸びた手が制した。
円卓第三席、マガ=カイン。
高貴な出で立ちが感じられる美女でありながら、長女として誰よりも兄弟の和を重んじる彼女が、静かに首を横に振る。
「兄さんの顔を見なさい。......もう、決めた顔よ。私たちが何を言っても無駄だわ」
「クッ......!」
シプロは悔しそうに唇を噛み、ドカリと椅子に座り直した。ガルファは二人を一瞥もしないまま、部屋の出口へと歩を進める。
その視線の先には、扉の横で腕を組んで待つ男がいた。
「......ベター。俺はここで、勇者たちに引導を渡しに行く」
ガルファは、円卓第二席、ベター=サイプと目を合わせずに告げる。
「万に一つもないと思うが......もし、俺が負けた時。その時は、全軍をもってロンベルに突撃してくれ」
「............」
ベターは表情一つ変えず、ただ静かに頷いた。
「分かった。ガルファ、お前はあの二人を倒すことだけに集中してくれ。後のことは、全部引き受ける」
「......ああ」
短いやり取り。だが、そこには長年連れ添った兄弟だけが知る、絶対的な信頼があった。ベターがそう言った頃には、ガルファは既に会議室を出ようとしていた。
去り際。
ガルファは扉の前で立ち止まり、背中越しに、誰にも聞こえないほどの小声で吐き捨てた。
「......お前に、円卓の汚れ役を背負わせて、いつもすまないな」
「そんなの、何年も前に割り切ってるさ.......」
扉が閉まる。
後に残されたのは、来るべき総力戦の予感と、二度と戻らないかもしれない長兄への無言の祈りだけだった。
三章『快刀乱麻のブレイブハート』を読んでいただき、ありがとうございました!
物語はここから、幕引きに向かい急速にその熱力を上げていきます。
レイとユキ。そして、円卓。
さまざなな正義の行く末に、描く未来とは──────。
第四章、『可逆不能のノーステップバック』お楽しみに!




